08
「そっか、本当に忘れてるんだね…」
「う、うんそうだね」
「見つかってホッとしたよ、行方不明になったときはもう心配で心配で…」
「ごめんね、よく覚えてないんだけど…」
「無事で会えたことが何よりだし、謝らなくて大丈夫」
デント(以前は呼び捨てしてたからそうしてほしいと頼まれた)は、わたしの幼馴染らしい。ヤナップはわたしの顔を見るなり肩によじ登って嬉しそうにしていた。
「ポッドは騒ぐし、コーンなんて冷静かと思ったら突然わけわからないことし始めちゃって」
あはは、と面白そうに当時の様子を語るデント。いや、笑えないよ、コーンがバトル中に突然ヒヤップにかえんほうしゃをするよう指示したっていうの。無理だよ覚えないから。進化しても覚えないからね。
「グラエナも元気そうでよかった」
デントが、視線をわたしの隣のグラエナに合わせて、頭を両手で包むように撫でまわす。まんざらでもなさそうな顔でそれを享受するグラエナ。悪タイプなのに表情は甘々だ。
「帰ろうか」
その言い方にはなんだか、暖かい響きが含まれていた。
「うん」
辿り着いたのはレストランのすぐ近くのマンションで、デントが鍵を開けて中に招き入れてくれた。
「しばらくうちで静養して通院するといいよ、他の二人もそう言ってるし」
「…うん」
「これがうちの鍵で、こっちがなまえの部屋」
渡されたのは、ヤナップのキーホルダーを付けた鍵。さっき見た自分の貴重品入れに入れておこう。
「たぶんもうすぐ、みんな帰ってくるはずだよ」
一通り部屋を案内されて、通されたのはリビング。
なんだか落ち着かなくてそわそわしていると、デントがそう言い終わらないうちに、ガチャンと玄関の鍵が回る音がした。
「噂をすれば、だね」
バタバタ、と二人分の足音が慌ただしく近づいてくる。
勢いよく開かれたリビングのドアから覗いた赤色と青色が、私の顔を見るなり叫んだ。
「なまえ!!」
「おかえり!!」
こんなにむずがゆいおかえりって、聞いたことない気がする。
しらない家
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