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「あ!なまえ!いいところに!!」
「え、ポッド」
「荷物持ちが足んねーからちょっと手伝えよ!」

ライモンジムの次は、ホドモエジム。その順序に合わせて、ホドモエシティの周りでバトルをしていたわたしたちがおやつ休憩に選んだマーケット。
そこで大声をあげたのは、真っ赤な炎みたいな頭をした、紙袋で片腕が塞がったポッド。ルカリオとモーモーミルクを飲んでいたわたしは、有無をいわされず捕まってしまった。

「わたしたちまだバトルしようと...」
「休憩中だろ?」
「休憩中だけど...」
「よし、そうと決まれば!!」

ぐいぐい、と紙袋を持っていない方の腕で引っ張られ、ずるずると乗り気でないわたしを引きずり進み出す。

「おも...っ!歩けよ自分で!」
「えー、だって〜」

そんな都合よくポッドの用事に付き合うと思うなよ。そう心でつぶやきながら全体重をかけていると、ポッドがそうだ、と何か思い出したように言った。

「買い出し終わったら、俺は新作のメイン料理の試作をしようと思っている」
「うっ、それなに、誘惑?!」
「コーンは新しい茶葉でお茶いれるって言ってたしデントが新しいレシピでモモンのタルトも作るって」
「今度のメインはお肉?お魚?」

三つ子の作る料理はすべて絶品なのだ。胃袋を掴まれているとかなんとか言われそうだが、食べ物に罪はない。しかし、このあとのわたしたちに持たされる紙袋の数々で安請け合いが失敗だったと悟る。

「うーんと、あれも買った、これも買った、あっちも忘れ物ないな!」

よし、終わった!とメモを見ながらつぶやいたのは、最初の紙袋よりも大きな紙袋を抱えるポッド。
その隣で同じように荷物を抱えたわたしとルカリオは、やっとか、と少しげんなりした顔を見合わせる。広いマーケットの中をポッドについて行ったり来たりしていたから、足は既に棒のようだ。
順序くらい考えて買い物しろよ、と思ったけど言わない。わたしは空気の読める人間でいたい。

「長引いてわるかったな!帰ろうぜ!」
「そんなこと言ってまた忘れてたりしない?大丈夫?」
「うっせ!もう大丈夫だし!お前も病院はいいのかよ」
「うん、大丈夫じゃないと出歩いてないって」

ここ二ヶ月ほどで、週一の通院というのはほぼ記憶を取り戻すためのカウンセリングに変わりつつある。時々思い出したように痛む頭とか、意識が遠のいたときにぼんやりと見える光景のことをぽつぽつと話すだけ。全然記憶は戻らない。そんなときに、主治医に提案されたことが、トレーナー復帰だった。

『そろそろ、トレーナー業に復帰してみませんか?』
『!』
『実際に身体を動かしてみるのも、手かも知れませんし』
『やります!』

ずっとポケモンたちをボックスに閉じ込めておくのも申し訳ないし、なによりゲームではない実際のバトルには興味があった。最初はおぼつかなかった指示も、さすがに身体に染み付いていたというべきか。最初はレベルの低い野生ポケモン相手にやっていたバトルも、トントン拍子に調子を取り戻して、今では対トレーナーのバトルにも対応できるようになっていた。

「ガウッ」
「うん、明日はルカリオからね」

つぎのバトルの編成を考えながら、ポッドとバトルに関してああだこうだ言いながらマーケットを出る。サンヨウに比べて気温の低いホドモエの空気が頬を刺すと、ポッドがさみぃ!と悲鳴をあげた。

「帰ったらあったかいお茶が待ってるぞー」
「そうだな!さっさと帰ろうぜ!」

空を飛べるポケモンをボールから出してその背中に乗る。その時、ジムの方向から歩いてきた青年が、驚愕の表情をしてこちらを見ているのに気づいた。
え、わたし普通にフライゴンに乗ってるだけだよね?
何かおかしいのかとそちらを見たりフライゴンの乗り方を見たりオロオロしていると、彼は足元を歩いていた彼のチラーミィを抱き上げてどこかへ走り去って行った。

「...?なんだったの?」
「ガウ...」
「どうした?」
「うーん、よくわからない」

それにしてもあの顔、どこかで見たことがある気がする。何かひっかかるな、と思うと同時に少し頭が痛んだ気がした。


デジャビュがやってくる




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