7周年/狂気的独占欲 | ナノ

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「ねぇ、ジル。君は好きな人はいる…?」 

既になんでも話し合える親友とでも呼べる間柄になったとき、ジェイドが俺に尋ねた。

屋敷の庭、一面花が咲き乱れる場所。
蝶々がひらひらと優雅に舞う庭の花畑に座り込みながら、他愛ない話をしていたときだった。
俺に好きな人はいるの?とジェイドが訪ねたのは。


「へ…す、好き…」
「そう…。好きな子…」
「好きって…」

俺はインキュバスであり、今は常に男を漁っているが魔力覚醒するまで、インキュバスの血が目覚めるまでは純粋な子供であった。
好きや愛しているに夢を見ちゃうくらい、純粋で初だった。

そんなうぶうぶな子供だった俺だから、好きな子…と聞かれただけで、気恥ずかしい気持ちになって…

「そんなものいねぇよ…」

ジェイドの問いに、馬鹿みたいに真っ赤になって返事を返した記憶がある。


「そう…」

ジェイドはそのとき、俺の言葉に嬉しそうに

「それはよかったよ…」
と破顔した。


「よかった…?」

俺が小首を傾げ尋ねると、ジェイドはふっと唇に弧を描きながらほほえむ。


「そう…。まぁ…君に好きな子がいても、奪うつもりではいたけれど…。ねぇ、ジル…」
「ん?」

なに?
そう訪ねようとした言葉は、近づいてきたジェイドの唇にかき消された。
いつも優しい笑みを浮かべている唇が、俺の唇に重なった。
初めてしたキスは、どきどきを感じるよりもただただ困惑するもので…。


唇は、数秒重なった後、軽いバードキスに変わりちゅ、ちゅっ…と軽く落とされた。
いくら疎かった俺でも、それがキスという行為ということはしっていた。
その行為は主に恋人同士がする行為だとも。


「ジェ…イ…ド…?」

突然の出来事に目を瞬かせる俺。


「びっくりした?」
「びっくりって…だって…いま…」

キス、したよね?
俺の口にジェイドの口が重なったよね…?
あわあわ…とパニックになる俺と違い、ジェイドはくすくすと口元に手をやりながら、

「キスしたよ…。君に…」
と笑う。


「キス…って…」
「したかったから…」
「したかったからって…」

キスってしたかったからするものなのか?

子供で初でジェイドくらいしか友達がいなかった俺は、そういった知識も乏しい。
俺がわからないことをいつも教えてくれるのは、ジェイドだった。


だから、キスは友達同士でもするものだったのか…と困惑しジェイドに尋ねてみれば、ジェイドは困った顔で、それは違うよ…と返した。


「君が好きだからしたかったんだ…」
「す、好き…」
「そう…愛している…ってこと。
誰よりも、君を…。
ねぇ、ジル、僕は君が好きなんだ…誰よりも。ずっと、何度もキスしたいくらい…」
「え…」
「ずっとキスしたかったんだよ。
君を好きだと思った日から…。
ずっと君の唇の柔らかさを想像していた。
どんなに君の唇は柔らかく甘いものなんだろう…って。

実際君の唇は僕が思うよりもずっと柔らかで…。
今キスしたばかりなのに、またキスしたくてたまらないよ…」
「で、でも…、俺は…」


まだ魔力覚醒もしていなかった俺は、そのとき既に魔力覚醒もして通常よりも魔力が高く、博学なジェイドに憧れていた。

神・テオスや魔王サタンなんかよりも身近で、なんでもできるジェイドは俺にとって、誰よりも凄い存在で。
俺の中では神やサタンよりも一番凄い存在だった。神聖化していたんだと思う。
だから、そんな完璧な自分の中では誰よりも凄い存在のジェイドが俺なんか好きになるはずがないし、そもそも釣り合わないから…とジェイドの言葉に困惑しながらも


「俺は、ジェイドと違って…まだ魔力覚醒もしてないし…。
覚醒したとしても、魔力まったくないかもしれないし…。
それに馬鹿だし…ジェイドみたいな綺麗な天使になれるかもわからないし…」
と返す。


「魔力覚醒は、それぞれ時期は違うものだし…。

それに僕は君が全く魔力を持ってなくても好きでいられるよ。
魔力なんて、そんなのあってもなくてもいいじゃないか…。
それに君は馬鹿じゃない…僕が教えたこと、一生懸命覚えようとするだろう…?」
「それは…」
「それに、君は僕を綺麗といってくれるけど、僕からしてみたら、君の方が綺麗だよ…。

きれいな銀髪に、胸が暖かくなるような笑顔。
君だけだよ、ここまで僕を虜にするのは…」


俺は確かに容姿はそのころから綺麗だった。
でも、同じようにきれい…と噂される顔は村には沢山いた。
母さんのこともあって、俺は厄介者で…、俺自身、口下手で人見知りだから、面白い話ひとつできない。

綺麗な羽を持つジェイドとお近づきになりたい…と思う種族は多くて、俺はその視線を感じるたびにジェイドの隣にいていいものか…と疑問を抱いていた。

ジェイドは俺なんかと違って、村でも人気者で、村でもたくさんの友達を作っていた。
対し、俺にはジェイドだけだった。

好き…。
その気持ちを受け取ってしまえば、初めてできた友達の地位もなくなってしまうものだと不安もあったかもしれない。


「こんなに好きになるのは君だけだし、きっとこれからも好きにならないと思うんだ…」
「そんなことない…ジェイドならもっと綺麗な子と友達になれるし…。
もっと綺麗な女の子の…天使の方がいいんじゃないの?」
「君がいいんだよ」
「でも、俺はジェイドみたいに友達もいないし…」
「僕からしたら、その方がいいんだけどな…。君を独り占めできるんだもの…。
君だけが…僕のものでいられるんだから…。
僕の綺麗な天使でいてくれるのだから…」


とても凄い魔力をもって、きれいなジェイド。
そんなジェイドに、魔力覚醒もまだの、友達1人まともに作れない俺が好きだといってもらえるわけない。

あくまでも、俺の中でジェイドはあこがれで…


「俺にとっては…ジェイドはあこがれの存在で…」
「そうだね…君はいつもそんな目で僕を見ていた。
だけどね、ジル。僕は君に憧れてほしいわけじゃない。
もちろん、君のあこがれの視線がイヤな訳じゃないけれど…。僕はそれ以上に君の特別になりたいんだよ…」
「で…でも…俺は…」
「イヤなわけじゃないよね?
君も僕を好きだろう?」

そう訪ねるジェイドに困ってしまう。
嫌いなんかではない。
好きだ。
ジェイドは俺の初めての友達であり、なんでも教えてくれる優しい人だから。

でも、それが恋愛感情か?と聞かれると答えに困ってしまう。

「す、好きだけど…でも…」

愛している、とか…。
そんな感情知らない。
自分だけのものにしたい…なんて感情も。

子供だった俺は愛という感情がよくわからなくて…。
ジェイドの言葉に、どうしようかと言葉を重ねるんだけれど…

「うるさい唇はキスで黙らせようか…」

俺の言葉はジェイドの唇に奪われた。
幼い頃から頭も良く口もうまいジェイドだから、子供で年下な俺はいつもなにも言い返せず。
ジェイドの言葉に従ってしまうのだ。


それからというもの、ジェイドは俺に好きだと言ってきたし、今まで以上に俺を甘やかしてくれた。

ジェイドはあこがれの存在…。そう思っていたのに、いつしか俺にとってもジェイドは‘愛する’存在になって…。

あの事件が起こる。
仕組まれた、あの事件。

俺の魔力覚醒。

『僕に黙ってなにしていたの…?』

今でも、思い出すのは、ぞっとするような冷たい顔で、ジェイドが俺にいった言葉。

『ねぇ…ジル』

俺を好きだと言ったジェイドは…あの日に死んだ。
代わりに生まれたのは、ただただ黒い感情に苛まれた狂気的な存在。

『僕を裏切ったの…?
ねぇ…君は、他の誰かに簡単に肌を許せてしまえるくらいの…そんな愛だったか?ねぇ、ジル』

冷たい手で、俺の頬をなでて…

『お仕置きが必要だね…』

そのとき、ジェイドは言った。

俺の言葉なんて聞いちゃくれない。
俺の言葉なんて、ジェイドに届かない。

俺が好きだったジェイドはそのとき、死んだ。
ジェイドが好きだった、純粋な、俺も。

俺たちに新たに生まれたのは、憎しみと疑心だった。

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