「辛気くせえ歌」
冬の屋上なんていかにも人がいそうにない場所。
教室で張り付けていた笑顔を消して、ただ淡々と"全てを投げ出してしまいたいのに誰かにいて欲しい"なんて矛盾した歌詞を並べ立てていると、低い声が鼓膜を震わせる。
「あ、青峰君……だったよね、来てたんだ」
驚いて振り向くと"不良"だと噂のクラスメイトがいた。慌てて取り繕うように笑うと、彼はつまらそうに「変な面」と私の質問をスルーしてそう言った。
――お前はデリカシーって言葉を知らないのか。
思わずそう切り返しそうになって、何とか呑み込む。笑顔が引き攣った気がするけど、そこは気にしない。
「……そうかな。ごめんね、何か邪魔しちゃったみたいだね」
持ってきたお弁当箱を包みに入れて、飲み干したカフェオレの紙パックをぐしゃっと潰して怒りを鎮めた。
――いきなり現れて、辛気くさい歌だの変な顔だのいちゃもんつけてきて、何様なのよ。
折角、教室から抜け出して一息つこうと思ってたのに逆にストレスが溜まった気がする。
「……何か、お前って生きにくそうな面してるよな」
教室に戻ろうとする私にかけられた言葉に苦笑を返す。
――生きやすい訳がない。
はじめて話した相手なのに、そう返しそうになった。心が疲れている証拠だ。
「そんな訳ないじゃない。毎日、楽しいよ」
「楽しい奴はあんな辛気くせえ顔する事ねえよ」
――何で、そんな事を言うのよ。
ギリギリと歯を鳴らして地団駄を踏んでしまいたい気持ちを押さえ込む。
「どうして青峰君、私にそんな事を言うの?」
「お前みたいな優等生が嫌いだから」
何でもない事のようにそんな辛辣な発言をした彼は自由だと思った。
他人に嫌われる事を恐れない、自分を曲げない真っ直ぐで強い人。
「私、青峰君みたいな人は"苦手"だわ」
――私と真逆、理解なんて到底無理な相手を"嫌い"と切り捨てないのは彼の言う"優等生"だからなのかただの臆病者なのか。
「へー……何で?」
「自分勝手で他人の気なんてお構いなしだから」
興味なさそうな声で問いかけた青峰君は、私の返答にはじめてこちらを見て楽しそうに笑った。
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はつさん/青峰大輝(黒子のバスケ)