甘い香りを漂わせて、君はいつも僕の周りにいてくれる。 くたくたになって帰宅すると、やっぱりふんわりと、後ろに引き連れながらやってくる。 「それ、何の匂い?」 「え?何も付けてないけど」 僕と同じ洗剤で洗われているわけだから、ダウニーの香りなわけもない(ダウニーで洗ったやつ着たら、痒くなったからやめたんだ)。 君と一緒にいるようになって、もう何年も経つ。 だから、君のどんな表情にも、僕はすぐに気付く。気付くだけで取り分け何かするわけでもないのだけど、多分僕だけの、僕にしかない特技なんだと思う。 「がくと、」 寝る前にお決まりのキスをする。それはおはようのキスより寂しくてしっとりしている。君は僕の名前を呼びながら、不安そうな顔をキスでごまかす。そんな簡単に僕の眼は欺けないわけだが、君が思うようにしたらいい。 眠たげに細められた潤目に、僕はたまに理性をねこそぎ持ってかれる。 次の日の朝は君の不機嫌な、でもちょっと赤くなった顔と、ツンと反らす目を初めに、僕の目が認識する。 「岳人はあたしの話聞いてんのか聞いてないのはわかんない」 「聞いてるよ」 「嘘っぽーい」 ジットリと僕を見て、でも最後には、仕方ないなと甘い香りにピッタリな微笑みで僕を許すんだ。 仕事に行かなくてはならないのに、君は自分でも知らず知らずのうちに僕を引き止める。 「ねえ、遅刻するよ?」 「んー…もうちょっと…」 「減給されたら夜ご飯3日間抜きね」 「やだ!行ってきます!」 君は仕事が不定期に休みになるから、僕と重なるときしか同じ時間を丸一日共有することはない。 朝と夜は2人だけの時間をじっくり過ごすのはそのためだ。 帰る途中、僕はいつも君の欲しがるものを探す。 季節の果物、ヴィヴィアン・ウエストウッドのピアス、ヴィンテージもののブーツ。 僕は休日に君と出かけるのももちろん好きだ。君の好きなものも知ることができる。 でも、休日のベッドの中は格別だし、君を抱きしめるのもお気に入りだ。 帰ると君は昨日とは違う、いつ買ったか知らないような、初めて見るエプロンをつけて、匂いをおまけにつけて、僕を迎える。 「おかえり、今日はお好み焼きね」 「やった、手伝うよ」 僕はまた、実は君がろくに綺麗にお好み焼きを焼けないことや、ソースとマヨネーズ派の俺とは違って、ヘルシーにポン酢で食べることを知る。 何年もいるのに、お好み焼きにかける調味料さえ驚きである。不器用なのは知っていたが、まさかここまでだとは。お好み焼きがうまく焼けない人はかなり奇特だと思う。 こんな風に歳をとっていけたなら、僕は誰より幸せに違いない。 歳をとる過程を僕の目に焼き付けて、焼き付けている僕は、君の目に焼き付けられたい。 君の目の永遠の住人になるんだ。 君の匂いに包まれながら、毎日を過ごす、という毎日をくれるなら、僕は今から純白の花を探しに行くよ。そんな僕のことも、君はちゃんと見ていてくれよ。 見ている君の瞳に、僕はいる。 瞳の住人 甘い香りに抱かれて。 ------- 楔様提出作品。 1番好きなアーティストの曲を選ぶのはとても大変だったので、今流れてる曲からセレクト。 壮大なるバラードを選ぶのは珍しいです、ロックが好きなので。 これからも彼らを愛することを誓います。彼らはあたしの瞳の住人です。 素敵企画に参加させていただきまして、ありがとうございました。 |