小説 | ナノ



 自分の中で懐かしいと思うことがいつしか増えた。鬼道に憧れながらも遠く感じたこと、源田と入院しながら悔しいと話したこと、不動のことが大嫌いだったこと、総帥が居たこと。それにいま隣に居る奴と出会った日のこと。
 高校生になってサッカーを続けているものの、なんだか最近少しだけ昔が恋しい。5年後、10年後自分が何しているかがわからないから不安なだけなのかもしれない。

 先週配られた進路希望の用紙にはまだ何も書けずにいる。確かなことはサッカーに関わっていたいってことだけだ。隣に居る奴は絶対まだまだ先だから、なんて言って考えてない。すっかり暗くなった帰り道を歩いていれば指先が冷える。そんな高2の冬、俺には進路を決めるのがまだまだ先なんかじゃない。


「さむいな」
「うん、寒い」
「女ってよくスカート穿いてられるな」
「がんばって堪えてるんだよ」


 明るく笑う隣を歩く女子を見ればそんな不安が少し掻き消されるような気がして、昔みんなで馬鹿しながら笑いあった時らしくもなく俺はこのままみんなと居たいと思ったことを思い出した。小さく吐き出した息は白くてなんだか少し笑えた。


「俺もこれくらいの寒さ堪えらんなきゃな」
「なんで?」
「…将来ペンギンのいるとこに住むんだ」


 ポカーンとする彼女に対し俺は苦く笑ってしまいそうになった。誰もがすぐ気付きそうなくらい不自然に誤魔化してしまった、これくらいの寒さに堪えられなきゃ色んな壁や将来に対する不安に負けてしまいそうだと思った。
 でもペンギンのいる所へ行きたいのは本当だった、のんびりと不安なんて感じず寒さに負けず笑って過ごしたい。子供だとか甘えだとか馬鹿にされたって心のどこかではそう思ってしまう。


「同窓会来れないねー」
「なに言ってんだ?」
「ん?」
「鬼道も行くんだぞ」
「佐久間、あんた…」
「ばかかお前は」
「…」
「お前や源田も行くんだよ」


 呆然とする彼女を見て馬鹿にされんのかなと、ちょっと目線を逸らす。ふぅっと吐いた行きは白く残りすぐに消える。それがまるで時間が目に見えるみたいだと思ったら、彼女の声が聞こえて現実世界に連れ戻された。


「みんなで?」
「おう、不動は入れてやらねえ」
「不動くん可哀想」
「アイツはいいんだよ」
「でも不動くん佐久間より寒いの駄目そうだもんね」
「だな」
「佐久間、約束ね」


 彼女が差し出してきた小指に自分の小指を絡めたら、彼女が笑う。この時間が止まればいい、そうしたらきっと俺は幸せだ。それもまた夢の夢で、すぐ現実に向き合わなければならなくなる。それが良いものか悪いものかはわからない。でも笑えてる今がなんだかんだ好きだ。


「佐久間くん酷くねえ?」
「不動くん!」
「不動居たのかよ」
「俺も行く」


 マフラーで隠れた口元に鼻が真っ赤な不動だって、今じゃ大切な仲間だ。偶にムカつくけど。そんな不動が叶わない夢だとわかってるはずなのに、そんなこと言うのが可笑しくて思わず笑ってしまった。彼女も隣で笑ってる、これはこれでちゃんと現実なんだ。


「ちゃんと俺もその話入れてよ」
「仕方ねえな」
「不動くん忘れちゃダメだよ」
「ハイハイ」


 現実から背きたくて、夢のままで終わることだとわかりながら、もし叶うならこうしたいなんてことを口にしてみた。誰にも言ったことなんかなくて、このまま変わらずいたいなんて気持ちをコイツだから言えたんじゃないかなんて思う。不動は盗み聞きしやがったけど別に今更気にしない。

 未来は一秒毎にぱくりと誰かが食してく。不安も希望も飲み込んで、更なる未来へと変えていく。


未来を食べる一秒


箱庭 様 提出



20120222

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