「あれ、みょうじさん……ッスよね?」
「え、黄瀬君?」

まさかクラスメイトとは言え、あまり関わった事がない彼が私を覚えているとは思わなくて、目を瞬くと、黄瀬君は何が面白かったのか吹き出した。

「いやいや、普通、クラスメイトなら顔くらいは覚えてるッスよ、どんな反応するんスか」
「私は全員は覚えてないよ」

普通、人間というのは自分を基準に考えるものだろう。だから、そう答えた。

「でも、俺の事は知ってるんスね」
「有名でしょ、モデルでバスケ部の黄瀬涼太君は」
「興味なさそうな反応ッスね」
「私はないからね」
「酷ッ!」

そう言いながら、また何が面白いのか笑った黄瀬君は私の横に座った。

「帰るんじゃないの?」
「みょうじさんこそ。こんな時間に公園にいるとか危険ッスよ」
「紳士だね、黄瀬君」
「えー、もし俺が声かけたのが下心だったらどうするんスか」
「そんなに女に困ってるように見えないけど」
「何言ってんスか、みょうじさん顔そこそこ綺麗だし、誰にも分け隔てないし、狙ってる奴はそれなりにいそうッスけで」
「ふーん。物好き」
「何でそんな結論が出るんスか」
「本当の私を見たら、ソイツらは私から離れていくよ」
「昔、イジメッ子だったとか?」
「まさか。そんな疲れそうな事しないよ」
「綺麗事吐かない所、信用出来て俺も好きッスよ」
「まともに話した事なかった癖に」
「じゃあ、今、好きになった」

近付いてくる顔を手で覆うと、腕を掴まれた。もうそこは痛くない、理解しているのに悲鳴が口からこぼれた。黄瀬君が目を見開く。

「……すいません、そんなに強く掴んだつもりないんスけど」
「大丈夫、黄瀬君のせいじゃない」
「でも、」

黄瀬君は腕を離したと思ったら、腕を捲った。春とは言え、夜はまだ肌寒くて身を竦める。

「これ、」

黄瀬君の視線は私の腕に釘付けになっていた。
火傷の痕を色濃く残した腕。それは醜いひきつれて、酷く見苦しい。

「別に、虐待とかじゃないわよ」

何を言いかけたのか理解して、私は腕を隠しながら言った。

「ただ、前に住んでたアパートが家事になった時に火事になって、その時に出来たの。だから、普段は包帯で隠してたんだけど、」
「リストカットでもしたのかと思ってた」
「まさか。私みたいな反応の薄い奴を苛めても楽しくないでしょ」

皆、勝手な妄想して私を悲劇のヒロインに仕立て上げていたようだが、そんな事実はない。

「まあ、これで分かったでしょ。離れていくって言った理由」

こんな醜い痕のある女を愛する物好きなんかいる訳がない。私にとって、恋愛を求めるのは空に浮かぶ月を掴むのと同じ位に大変な事なのだ。
自嘲するように笑う私を抱き締めた彼はきっと同情しただけで、すぐに離れていく。そう思うのに、月と同じ色の髪が私に期待させて泣きたくなった。







			
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