7周年/狂気的独占欲 | ナノ

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「よぉ…。今日もお前らは楽しそうだな…。
満月が近いからか?
いつもより活発に踊ってるじゃんか…。」

湖の手前、妖精に声をかければ、俺の存在に気づいた妖精たちは、ふわりふわりと不規則に上下に飛び回りながら俺の方へ近づいてきた。
くるくる…、とまるで自慢するように得意げに舞い飛ぶ妖精たち。
警戒心のかけらもない、なにもしらない子供のように純粋なその存在。


小妖精は知恵がないので、こちらの言語は理解できない。しかし、俺の表情や口調で敵意がないのはわかるのだろう。
今日も数体の妖精は、子供のような無垢な笑みを浮かべながら俺を出迎えてくれた

無邪気な妖精たちの顔に、ちょっと荒れていた心が和む。
こいつらの笑顔は本当に邪心がなく、純粋に俺を慕ってくれていた。ここにきてもう何度も俺はこいつらの笑顔で元気づけられている気がする。


「今日もちょっとヒドい怪我しちゃってさ…今日もちょっと邪魔するな…?」

そう妖精たちに断って、着ていた制服であるローブを脱いでいく。
月下の下、現れた俺の素肌は、やはりあちこちに青あざができていて、ただでさえ白い肌だから余計痛々しく見えた。


俺の傷をみて、妖精たちの顔が痛ましく歪む。
大丈夫?と聞きたげな眼差しで、何人かの妖精は俺をみつめた。


「大丈夫大丈夫…ほら、俺、インキュバスだしさ…身体は丈夫なんだよ…。魔力はまったくないけどさ…」

すぐ傷も癒えるんだよ…そう心配する妖精たちに、笑って続けようとしたけれど続けられなかった。


『ーーさすが、インキュバスの身体だ…』

ふと、脳裏に過ぎった言葉のせいで…。


『君がどんなにあらがおうと、君の身体は欲に負けてしまう。君が、インキュバスだから…』
『浅ましいインキュバス。男を欲しがる、一人じゃ生きていけない、可哀想な生き物。可哀想な種族…』
『君は、ただの性奴…。インキュバスに感情なんかないんだよ…。性に狂った、哀れなインキュバスには』

見下す笑いに、あざ笑う言葉。
もうあのころの痕はなにひとつ、残っていない。
残っていなくてもあの思い出は消えることはない。
思いでだけは、この湖でさえも、消えない。
どんなに自分を変えたところで…過去は消え去ったりはしない。

消したりたいと思っても…。
楽しい記憶もある。
愛された記憶もある。

でも、それ以上に忌々しい記憶が大きく記憶を支配している。まるで汚れてしまったシミのように、その記憶が他の楽しかった記憶を覆い隠す。


「くそ…」
女々しい自分に反吐がでそうになり、ガシガシと頭をかいた。
今日はどうも弱々しい気持ちに度々陥ってしまっている。なんだ…今日は…?厄日なのだろうか…。


 最近はジェイドのことなんて記憶の彼方においやって思い出す日もなかった。
最近はずっとあいつの存在なんて目に入らなかったのに…。
何故、今日はこんなにあいつのことばかり思い出してしまうんだ…。


「ジュネのやつのせいか…ったく…」

ジェイドに恋人がいる日は、大抵ジュネは機嫌が悪くなるのだけれど、今回はその機嫌の悪さがいつもの比ではなかった。

相手がエルフであり、しかもこの学園ではジェイド並に…とは言わないけれどそこそこ有名人で名が通っているから余計に機嫌が悪かったのかもしれない。

俺が悪態をつき舌打ちをすれば、妖精たちは顔を見合わせた。


「おまえたちに怒っているんじゃないよ…。
びっくりさせて、ごめんな…」

俺が謝れば、こくこく、と妖精たちは互いに顔を見合わせうなづきあった。
同じような顔の同じ服をきた妖精たちの、ぴったりなタイミングについつい口に笑みが広がる。


「みんなで一斉にうなづくなんて、おまえら随分仲いいんだな…」

感心してつぶやけば、妖精たちは、一端俺から離れると、湖の水面の上を滑るように飛んでいった。

ぴょんぴょん、と水面を飛び跳ねて、ちょっと期待した眼差しで俺を見つめる妖精たち。
妖精たちが放つ淡い黄色の光が、まるで道標のようにその場をほんのりと照らしている。

「遊ぼうってか…?はいはい、いまいくよ…」

いつものように湖に入り遊んでくれるのを心待ちにしている妖精たちにたちに苦笑して、服をすべて脱ぎ去り生まれたままの格好になった。

木の根の上に軽く畳んだ衣服をおき、地味な仮の姿になっていた変化の魔法もとく。

こんな学園からほど遠いマルビスの森深くまでくるやつなんていない。
こいつらも俺の素の姿の方が好きなようで、変化を解けばいつも嬉しそうな顔をする。

自分たちの前では偽りの姿でなくてもいいという現れだろうか?
それとも、ただたんに綺麗な容姿の方が好きなのか…。

俺は銀色の肩まである髪を靡かせながら、妖精たちが待つ湖に足をつけた。








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