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合宿最終日の夜、みんなは寝ないという若者パワーをここぞと発揮する。かくいうあたしももちろん起きてるつもり満々なのだけど、この状況…非常に宜しくありません。




痘痕も靨 番外編
朝顔



「条約ちゃん下ネタ平気やったやんな?」
「いや、平気ですけれど」
「そんなん、宍戸だろ?」


あたしたち3人は死ぬほど困っていた。
特にあたし。
じろちゃんは我関せずな顔してるし、光はじいっとあたしを見ている。岳人とあたしは冷や汗がやばすぎて、漫画にしたら多分顔中水まみれだろうと思う。



「なあ宍戸、どうなんだよ?」

くそ跡部、お前引っ込んでろよ!なんてあたしが言えるわけもなく、顔にバリバリ出ちゃう亮くんはあーうーって言ってる。




あたしたちが困惑し始めたのは今から15分前、恋ばなからの下ネタ系が始まってから。初めは手を繋いだのはいつか、とかデートしたのはいつか、キスしたのはいつか、というそれぞれの初体験についてだったし生温い思い出に浸りながら、そしてそれをやっぱりじいっと見つめられながら語っていたのだけど、下ネタになって立場が悪くなってきた。コスプレするなら、とかふざけたやつだったのに、今はリアルな初体験はだれか、という話になった。あたしが話す順番から3人遅い位置に座っている亮くんは、答えないあたしに代わって尋問を受け、逃れられないままオロオロしているわけだ。





「宍戸さんちゃうんやな」

「光、え、どこ行くの?」
「便所」



明らかに怒っている。
ばたんと音を立てて出ていった光を、あたしは追いかけようか迷ったけど、多分そういうのはしなくても光は帰ってくると思ったからやめた。追いかけたら喧嘩になりそうだし。

「…賢明な判断やな」
「え、あ、まあ…はい、何となくわかりません?」
「あいつ周り見えなくなるとすーぐ外出んねん」
「謙也みたくすーぐキレるよか頭ええわ」
「うっさいわ!」


ただ光が気になるのは当たり前だし、思わずチラチラと扉を見てしまう。

「で、誰なんだよ」
「俺だよ」


面倒になったのか、遂に自供し始めてしまった。
まあどうせ言うだろうとは思ってはいたけど、もう少し粘ってほしかった。


あたしたちがシたのは、別に好き嫌いの問題じゃなくて、興味本位だった。
保健体育で習うのは、今思えばわかりにくい上に生温い内容だったし、習うより慣れろって感じだった。














「せやけどまさかの!岳人って!」
「っるせえなー」
「確かにまさかのだよね」
「俺すげえ嫌だったもん、暴露しちゃうけどよ」
「悪ぃな、宍戸には悪いと思ってんだよ、うん」


そうだったのか岳人。
ちゃんと成長してんだね。と失礼なことを思っていて、また鳳くんに言われたことを思い出す。

いつも守られている自分。

結局岳人に助けられてる、自分。財前には自分でいわなくちゃいけない。


「あのな、ニスタット」
「何、日吉次期部長」
「殺すぞ」
「うそうそ、鳳くんもそんな目で見ないで」

「人間なんか、1人じゃ生きてけねぇんだから、何とかしなきゃって思うのはやめろ」
「あんたエスパーなの?」


わかりやすいだけだ、と日吉は言う。

日吉のことは、幼稚舎から知っていたし、仲もそこそこいいけれど、まさかここまであたしを理解してくれてると思ってなかった。















「光、便所じゃなかったの?」
「…便所、並んでるからやめたんや」
「何それ、どこまで行ってきたのよ」


あたしはみんな(の視線)に後押しされて、光が行くであろう近くのトイレに行った…らいなくて。あ、呼んだだけで入ってないよ!ここ大切!散歩しながら探してたらいました。庭みたいなところに。

「知りたい?」
「…ビミョーやな」
「だよね」



また沈黙。
怒ってるっていうより、凹んでる。
男は何で、初めてになりたがるんだろう。初めてなんて誰でもなれるのに。最後の方がずっと大切な気がする。もうそれ以上の思い出は作れないんだから。


「誰なん」
「…軽蔑されんのやだから、ほんとは言いたくない」
「せえへんわ阿呆。俺かて初めてなわけちゃうし、知っとると思うけど中学んときは部長みたいな、」
「1万円札だったの?!」
「ちゃう、プレイボーイの方や」



、知らなかったんだけど。
何このカミングアウト。
いや、もちろんこんなイケメンが初めてではないとは思ってたけども!まさかの白石部長アゲインかよ!



「…あー、墓穴掘ったパターン?」
「うん」
「…はあ」
「あたしも、多分白石部長みたいな感じだった」
「はあああ?」

「好奇心だったから、お互い」



特別な感情なんか1ミリもなかった。
ある意味特別かもしれないけど、幼なじみってのは。でもセックスって恋愛感情でするものでしょ。だから、白石部長とかわんないかなと思った。




「…つまり、向日さん」
「うん、そう」
「な、んや…よかった」
「はい?」
「忍足さんとかやったらほんまどないしたろかと」
「どないされてたかちょっと知りたい」
「…したろか?」
「心から遠慮します」



まあ確かに侑士先輩は話違うよね、わかるわかる。


「条約は俺のに嫉妬せえへんのか」
「そんな若くないし」
「ふーん」
「それに知らない人に嫉妬するの馬鹿馬鹿しいじゃん」


それもそうやな、って言いながら、光は溜息。
ごめんよ、可愛いげなくて。あたしたちはみんなが集まっていた(跡部先輩の)部屋に戻った。
繋がれた手がすごい熱くなっていたり、部屋に入る数歩前で不意打ちでちゅーされたり、何か感じることやすることは若いなあって思った。






「向日さん」
「んあ?あー、聞いた?」
「はい、さっき」
「まあー…俺は財前たちのことがちで応援してっから。過去は変えらんねえし、気にしないのは無理でも、条約のことだけ見てろよ」
「そんなん分かってますわ。ご忠告どーも」





なんて、2人が風呂場で火花を散らしていたとは露知らず、あたしはぐっすり眠っておりましたとさ。




………………
ちょっとシリアス風。
でもこういうのよく聞きますよね、初めてを異様に気にする男!
光は多分そこまで気にしないけど、誰かは把握したかったりする謎の時期がくるかなって思いました。





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テーマ「人外ファンタジー」
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