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多分俺にないものをたくさん持ってる、そんな塊。それがニスタットだった。
俺は自分的にはよくわかんねえけどガキっぽいらしくて、あいつは落ち着いてる中学生。まあさ、中学生なんだから俺はガキ上等だと思うわけですよ。上等ってちょっと日吉の下剋上等思い出すんだけど。今のメールだとWが小文字で2つつく感じ。
だから落ち着いてるニスタットと大人っぽい侑士が付き合うのは、当たり前のように感じたわけ。今までの侑士の彼女はすごい美人だったりすごい可愛かったりしたけど、ニスタットは平々凡々だし美脚でもない。ただ、雰囲気がキリッとさせるっていうか、んー、とにかく日本語って難しい。今のは左やじるしつくからチェケラしといて。

「だから何がいいたいんだよお前は」

「だから!何で別れたんだろうっつってんだろ!」
「そんなん忍足に聞けばいいじゃねえか」




聞けたら言いません。

宍戸や日吉は溜息吐いて俺を呆れて見てくる。超うぜー。
でも、仲良いからこそ聞けないっていうか…ずけずけ踏み込めるタイプとそうじゃないタイプって俺でもいるんだよ。宍戸と慈郎は幼なじみだから除外しても、日吉と跡部は聞けば答えてくれるし絡みやすい部類で、鳳はあんま話さないし(興味ねえから)、侑士と滝は入り込みにくい。聞くとはぐらかすし、はぐらかす=聞くんじゃねえカスってことだろ?やっぱり聞けないじゃねえか!っていう。仲良いって、何なんだろう。











「向日くん」
「ニスタットか、どした?」
「辞書貸してくれないかな」


侑士と付き合うことになったときから、ニスタットの友達はひがんだり取り入ったりしようとしていた。侑士は知ってか知らずかニスタットにべったりになって、それが更にいじめを呼んだ。侑士は勉強はできるけど、配慮が足りなかったり、自分が正しいと思いすぎる節がある気がする。俺はガキっぽい(ぽい、は頑なに言い続ける)からこんなことを言っても間違いかもしれないけど。


「ちょっと待ってて」
「うん」


以前と変わりない笑顔に安堵して、今なら聞けるようなそうじゃないような曖昧な予感がよぎったけど、好奇心が曖昧さを鮮明なものに変化させた。




「ありがとね」
「いや、珍しいな、忘れ物するとか」
「あー、まあね。勉強してたら普通に忘れた」
「そっか。あの、さ…」


踏み込みにくいタイプが侑士ならニスタットは断然踏み込みやすい、聞きやすいタイプなのに、何でこんなに俺は躊躇っているんだろう。
早く、知りたい。





「向日くん?」
「何で、侑士と…その…」


視線を合わせづらくて、廊下のすべすべした床を見たり、ニスタットの顔より下に位置するリボンを見たり、まるで告白してる女生徒みたいだ。気持ち悪いな俺。そんな俺はともかく、ニスタットはキョトンとした後に、聞いてないの?と平然と言った。
何を?何を聞いてないのよ俺。てか誰に。マジコンランシテキタ!


「侑士から聞いたかと思ってた」
「…なんか、聞きにくくて、さ」
「あー、意外とサラっと教えてくれるよ」



じゃあ、辞書は中休みに返しにいくね。
いつもの調子を全く崩さずに去っていく。何だか知らないけど、俺のこの知りたい欲求からなるモヤモヤを解消するのは、最終的に侑士しかいないようだ。
サラっと。サラっと教えてくれる。
ならお前が教えてくれたってよかったんじゃねえのか?と思ったけど、まあいいや。みたいなテキトーな感じを纏いながら俺は次の中休みを迎え、侑士のクラスに走った。


「侑士ーいっ」
「岳人かいな。どないしてん」
「んー、と…あー、あー」
「発声練習なら他当たってくれへん?」
「違う!」
「向日くん、あたしたちが別れた理由が知りたいんだって」


振り向くと、俺の辞書を抱えた条約がいた。
本当に別れたのか分からないくらい普通に話し出すニスタットは異様に見えた。多分俺だけじゃない。
侑士はああ、そういうことな、と言うとサラっと教えてくれた。








「お互い好きな子できたんや。それだけ」



好きな子。
前もそう言って別れて、ニスタットと付き合って、今回は違う気がしてたのに、俺の予想は全く当たらない模様である。


「向日くんの隣の席の子がすきなんだって」
「条約、何普通にばらしてんねん」
「いいじゃん、向日くんに協力してもらえば」


へえ、あいつね。あいつ、かわいいよな。声低いけど侑士に比べたら全然高いし。

「ってそうじゃないんだよ!」
「何やねん」
「何で前にはぐらかしたんだよ!」
「あー、あれは条約のすきな奴がまさかのダブルスパートナーやってんか、言うのに戸惑っただけや」



戸惑う必要があるのか。

侑士にはすきな奴がいて、元カノは侑士のダブルスパートナーがすき。ただそれだけなのに、ダブルスパートナーの俺に言えな…あ?俺?ニスタットは侑士のダブルスパートナー(向日岳人)がすき?

「うえええええまじか!え、え?嘘?」
「嘘ちゃう」
「ほんまほんま」
「文面で関西弁使うなよ紛らわしい!何?は?ニスタット俺のこと…は?!」


岳人うっさいわ、と顔をしかめる侑士はおいといて何故当事者Aのニスタットは何食わぬ顔してられんだよ。俺なんか顔が酔っ払い以上に真っ赤ですよ。

侑士は昼ご飯を食べ損ねた(今は5限と6限の間の中休み)らしくてクラスに消えていった。残された俺たちは、ていうか俺たちって何かやらしいな。俺とニスタットはてんてんてんまるみたいな沈黙の中、廊下に立っていた。


「向日くん全然気付いてくんないもんなあ」


ニスタットはちょっと困ったように言葉をこぼす。気付かないだろ、親友の彼女が自分を好きだなんて、普通思わない。


「侑士のこと、相談のってくれて、しかも他のいろんなこと…気付いてくれてたじゃんか」


だって侑士、周り見えてなくて本当馬鹿で、俺が気にしなかったらお前どうなるんだよ。









「迷惑?」
「いや、ちょっとビビったけど…迷惑じゃない」





「よかった、作戦成功!」






侑士は周りも、彼女の本質も見えてなくて馬鹿だったみたいだ。そんなこいつに落とされそうな俺も、相当馬鹿。



小悪魔の恋愛論

(意識してくれたならいいの)


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