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天使であるジェイドとインキュバスである俺。
5つの頃から魔力覚醒し、周りから注目されていたジェイド様。
対し、ただのインキュバスで魔力をためる量も少ない俺。
一見接点など全くなさそうな俺たちではあるが、俺とジェイドは幼い頃に出会っていて、お互いが一番の友だと思うくらい仲がよかった。
たぶん、一番大切な唯一の親友だと思っていたのは俺だけじゃないと思う。
‘あの出来事’が起こるまでは。
ジェイドは俺の唯一の友達であり、大事な人だった。
すべての機転はあの出来事からだった。
悪い大人にはめられたあの出来事。
あの出来事が起こってから、俺はジェイドを憎んだし、ジェイドも同様だろう。
あの日から、俺たちは大きな溝ができ、友とは呼べない間柄になってしまった。
あの日、あのときのあの出来事。
縋った俺に、あいつは冷たく言い放った。
『ねぇ…ジル、どうして君は…素直になってくれないんだろう…?どうしてここまで僕を好きにさせて、僕のものにはなってくれないんだろう…』
俺を好きだといいながら、あいつは俺じゃないやつの言葉を信じた。
あいつの熱くて優しい眼差しは、冷たくて俺を侮辱するような…それでいて切ないものへと変わっていった。
裏切られたことに憎み、それでも俺をほしがる気持ちが強すぎて…。
『この苦しみは…、君がいなくなれば解放されるんだろうか…。僕の前からいなくなれば…。そうしたら…』
キスをしながら、俺の体に傷をつける。
言葉とは裏腹に、俺を信じてくれないのはあいつのほうだった。
ほの暗い笑みを浮かべ日に日に壊れていくあいつに…俺は逃げることしかできなかった。
もはや壊れてしまったあいつに、俺はただの毒でしかなかった。
『君が…ジェイドの側を離れなければ…私は君を消滅させるだろう…。私は本気だ。それほどに、彼の才能を、そして彼の未来に賭けているのだよ。あんなに凄い存在は今後もう出てこないかもしれない…。それほどに私は彼の存在に惚れぬいているんだ
わかっているだろう?君は彼の毒でしかならない…。君は彼の側にいてはいけないんだ…』
天使のあいつに俺は不似合いな毒。
側に居続ければ、お互いにその致死量で破滅してしまうだろう。
好きという気持ちの形が変わり狂気じみた思いになってしまったあの日から。
あの出来事がなければ、俺たちはあのまま友でいられたのだろうか。
子供の頃のように、今も…。
たまに、ふとそんなことを考える。が、すぐに馬鹿な考えだと自嘲する。
あの日がなくても俺がインキュバスであいつが天使という事実は変わらない。
おきれいな天使様に、いつも生気不足で魔力をほしがり男と寝るインキュバスが友達でいられるわけない。
かたっくるしい天使様に、俺たちのような種族の生き方などわかりあえるわけがない。
俺を信じられなかったジェイドのように、もう俺もあいつのことを信じられないし、今後一生関わりたくない。
別れてから、もう二度と会うつもりはなかったのに…。
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