戦場をひとつの影を追ってひた走っていくその小さな背中を、いまでもはっきりと覚えている。
じぶんよりも体格も覇気も大きな武士たちに紛れながらも、埋もれることなくその輝きを放つあの姿。
彼女の目的はただひたすらに銀色に追いつくこと。
『三成様!』
追うのは、刹那の間さえ彼女に視線を与えてくれない冷たい銀色。
そんな小さく儚い姿に惹かれて行ったのはいつのことだったか。
その綺麗な目であいつではなく此方をみてほしい。
美しく響く声であいつのではなく己の名前を呼んでほしい。
そう思い始めたのは、いつのことだったか。
「なまえ、ワシは豊臣のやり方にはついてはいけない」
「! 家康殿...」
豊臣の力での支配に心を痛めていたのは、優しい彼女も同じ。
なまえの持つ良心に、今迄の同情と自身の薄汚い独占欲を混ぜた"期待"を賭けて投げかけた。
「"此方"につく気は、ないか」
己なら、あいつの与えなかったすべてを与えられる。
聡いお前なら分かってるはずだ、と。
ゆっくりと顔をあげたなまえは、しっかりと此方の両目をみた。
「わたしは、石田の人間なのです」
どうしようもない、という顔で笑いながら発せられたその言葉。
彼女は豊臣でなく、石田だと言った。
それがどういうことなのかは、すべてわかっていた。
「そうか」
嗚呼、この小さなものは、己の一生をかけても手には入らないのだろう。
にぎりしめた砂
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