あなたが隠すその寂しそうな微笑みに、もっと早く気付けたなら。 やさしい裏切り 真っ白いシーツを温めるのがあたしの役目だった。夜に弱いから先に冷たい海みたいな布団に入って、そうっと、だけど確実に温める。 寒いの嫌いだもんね、と思いながらあたしはあなたを待つのが好きだった。 まどろみの中、必ずあなたがあたしの頬にするキスが好きだった。 「起きて」 そう、そうやっていつもあたしを起こしてくれる。本当はずっと起きてるの。きっとあなたはそれも気付いているでしょう? 「レギュラス」 「何?早くしなきゃパンプキンパイ食べそびれるよ」 「…あたしそんな食い意地張ってない」 どうだか、そう言ってあなたはさっさと制服を纏う。あたしはまだこのぬくぬくした、冷たいシーツに包まっていたいのに。 「ほら、早くしろったら」 「…はーい」 あなたはすごくすごく紳士的だから、決して着替え姿を見たりしない。いつも読書をしたり窓の外を見たりしてる。 「お待たせ」 「本当に」 「それ要らない言葉だよ」 ふと外を見ると雪が積もっていた。どうりで昨晩はやけに寒いと思った。 あたしたちはすっかりガラガラになった談話室を抜けて食堂を目指す。地下にある談話室は、きっとグリフィンドールより冷たいんだろう。 温度も、心も、未来も。 途中で、陰気臭い見た目なのにうざったいポッターを見かけて、視線を追いかけたらエバンズがいた。 あんなふうにあたしも、あなたを見ているかしら。 「ちょっと、何ぼーっとしてんの。早く行くよ」 またパンプキンパイのことを言う。本当は自分が食べたいくせに。 あなたはあたしが、どうしてぼーっとしていたかなんて聞かない。 聞かなくても分かるから? いいえ、今はもう、そんなことに気をとられてる場合じゃないから。 バレないように、そおっと息を潜めてる。あたしは知らないふりをする。 「あたし結局1つも食べなかった、パンプキンパイ」 「知らないよ、動きが遅いのが悪いんだから」 息を、潜めてる。 誰にもわからないくらいに、心の奥ではすごいことを考えているのに。 「今日も優等生さんは夜のお散歩?」 「厭味ったらしいなあ」 就寝時間30分前、あなたは真っ黒なローブをかけてあたしに背を向ける。 「クリスマス休暇は帰るの?」 「いや、残るつもりだよ」 「珍しい」 「たまにはいいかなって」 パンプキンパイも食べれるし。 「来週末のホグズミートも行く?」 「うん」 「よかった」 よかった、本当に。 あなたにあたしをのこしたかった。 あたしにあなたを刻みたかった。 願いが叶う。プレゼントはもう決まってる。去年見つけた、ペンダント。 きっと2人でつけて歩いて、みんなに冷やかされるんだわ。付き合い始めた頃もそうだった、あの下品なお兄様筆頭に。 「行ってらっしゃい、レギュラス」 「、行ってきます」 またあたしは寂しそうな笑顔に気付かないまま、冷たい白い海に沈んでいく。 あなたは帰ってきて、あたしの頬にキスをする。 (言えない黒い闇) (知らないふり) (知らないふりも知らないふり) ---------- シレンシオ様提出作品。 あたしの中で、レギュラスがいなくなったのはクリスマスの後とか、寒い季節なんです。 企画参加楽しかったです、ありがとうございました◎ |