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あたしは林檎の花が好きだ。林檎は味が嫌いだけど。あたしは蓮根が好きだ。花は人喰い花みたいで怖いけど。だからそれと同じなだけで、深い意味なんて全くないの。

「人の話聞いとんのか」
「うん」




財前光のピアスとか見た目はすごく好き。
財前光の周りの人もすごく好き。
だけど財前光は嫌い。
財前光のアイデンティティを構成するものが嫌い。


「じゃあ俺が今何言うたか言うてみいや」
「…たまごかけご飯が食べたい」
「いっぺん死ね」


財前光は何故か修学旅行の班があたしと同じで、話さなくてはならない日が最低週1回ある。なんて可哀相なあたし。そもそも、財前光は何でこんなにスパルタなの?
別にアメリカなんかどこ行ったって同じじゃん、どこ行ったって太るじゃん。


「まあまあ財前、そないに怒らんとけや」
「怒ってへん」
「早く決めよ〜や〜」
「せやからお前は何がええんや。どこに行きたいか考えてくんの宿題って言ったやろ?」
「いや、だからさ、イタリア行きたいの」「アメリカって決まってんねん」
「アメリカ行くならもうどこでもいいよ」


周りを見渡せば、修学旅行で告白したる!って気合い入れまくりで若干引く肉食男子と、外国〜!って浮足立つミーハー女子がたくさんいて吐き気がする。

可愛げのカケラもないようなことを言っているようだが、まあ事実、可愛げなんかこれっぽっちもない、それは認める。けどもアメリカは本当に行きたくない。あたしはアメリカからの帰国子女で、先日帰ってきたばかり。修学旅行で行くようなところは大体行ったし、ていうか何でよりによってニューヨーク辺りなの?せめてフィラデルフィアとかロサンゼルスとかがよかった。あたしが我が儘(と捉えられる)なことを言っても仕方ないのだ、アメリカに行くのは毎年恒例らしいし我慢する他に術はない。


「条約ちゃん、そんなアメリカ嫌なん?」
「ていうかそんなイタリア好きなん?」
「アメリカよりは好き」
「あー!早うせえや!どこ行きたいねん、イタリア却下でアメリカでな!」

いきなり財前が叫び出した。そんなに帰りたいのかよ。部活あるだろうから帰れないか、部活行きたいのか。

「フィラデルフィア」
「あ゛?」「…景色綺麗なとこがいい、田舎ちっくな。以上、あとはみんなの意見に合わせる」






財前は始終いらいらしていた。あたしに対してだけじゃなくて、何か知らないけどクラス1かわいいあすみちゃんにもいらいらしてたし、仲良しのさんちゃんにも当たり散らしてたし、恐いって感情から呆れてきてしまった。さんちゃんは事情を知ってるらしくて苦笑いしてたけど、知らないあたしらからしたら迷惑以外の何物でもなかった。


「早う、せなあかんねん」


ちっちゃい声でそう言った財前は、あたしが行きたいと言った景色がすごい綺麗な田舎ちっくな橋の上で、あたしに告白した。あたしは初めに言った通りに、財前の顔や財前の周りや財前のピアスは大好きだけど、財前を構成する内面が嫌いだから、一言ゴメンと断った。

帰国してから初の登校日から、財前は学校に来なくなった。彼はあたしが嫌だ嫌だと喚いたアメリカにいるらしい。
お父さん、次のアメリカ出張はいつなの?



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