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05



サンヨウシティは歩けば数日かかる距離らしいが、ポケモンの空をとぶを使えばあっという間につく、らしい。カミツレさんのスワンナ(友人にもらったポケモンらしい)先導のもと、慣れないポケモン飛行を体験した私は息も切れ切れになる…と思いきや、なぜか息切れもせずケロッとしていた。
こういうとこは旅慣れたトレーナーだったという気がする。実際にそうかはわからないけど。
(そういえばなぜわたしがそらを飛べるかといえば、あの直後にいくつかの地方を制覇したトレーナーだったことが判明したからだ。旅慣れはあながち間違ってないかもしれない)

「ありがとう、フライゴン」

お礼を言えば、気にするなと言う風に頭が摺り寄せられる。かわいいやつめ。めいいっぱい撫でてからフライゴンをボールに戻して、着地する前から出せ出せとうるさくボールを揺らすグラエナを出す。
こっちはこっちで足にまとわりついてなでることを要求してくるから、適度に撫でてスワンナをボールに戻していたカミツレさんを見た。

「病院はこっちよ」

画面では狭いここも、実際の町並みはずっと広くて大きい。実際にはやっぱり違うよなあ、と思いながらあたりを見回すわたしをみて知ってか知らずか、カミツレさんはそう言った。

「ここのレストランは以前はジムだったのだけれど、今はジムを畳んじゃったの」
「え…そうなんですか?」
「ええ、このイッシュ地方を一時期騒がせてたプラズマ団に負けてしまったのが原因らしいわ」


「俺たちは3人で1人前って言われないように、3人とも一人前って言われるようになりたいんだ」
「そのために、ジムを畳んだんだ。後悔はしてませんよ」
「修業期間ってやつかな…がんばらないと。だからなまえもがんばって」

―――目を覚まして、帰ってきてね。


あれ、今のなんだ。
カミツレさんの言葉に続いてバッと広がった光景は病院の一室。三色の頭がベッドの横に並んでいて、そこに横たわってたくさんの機械につながれているのは、わたし?

「―――なまえさん、なまえ?大丈夫?」
「ッ!はい!」

顔を覗き込んでくるカミツレさんの顔に明らかに心配の色が浮かんでいる。どうやら目的の病院の前に着いたらしく、出入口で突っ立ってしまったわたしは周囲から好奇の目を向けられていた。うわあ恥ずかしい。かあっと赤くなる顔を隠すように、慌ててグラエナをボールに戻した。

「とにかく、入りましょう。手続とかはわたしがやるわ」
「それくらいできますから!大丈夫です!」

それでも心配だからとついてきてくれるカミツレさんはかなり優しい。診察券とトレーナーカードを出してくださいといわれて受付のお姉さんに渡すと、みるみるうちに表情がこわばったのを見た時は何事かと思ったが。

すぐに突き返されたカード類に驚きを隠せずにいると、お姉さんは焦った声で内線の受話器を取りながらこう言った。

「なまえさん、3階の4番診療室へ"今すぐ"行ってください」
「へ、今すぐ?」
「何が何でも、今すぐです!」

お姉さんの気迫に負けて、慌ててエレベーターに乗る。カミツレさんも訳が分かっていないらしく、どうしたのかしらとつぶやいている。そうこうしているうちに3階に到着し、エレベーターのドアが開いた。

そこには予想外のことに、鬼のごとくすさまじい怒りのオーラを纏った若い男性医師が仁王立ちしていたのだった。

「なまえさん、今までアナタどこをほっつき歩いてたんです?」

コワイ。今めっちゃ泣きそう。


虎の尾を踏んだ愚者の話




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