into the woods | ナノ





ザップ

もぐもぐとお菓子を頬張るハルさんに、背後からザップさんが忍びよる。「おい」「ん」ザップさんはぶっきらぼうにそう言ったと思うと、ハルさんがザップさんの方を見ずにぽんとお菓子一つを放り投げる。「あー」綺麗に放物線を描いたお菓子はザップさんのぱかりと開けた口に無事にゴール。ザップさんが立つ位置をずらすこともせずドンピシャな投げ方と受け止め方。え、なに、いまのコンビネーション。僕の隣で一緒にその様子を見たザップさんの弟弟子のツェッドさんも若干引き気味だ。「ん、これ美味い」「新発売だって」「へー、また買ってこいよ」「お前ら、行儀悪いぞ」「ごめんなさーい」「すませーん」「全然謝ってないの丸わかりだからなー」テンポよく、途中からスティーブンさんも交えて進む会話に、穏やかに笑うライブラの面子。みんな慣れてるな、とツェッドさんと二人で顔を見合わせたのはばっちりザップさんに見られていて、おいそこ、変な顔すんじゃねえ、と怒鳴られるまであと3秒。



レオ

お金もない、甲斐性もそんなにない、いつも弱っちくて守ってもらってばっかり...。そんな僕がいつも驚かされるハルさんにサプライズを仕掛けるとしたら。「ハルさん」「ん、なあにレオ」これでいいのかわからないけど、やるしかない。ソファに座ったハルさんに後ろから声をかけて、彼女が首を回して僕の方を見たときがチャンス。素早く近づいて、でも勢いをつけすぎないように。歯が当たって二人とも痛みに悶えて失敗なんてしたくない。「ん、」ちゅ、と軽いリップノイズを立てて、一瞬だけだけど感じた柔らかい感触に頭がぼんっとショートしそうになる。慌てて顔を離してハルさんをみると、耳まで真っ赤にしたハルさんがわなわなと震えていた。「あ、あの、ごめ、そんなに嫌だったなら...」「い、いやじゃない...けど...」「えっ」「び、びっくりしちゃった...」わー、と顔を覆いながら弱々しく溢れた言葉の端は震えていて、普段からの様子じゃ見られない姿に僕も顔に血が上ってくるのがわかった。「レオも真っ赤...」だよね!僕も正直顔が熱くて熱くてどうしたらいいかわかんないです!



クラウス(flower前の話)

クラウスさんの蔵書はものすごくて、その中に入るととても落ち着く香りがする。事務所の中にある資料室は、クラウスさんの手入れする庭の次にわたしのお気に入りの場所。「ここにいたのか」大きな紅の体躯が、そのたくましさには似つかない可愛いらしい動きでこちらを覗く。「何か、不安で相談したいことがあるのでは?」膝をついて、座り込んで本を広げていたわたしに目線を合わせようとしてくれるクラウスさんの目はとても優しい。ああ、いつになってもこの人には敵わない。本をそっと閉じて脇に置いて、クラウスさんに両手を伸ばす。彼は何も言わずともその腕にわたしを抱きとめてくれて、優しい低い声でこう言った。「君は十分戦っている。不安でたまらないだろうが、我々が何としても解決する」子供をあやすように、大きな掌がぽんぽんと背中を叩くのが心地よかった。


レオ(if 死ネタ)

「レオ!!」どん、と突き飛ばされた背中に痛みが走るのと同時に、何かがぐしゃりと潰れる音がした。ガランガランという落ちてきた資材がバウンドして僕の方に飛んでくるが、それは僕を守るようにドーム状に生えてきた木の枝によって防がれた。いま、何が起こった?あの鉄筋が山になっているところは、どうなっている?握っていたはずのハルさんの手が、僕の手にない。は、は、と短く息が漏れる。山の中心から、じわりじわりと出てくるのは赤い血で、そんな、ハルさん。ドームの中から一歩も歩けない僕の目の前が、さあっと真っ白になった。



KK

「ハルっちぃ〜少しは可愛い格好しなさいよ!」いつもの服を着て事務所に行ったら、KKさんに怒られた。そういえば最近はずっと仕事続きで同じ戦闘服か突入用スーツか、もっとラフだけど女の子らしさのかけらもない服だったかもしれない。特に緊急案件も用事もないから行っておいでとクラウスさんとスティーブンさんに送り出されたのはショッピング。好きな雰囲気の服からいままで生きてきた中で着たことのないキラキラフリフリな服まで、目を白黒させながらたくさんのお店を回って"女の子らしいこと"をしているうちに、お互いの腕にはたくさんのショッピンバッグがかかっていた。「うちの子が可愛いのはいつもなんだけど、娘がいたらこんな感じかしらね〜」今HLで流行りだというスイーツをつつきながら、KKさんが零した言葉。思わず頬がほころんで、嬉しくなった。「わたし、KKさんがお母さんだったらなって時々思いますよ」「あらハルっち、嬉しいこと言ってくれるじゃーん?」KKさんのケーキの上に乗っていたイチゴがフォークに刺されて、ぐいっと口の中に押し込まれた。



スティーブン

「潜入捜査とは聞きましたけど...」この格好は聞いてない。慣れないドレスに羞恥心が勝って、まともに顔があげられない。短いスカートはこれだから嫌なんだ、と隣に立つスティーブンさんを睨み上げると、おお怖い、とさしてそんなこと思ってなさそうに両手をあげられた。「似合ってるよ」「こういうことならチェインさんの方が...!」「チェインに言われたんだ、君を連れて行って欲しいって」さしずめ恥ずかしいから生贄にされたというわけか。「それに、君はいつも少年やザップとか、チェインや同い年の友達と遊んでいるようだが...僕だってたまには誘いたいんだよね」え、それどういう意味ですか。



クラウス(レオ視点)

「お疲れ様で...」ドアを開けた瞬間の、あの威圧感。怒りに燃える緑の、底なしの修羅の道を往く者の飛ばすそれにあてられた僕は、足腰が笑って思わず座り込む。「レオ?」あとから入ってきたハルさんにも、クラウスさんの目は向けられる。しかしやはりあの鬼と同じ道を歩む者だからか、ハルさんは揺らぎもしなかった。「ミスタ・クラウス?」クラウスさんを見て、ハルさんは僕を見る。ブルブルと震える僕を助け起こし、背中をさすってくれる。その暖かさに思わず泣きそうになりながら縋ると、少しだけ落ち着いた気がした。「レオをお願いします」ニコニコと笑う彼女はいつも通りで、震えが止まらない僕をギルベルトさんに任せると、軽く跳ねながらクラウスさんに寄って行った。「ハルさ、」「レオナルドさん、ハル様にお任せして大丈夫ですよ」近寄ったハルさんは、そっと横から伏せられているクラウスさんの顔を覗き込んで何かを話しかけている。「ハル様は坊っちゃまの宥め方をよくわかっていらっしゃいますので...」見つめ合う二人は、まだ微動だにしない。





prev next