痘痕も靨番外編 蜻蛉 今年は暖冬。断言できる。12月だというのに20℃を超え、まだ木は葉に身を包んでいる。 道路に落ちた葉のサクサクした音に、彼女はニコニコしながら逐一反応を示す。 「埼玉の神社は夜に紅葉をライトアップするんだって!」 「へえ、行きたいんか?」 「そりゃあ行きたいよ!でも車じゃないと行けないんだって〜」 そんなん、免許取ったら連れてったるわ。 なんて、素直になれない俺は言えない。 わざわざ落ち葉が固まる場所を歩く彼女と、俺との間にはいつの間にか距離が生まれていて、無性に不安になる。 「ね、聞いてる?」 「いや、全く」 「光ってそういうところがマイナスにしてるよね」 「何やそら」 「光ポイント」 意味ワカラナーイ。 彼女はもう落ち葉踏みに飽きたのか、俺の隣を歩いた。 光ポイント。彼女の光ポイントとやらは、今どのくらい貯まっているのだろう。 「光のお兄さん、連れてってくれないかな!」 「連れてってくれないわな」 「なにゆえ!即答なにゆえ!」 やけにテンションが高くて、何だか酔っ払い相手に話しているような気になってくる。 というか、なぜ、いや、なにゆえ彼女は俺が兄に頼みたくない理由がわからないんだ。なにゆえこんなに鈍いんだ。 逢沢にそれは聞いていたし、合宿での経験上わかっていたが、所詮つもりだったようだ。なにゆえ、ハマるな。 「年末年始は忙しいから。てかさすがにそんな寒いところじゃ、もう紅葉終わってんとちゃう?」 「…確かに」 さっきのテンションどこ行った。 いきなりがっくりして、トボトボと歩き出した彼女は、チラチラ俺を見る。 「来年早めに頼む」 「…埼玉まで電車で行って、あとはタクればええやんけ」 「そんな金はどこにもない!光の懐には!」 ザ・図星。 間違いない、彼女のように、日常的に万札が財布に入っているなんてことは、まずない。あってもお年玉期間だけだ。 俺はそんなに行きたいのか、と彼女を見遣る。 「、その視線…あたしにタクシー代をたかる気か…」 「ちゃうわアホ」 バシンと頭を叩くと、違うのかという驚きの視線を向けてくる。 「再来年まで待っとれ。俺が免許取ったら連れてったるわ」 信号から目を離さないように、彼女に言った。恥ずかしくて彼女のことを見るのは不可能に近い、というか無理。 素直じゃない僕の告白を聞いてくれ 「えー、やだ。来年がいいもん」 「ほんまに死ね」 ----- 5000 hit企画はこれにて終了。 長かったですね、あたしが亀より遅くて… 条約さん、光、おつかれ。 |