BBB | ナノ


07



もらった花は、押し花にして栞を作った。我ながら女々しいかもしれないけど、ハルさんの咲かす花を枯らして捨てるのはとても勿体無いと思ったからだ。
白い花はサイネリア。白に少しだけピンクの筋が入ったユリはオトメユリ。そして、感謝を伝えるあの時の青い花、ベルフラワー。
あの時芽吹かせた桜は、特殊な封印が施されてどこかHLではない場所へ移送されたらしい。
二度とみられないことにがっかりしたが、偶然服についていた一枚の花びらを見つけられた幸運は計り知れない。

「あ、これ」

今までにもらったそれを事務所の応接机の上に広げて考え事をしていると、クラウスさんと話し終わったハルさんが通りかかった。

「あ、え、ハルさん!!」
「あげた花?」
「そ、そうですよ」
「上手だね」

ストレートに褒められることに慣れていなくて、顔が赤くなる。一つ一つを手にとってしげしげと眺めるハルさんの表情は、ずっと笑顔ではなくなった。その代わりたくさんの表情をするようになっていて、百面相のように変わるそれは見ていて飽きない僕がいる。

「そういえば、クラウスさんと何を話してたんすか?」
「んー、ああ、わたしの、快復おめでとうパーティー、開くよって」
「朝からプリンター動いてたのそれだったんですね...」
「クラウスさん、かなり、張り切ってて...でもわたしも、かなり嬉しい。心配かけてたし、また一緒に戦える」

口調がたどたどしいのは、今まで筆談で会話していたのが元に戻り、しゃべりたいことと頭が追いつかないからだそうだ。戦う、という部分を強調したハルさんは、ツェッドさんが入るきっかけになったあの戦いに参加できなかったのがとても心残りだという。待つこともまたおなじく戦いに入るけど、やはり実際に戦場に行く方が向いている、と言っていた。

「そうだ、レオナルド」
「はい?」
「これもあげる」

いつの間にか一輪、また花を咲かせたハルさんが僕の手にそっとそれを乗せて、笑う。

「ラナンキュラス」

白いバラのようだが、少し丸みがあって可愛らしい花だった。

「何ていう花言葉なのかは...教えてくれないですよね?」
「教えない」
「クラウスさんに聞くのは...」
「ダメ!」

意外に大きな声が出てしまったからか、ハルさんは慌てて口を覆う。音が響く構造になっている事務所の中にすでに響き渡ってしまったあとだったからあまり意味はなかったけど、それは言わないことにした。

「は、はずかしいから、自分でしらべて」
「はずかしい...?!」

両手で顔を覆ってしまったハルさんになんて声をかければいいのかわからずデスクの方を見るが、クラウスさんはこちらを見てほっこり花を飛ばしていて、スティーブンさんは若いなあレオもハルも、と穏やかに笑っている。

「言葉にしちまえよハル。せっかく声が出るんだしな」
「うう......」
「ギルベルトは買い出しに行って不在だ。我々はキッチンに向かおう、スティーブン」
「そうだな、久々に昼飯でも振る舞うか」

うわー!なんで席外すの?!という疑問も虚しく、助けてくれない大人2人は事務所を去っていく。相変わらずハルさんは顔を隠していて、それから心なしかプルプルと震えていた。
そっと手を伸ばして、顔を隠しているハルさんの片手をとる。
出てきた顔は真っ赤で、つられて僕もなんだか赤くなってしまった。

「ハルさん...?」
「れ、れお、レオナルド、くん」
「はい?」
「あのね」
「はい」
「好き!!です!!」

思わずいつも閉じている瞼まで開けてしまって、爆発するかと思った。HLのどこかで爆発が起こってないことを祈りながら、僕はとったハルさんの手をぎゅっと握りしめる。
花を手渡す小さい手、僕を見て笑う顔、そして名前を呼ばれるたびに跳ねる心臓。どれも忘れられなくてずっとずっと、考えていたことだった。

先を越されるとか、思ってなかったけど。

「僕も好きです、ハルさん!!」

実はずっとチェインさんがビデオカメラを片手に張っていて、バッチリ録画されてたなんて、この時幸せに浸る僕らは知る由もないのだ。

flower



prev next