窓際の恋 | ナノ



 貴方と新しい人。

「携帯、何度も電話したのに・・・。これからは、出てくださいね」
別れる間際、修司はまた何度も念を押して、小暮と別れた。


別れる時に、見送るから、と言われて小暮が住んでいる家の近くまで付き添ってもらったので、もし今度約束を反故してしまえば、家付近まで押しかけにくるだろう。

それに、『会えなかったから・・・、』と寂しそうに自分を抱きしめる修司を見てしまったら・・・、もう逃げ出せそうにない。
甘え上手な年下の彼は、自分がどうやったら逃げないかよくわかっている。

(流されてる・・・)

修司に流されてる自分に苦い笑みが浮かんでしまう。
こうして、修司のペースのまま、自分は付き合っていくのだろうか。
付き合っていくうちに、深見のことを忘れられるだろうか。
深見と付き合えば、自分は楽になれるだろうか。

(好きって、言ってくれるし)

愛していると、何度も抱いてくれる。
会えないときは執着心をもって待っていたりもしてくれた。
今は、まだ恋愛感情はモテないけれど。
でも、好ましいと思う気持ちはある。それは、日に日に大きくなってもいる。
きっと、修司を好きになれば深見の一喜一憂に傷つく今の心は晴れるだろう。

(彼を、忘れる・・・、)

何より、自分を嫌悪する深見へ視線を奪われることもなくなる。
深見への思いさえ捨ててしまえば深見の言葉に一喜一憂する必要もない。
(こんな気持ちは、捨てたほうがいいんだよ・・・)

この気持ちを捨てれば、もうミスして深見からなじられたとしてもそんなに傷つかない、と思う。気持ちさえ捨てれば、もっと修司とも堂々と付き合える筈だ。
報われないこんな気持ちなんて捨てたほうがいいのだ。
こんな行き場のない思いなんて、虚しいだけ。


(副社長、)

会社の窓際。
部屋の隅にある自分のデスクに座りながら、小暮は手元の資料に視線を落とす。
金城からまた頼まれた、資料。
元々、小暮は金城がいた部署にいた。
金城がいる部署は深見の現在いる場所だ。
小暮と深見は少しの間だが、一緒の部署で働いた時期もある。

といっても、できる深見にはできる上司が教育係としてついていたし、深見は小暮を眼中にないものとして扱っていたけれど。

お小言を言われるようになったのも、部署が変わってからだ。

 (あの時も・・・、諦められるって思ったんだっけ・・・、)
深見が入社してからずっと秘めてきた恋心。
部署が変わるとき、離れればこの恋心が捨てられると思っていた。
その姿を瞳に映しさえしなければ、こうも思い焦がれることはない・・・と。
結果は・・・、今もこうして深見を見続ける日々が続いているのだけれど。

 深見を忘れて、修司と付き合う。そうすることが、自分にとって一番いいのではないだろうか…。

「・・・はぁ・・・」
溜息をつきながら、金城から頼まれていた資料を纏める。
いつも自分の仕事が終わった後に金城の資料を纏める為、時刻は定時を過ぎていた。
小暮の部署は元々女性が多く、部署的にも雑用業務がほとんどなので滅多に残業はない。

現にいま残っているのも小暮だけだった。
小暮の部署の嫌味な上司ですら、帰宅している。

いつも最後に鍵閉めと電気を消すのは、小暮の仕事だ。


残業代を貰っている訳ではないが、小暮はいつも定時通りに家に帰宅したことがない。
一人ボロアパートに戻るのが嫌な小暮は、なんだかんだ仕事を見つけたり、時には町の本屋でギリギリまで長居したりして帰宅時間を遅らせていた。


(しばらく満くんも忙しいようだし)
色々相談できる後輩・満はしばらく仕事が立て込んでいるらしい。
忙しくて飲みにいけないよ〜っと先日メールが来たばかりだ。

なので、用事もない小暮は今日も金城から貰った資料をひとりせっせと纏めているのである。

金城はよく小暮に頼みごともするが、小暮を慕っており敬ってくれる。
部署が同じ時だったときは、毎日のように話しかけてきたし部署が変わった今も月末などは飲みに誘ってくる。
金城自身、「会社で一番小暮が話しやすい」と公言しており、一時は小暮と怪しい噂を立てられたことがあった。

金城がその噂を聞いて豪快に笑っていたから、噂はすぐに消えたけれど…。

 なんやかんやで頼られると断れないのが小暮である。
今纏めているのは、今度のプレゼンで使うかもしれない資料らしい。
使うかどうかわからないから、一応暇があれば纏めてくれると嬉しいというのが金城の頼みだった。


「あれ…ない…」

完成間近の資料を読み返していたら、一部足りない事に気づく。
足りない部分は資料の重要な部分であり、完璧に仕上げたとは言えない。

小暮は忘れないうちに…、と急いで社内の色々な案件のデーターが保管されている資料室へ向かった。



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