into the woods | ナノ




窓から外をみると、しとしとと降る雨があたりを濡らしている。事務所の窓にも当たるそれはだんだんと視界を歪ませて、いつも見ているHLの街並みが少し不思議に見える。
本を読む手を止めて、事務所の大きな窓を眺めていると、小さく近づいてくる足音があった。

「あいにくの雨ですね」
「ツェッドさん。お出かけしないんですか?」
「ええ、公園に行こうと思ったんですが...道具が濡れてしまうので」

毎週日曜の午後、アンダンタル広場の噴水前でやっている大道芸は、かなり人気が出ているそうだ。わたしも見に行ったことがあるが、幻想的に舞う紙の蝶はツェッドさんの感動が滲み出ていて、見事と言うほかなかった。
今日はその日曜だが、ショーは雨天中止の様子。
ソファに座って、ゆっくりおしゃべりするのも楽しいですね、と穏やかに言うツェッドさんはあまり気にしてなさそうだけど。
そうだ、と思いついたわたしは、テーブルの上に置いてあるティッシュを何枚か手にとった。

「来週は晴れますように...っと」

3枚ほどを丸めてひとつにして、広げたもう一枚のティッシュの真ん中に置く。そして広げた一枚の裏からきゅっと丸めたものを包んで、形を整える。首に巻くゴムや紐はみつからなかったから、シロツメクサを出して一回だけ結んで、出来上がり。

「それは?」
「てるてる坊主です。ここが頭で、ここが身体」

ティッシュを使って手軽にできる、お天気を願うおまじないだと教えてあげると、ツェッドさんは目を輝かせた。

「面白いですね...!」

ツェッドさんはその出自のせいか世界にまだまだ知らないことがあって、きっとキラキラしたもので満ち溢れているのだろうと時々思うことがある。彼の兄弟子とは大違いで、ツェッドさんを見ていると、とても微笑ましい気持ちになれる。

「ハルさん、てるてる坊主の頭は、真っ白でいいんですか?」
「あ、ちょっと待ってくださいね...」

それじゃ、仕上げよう。ペンケースから油性ペンをとって、にじまないようにささっとペン先を走らせる。うーん、あんまり似ないけど...。

「こう、やって...ほら、ザップ」
「おお...」
「やってみます?」
「はい、是非!」

こうして、今週の事務所のテラスには、9人と1匹の似顔絵入りのてるてる坊主が吊るされることとなった。わかったのは、ツェッドさんが絵を描くのが得意ということ。包むのは水かきのせいか少し苦手みたいで、わたしが作ってツェッドさんが顔を描くという流れ作業はあっという間にまとまって行った。

「わあ!これ、僕!ソニックもいる!」
「へえ、うまいもんだな。シロツメクサが首飾りで、可愛いじゃないか」

ギルベルトさんに紐をもらって飾り付けていると、レオとスティーブンさんが帰ってきた。口々に紡がれるてるてる坊主への褒め言葉。
そこで2人に、ザップ以外はツェッドさんが描いたんですよ、と伝えてみる。

「なかなかの出来じゃないか!特徴がうまく捉えられている」
「ツェッドさん、絵が上手いんですね!」

窓に紐をつけていたツェッドさんは、褒められるのに慣れていないのか、ちょっとだけ気恥ずかしそうにもぞもぞと動いた。

「嬉しいんですが、ちょっと恥ずかしいですね...」

あとから来たクラウスさんやKKさん、チェインさんも描かれた似顔絵をべた褒めだった。ただ、最初に見本で作ったわたし作のザップだけは本人に不評で、あまりにもボロッカスに言われたので少しだけ締めといた。

「なんでだよ!」
「自業自得だし」



次の日曜日はピカピカの快晴。てるてる坊主10個の威力は絶大かな、と思っていたら、先週の日曜日のようにまた近づいてくる足音があった。

「てるてる坊主のおかげでしょうね」
「ツェッドさん。公園行かないんですか?」
「今しがた行ってきたばかりですよ。先週できなかったせいかすごく好評で」

こんなに入れてもらったんです、と見せられたチップ入れは満タンで、わたしもただ「おお、」と感嘆の声をあげるしかない。

「ハルさん」
「はい」
「雨が降ったら、また作りましょうね」
「もちろん!」

あと、よければ、お茶に行きませんか?おずおずと切り出されたツェッドさんからのお誘いをわたしが断るはずもない。ぜひ、と笑って手を取ると、ひんやりした手がすこし気持ちよかった。


明日に引き継ぐおまじない




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