novel | ナノ


◎擬人化設定

「こんにちは先生」
「ああ」

基地には何かを修理するラチェット以外に誰もいない。
大学が昼前には終わる日は昼食を持って基地にくるが、他に誰もいないというのは初めてだ。

「なに修理してるの?」
「...説明してもわからんよ」
「そうだね」

そっけない返事は予想通りだ。
ここでアーシーがいたら、そんなにそっけなくすることないでしょう、って怒りそうなくらいには。にぎやかなのを眺めているのが好きな私には、静かすぎるラチェットとの二人きりはつらい。

「そういえばヒューマンモードだね」
「ああ、こっちの方が便利な時がある」

人間の姿を模するのに最初は抵抗していたラチェットも、機械の細かい部分を手入れするのには最適だと気づいたのか、最近ではよくこの姿になっている気がする。

「上でご飯食べるね」
「ああ」

やっぱりそっけない。
ああ、早くみんな帰ってこないかな。

「今日の講義はどうだった?」

いつも人間用スペースで、みんなが座っている大きなソファに一人で腰掛けるのは少しさみしい。ランチボックスを広げてさあご飯だ、というときにふと声がした。
後ろを振り返ると、スペースに上がってきたらしいラチェットが白衣のポケットに手を突っ込みながら立っている。正直意外すぎてびっくりだ。

「さ、作業は?」
「もう終わった」

そっけなさはそのままで、こっちの方にやってきたラチェットがポスンとソファに腰を下ろす。それも、私のとなりに。

「で、講義は?」
「いつも通り、だよ...」
「そうか」

まずい、会話が壊滅的に続かない。苦し紛れにランチボックスのサンドイッチを掴んで齧る。ラチェットの方をこっそり盗み見ると、彼も気まずさは感じているのか青い目が泳いでいた。

「その、だな」

サンドイッチを咀嚼して黙り込んだ私に向かって、ラチェットが口を開く。しかしあー、とか、うーとかいう唸り声ばかりで続きがなかなか出ない。
噛んでいたサンドイッチも飲み込んでしまった。
でも次の一口を食べるのは気が引けたから、サンドイッチはランチボックスに戻した。

「私はお前のパートナーだろ」
「まあ...形だけね...」

パートナーとなったのは、とある事件がきっかけでこの基地に来て数ヶ月してからのことだ。しかしパートナーになったからとはいえ、他のみんなのように行動を共にすることも特にない。
不満があるかと言われれば、全くないので、気にしてもいなかったのだが。

「...それが問題だと言われた」

むすり、と不機嫌な顔。
これはオプティマスに言われたのかな、と雰囲気から考えてみる。彼の古い友人はきっと、一向にそれらしくならない私たちを見かねたのだろう。
必死に言葉を探すラチェットがなんだか微笑ましくなって、その続きを待つ。

「わ、私はこんな性格だから、その、分かりづらいかもしれないが」

ごほん、とここで咳払い一つ。改まった空気に、私も自然と背筋がピンと伸びた。

「パートナーとして、君について知りたいとは思っている」

驚いた。驚きのあまりサンドイッチは手から逃げていった。


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