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06



「連れていってください。即刻検査します」
「え」
「言い訳は聞きません、問答無用です」

仁王立ちしていた医師はわたしの主治医のマサトさんというらしい。どうやらわたしは今から半年前、大事故にあって重傷を負って、ここに入院していたらしい。3か月ほど前にはけがはほぼ治りリハビリも始まって順調に回復してたらしいが、なぜかひと月ほど前こつ然と病院から姿を消したという。
そりゃあ、患者が無断で病院から抜け出せば大騒ぎになる。なにやってたんだ、前のわたし。

検査衣に着替えて検査室をいくつかめぐり、技師や看護師の何人かから「おかえりなまえちゃん、どこ行ってたの」「抜け出すなんてやるなあ」なんてお言葉をいただきながら最後に着いたのは診察室。入る前にカミツレさんに「ロビーで待ってるわ」とにっこり微笑んでいた。

「結果は良好、記憶以外には問題はなさそうですね」
「カミツレさんに聞いたんですか」
「ええ、そうですね」

どっかりと椅子に座るマサトさんの視線は依然としてとげとげしい。

「記憶については、ゆっくり取り戻していくしかありません。放り出したリハビリについては、これだけ動いているということは大丈夫でしょう。頭の痛みについては…心配ですからしばらくは静養して、週に一回こちらに顔を出してください」
「…あの」
「なんでしょうか」
「事故って、どんな事故にあったんですか?」

この質問は見落としていたらしく、マサトさんがぽかんとする。ほぼ記憶喪失の自分には、さっきから事故事故と言われてもピンとこないのだ。

「そうでした…何も覚えてないんでしたね…」

そう言われて机を漁って取り出したのは、一冊のファイル。差し出されたそれを手に取って開くと、大きな派手な字で"プラズマ団、トレーナーを負傷させる!"という見出しが躍る記事が載っていた。

「あなたのファイルです、持って行ってかまいませんから」

なんだか嫌な予感がする。



きおくそうしつ




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