死んだらどこに行くんだろう。ふとした瞬間、脳天からとびだした小さな小さなわたしの疑問は、ずうっとずうっとぐるぐるぐるぐるわたしの頭の中を回り続けていた。答えを求めるために、ごはんを食べるときも、トイレで用を足すときも、その疑問がうやうやと脳みそにしつこくわき出てくるのだ。

「死んだらどこに行くんだろう」
「いきなりどうかした?」
「死んだらどこに行くの?」
「質問に質問で返さないでよ...そうだなあ、天国じゃない?」
「天国ってどこにあるの?」
「さあ。宇宙とかそこらじゃない?」
「じゃあ、宇宙を探しまわれば、過去の偉人に会えるの?」
「知らないよ。」

わたしとトウヤの、質問に質問を重ねた会話は、トウヤの知らないよの一声で一蹴されることとなった。わたしも確かに変なこと聞いたけど、そんな怒らなくたっていいじゃない。トウヤは自分の思い通りにならないと、すぐにへそを曲げる、めんどうな癖がある。

「トウヤ、トウヤ、怒んないで」
「怒ってなんてないから」
「怒ってるよ、声が鋭い」
「怒ってないってば、もう。」

それなら顔をしかめないでよ。発語しかけたそれをごくりと唾と共に追いやった。これ以上怒らせたら、わたしのお財布が犠牲になるかもしれないし。わたしが黙ったせいで、止まってしまった会話。最後のトウヤの言葉で、なんともいえない雰囲気の悪さが、そこに散らばっていた。

「トウヤ、トウヤ」
「...なに?」
「死んだらどうなっちゃうのかな」
「またその話?」
「...ごめんね。やっぱりやめる。」

大人しく口を閉ざすと、トウヤは自分に非があるようではないかと、口をへの字に曲げて、ゆらりとわたしに倒れこんだ。

「死んだらまたいきるんじゃないの。ほら、輪廻なんちゃら、とか言うし。」
「輪廻転生ね。まあそれが一番答えっぽいよね」
「答えなんて求めたって出てこないんだから諦めろよ。」
「トウヤはロマンがないなあ」
「うっさいな。答え求めてどうすんだよ。」
「えーと、うーん。」
「ほら、意味なんてないじゃんか。」

トウヤの論すように、そして正しく曲がらない意見は、わたしを黙らせるに安易なもの。わたしは「でも知りたいんだもん」と駄々をこねるみたいに、しぶとくロマンをこねる。ロマンチストなんだ。しかたないでしょ。

「仕方ない。可愛い可愛いロマンチストちゃんのために、俺も一肌脱ぎますか。」
「なにするの?」

トウヤは「広い野原まで」とランクルスを出すと、ランクルスは小さく鳴いて、わたしたちを広い野原へテレポートさせた。「いでっ」尻から着地したわたしと、きれいに足から着地したトウヤ。トウヤはふっとわたしを一瞥して笑うと、ランクルスをひっこめてオノノクスを出した。

「ロマンチストちゃん、そこに居座ってると危ないよ。ほら立って」
「う、ん。ありがとうトウヤ。」

ぐいっと手をひかれてたちあがる。改めて周りを見渡すと、それはそれは広い野原だった。空は薄暗い。星もチラチラと見える。さっきの場所は夕方だったんだから、そりゃあここは遠いんだろう。

「ここどこなの?」
「さあ、天国かもね。」
「なにそれ。」

トウヤはわたしの腕から掌へ、手を移動させて、からめた。わたしのほうが温かい掌が、すこうし冷たいトウヤの掌と体温が混ざりあっていく。ポケモンの鳴き声ひとつしない。聞こえるのはトウヤの吐息と、オノノクスが動く度に感じる大地と空気の震動音。ほんとうにここは天国なんじゃないかとさえ錯覚する。

「オノノクス、りゅうせいぐん」

美しくて、そして力強いひかりがここに降り注いだ。大地の揺れでよろける。トウヤはわたしの肩をしかと抱いて、わたしを支えながら空を見上げた。まばゆいりゅうせいぐんが空を駆ける。

「流れ星には願いを叶えるちからがあるんだよな」
「う、うん。」
「いつもの俺ならきっとこういう、『流れ星は英語でスターダスト。つまり星の塵なんだ。広大な宇宙が吐き出したゴミに願うなんて馬鹿だなあ』ってね」
「うんうん、」
「そこはフォローしてくれよ...まあいいや、でも俺は今ロマンチストだ。」
「うん。」
「だから、たとえオノノクスが出した人工的な宇宙のゴミでも願い事をいうとしよう。」
「...」
「このお馬鹿なロマンチストちゃんと、死んでも、遠い宇宙の果てで暮らせますように。」

えっ。りゅうせいぐんになんて簡単にかきけされるくらいの小さな声が漏れた。思わずトウヤに視線を向けるけど、トウヤはオノノクスのりゅうせいぐんを見つめていて、わたしの方からはその心情を読み取ることはできなかった。

「三回、言わなきゃだめなんだよ。」
「そこはいきなりリアリストちゃんになるのな。」
「うへへ...」

例えば天国が宇宙の果てにあるとしよう。そこに誰かが来てくれるなんて可能性はいらないから、わたしは彼と手をつないでいれればいいと思う。水道とか電気とかガスとかもうそういう現実的な意見はいらないの。だってわたしたちは今、ロマンチストなんだから。







			
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