小説 | ナノ



 約一年しか通ってなかった中学の同窓会で懐かしいと思ったなんて笑える。相変わらず佐久間くんと源田くんはうるさくて、そんな二人のせいで数回しか話したことない酔っ払った同級生のお守りを押し付けられた。しかもそいつは男が苦手ときた、面倒くさいことこの上ない。昔の俺だったら放っておいただろうけど、俺だって一応大人になった。まだふらふらしている女を一人置いていくことはできない。


「ふどうくん」
「なに」
「あの、」
「ゆっくりでいいよ」


 酔いはさめたらしいがまだ気分が悪いらしい。ちょっとシュンとした表情が捨て犬みてえで、関係ない俺が悪いことした気分だ。コイツの言葉を待ったまま立ち止まって空を見た。真っ暗の中星が散らばって、いつかどこかで見た空な気がした。


「不動くん」
「ん」
「好きでした」
「過去形?」


 そう言い返せば余計に顔を赤らめて、ぱちぱちとまばたきを繰り返した。大人になり昔のことにされて告白されたってムカつくだけ。だってこんな顔されたらわかっちまうじゃねえか。


「惨めだねえ」
「………」
「叶うかわからない恋で九年も会ってなかったのに思い続けてさ」


 わかってたのと震えた唇、声はかすれて聞こえない。本当にコイツはどうしようもないと思っている。だって俺なんか好きにならなきゃさっさと幸せになれただろうに、俺ばかり視界に入れ続けたコイツは馬鹿だ。


「こんな男のこと」
「やさしくしてくれたから」
「一回だけでしょ」
「三回だよ」
「ふーん、三回ねえ」
「おぼえてるよ、ぜんぶ」


 数回手助けしたり言葉をかけただけで何年も好きだなんて救いようのない馬鹿だ。ずっとそれを忘れてないなんて阿呆か、さっさと思い出にしてくれれば良かったものを。本当にどうしようもなく、俺の思い通りにならない奴。


「初対面の私の怪我の手当てしてくれた」
「偶々だよ」
「次の日会ったら怪我の心配して、ゴミ捨て付き合ってくれた」
「掃除サボってただけ」
「卒業式に元気でなって言ってくれた」
「最後だったんだから当たり前だろ」


 目の前にいる女は下手くそに笑顔を作る、でもそこから目が離せない。わかっていた、わかっていたけどこうやって言葉を返せるくらい覚えてる俺も俺だろう。


「それでも、うれしかった」
「そう」
「すきだよ、不動くん」


 やっぱりコイツより馬鹿なのは俺だ。一目惚れしただけで何年も何年も好きで居続けて、今日だって恋人がいたらとか結婚してたらなんて不安になったり、話せたらなんてちょっと期待してた。俺が素直じゃないのなんて、昔からだったか。


「適わねえな」
「ごめん、忘れてね」
「やだよ、好きな女からの告白忘れるなんてしねえ」


 帰るぞと言い彼女の手を引いた。アタフタしてるとか構ってられねえけど、とりあえず今日の別れの際に連絡先交換してデートの約束でも取り付けよう。そう思ってまた空を仰いだ。今日の夜空は彼女と出会った帰り道にみた夜空にそっくりだ。


サカサマ夜空



20120728
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