あたしの彼氏は恥ずかしいほどに素直だ。彼氏といっても、幼なじみが抜けないのだけど。まあそう、岳人は大体は素直。思ったことが血色のいい唇からサラリと紡がれる。 だから今みたく先生に、 「つまんねんだもん、小林の授業」 なんて言っちゃって、5秒くらいしてからサーッと真っ青な顔で逃げるなんてことはしょっちゅうある。宍戸はにやにやして見てる(小林が嫌いだからって、やらしい性格)。 「あー、危なかった」 「どちらかと言うと、3階から飛び降りる方が危ないと思う」 「俺だからへーき」 昼休み、ガツガツと弁当を頬張りながら彼は言う。まあ確かに何年間もあのプレイスタイルでテニスやってるから、あんま心配いらないかもだけど、そういう余裕が怪我のもとだと思う。 「サンキュー?」 「何が」 「…素直じゃねえのな、相変わらず」 「すみませんね」 ひひひ、と不気味に笑いながら、最後に残しておいた唐揚げを食べる。あたしはというと、サラダにドレッシングがかかっていなくて、まるで芋虫になった気分でむしゃむしゃとレタスを貪った。 あたしたちは学校ではそんなに話さない。クラスは同じだけど、あたしにはあたしの友達との時間も大切だから、四六時中、岳人といるのもどうかと思ったし、岳人も岳人のクラブメートや友達がいるし。学校での2人の時間は、人気が少ない、水曜日の旧校舎での昼休みだけ。家に帰ればすぐ会える距離だから、寂しいとかはない。あたしんちと岳人んちは、隣同士。窓を開けて、洗濯干し棒で岳人の部屋の窓を叩けば、夜中だって朝早くだって、いつでも会える。 あたしたちが付き合ってるというのは、何となく人づてに伝わっているけど、噂だけだと思う人も多いために、岳人はよく告白される。この間なんか、跡部の元カノ(超絶グラマラス美人)に告られてて、笑いそうになった。多分彼女は何も岳人を知らないのに、何故告白したのかな。 「おーい」 「あ、ゴメン。何?」 教室に戻ったら、4限は自習だったので、昼休みの延長みたいにあたしと岳人は雑談タイムを過ごしていた。あたしはときどきぽけーっとなってしまう。 「んーん、明日俺んち来る?弟が会いたいらしい」 「弟くん、久々だね。会いたいし行くよ」 そしたらいきなり岳人は不機嫌そうに眉を寄せた。何、今のに何かいけないポイントあったかね。 「あいつに会いたいだけかよ、ふーん」 「ヤキモチ?」 「ちっげえよばーか!」 えええー、そこまで怒鳴っちゃう? ってくらい、それはそれは、クラス中が静まり返り、隣のクラスまで確実に聞こえただろって感じの怒鳴り声。しかもばーか!ってところがすごくガキっぽくて、多分みんなあたしは悪くないって分かったと思う。 「岳人の方が相当馬鹿だよ」 「はあああ?」 「あたしが弟くんに会いたいのは岳人の弟だからでしょ。が、く、と、の、弟だからでしょ」 1回じゃわからないだろうと思い(馬鹿だから)、更に大切なことなので、2回言いました。 岳人はポカンとしてから、真っ赤になってあたしを見ました。自覚ないのか知らないけど、そういう仕草がモテ要素。 「、うん」 「うん、て何が」 「ありがとう、の、うん」 ありがとうって言えばいいのに素直じゃない。 変なところで意地っ張り 「好きだよ」 「、っはあ?何いきなり!しかもここ教室!」 「お前も俺のこと好きだろ?」 「嫌いだし!聞けよ!」 (どっちもどっち) 企画提出作品。 ありがとうございます。 |