優しく髪を撫でる手。
まどろんだ意識の中、目をつむっているのにその大きな強ばった手が誰のものか、小暮には分かった。
分かってはいたが、声をかけず、目は瞑ったまま手の主の好きなようにやらせていた。
もう少し、この優しい手を感じていたかったから。
「・・・おれは、」
つぶやくような、消えてしまいそうな修司の声。
「・・・怖いんです・・・りゅうじさん」
ポツリと、誰に聴かせるでもない言葉。
なにが、こわいのー?
そう訪ねたかったけれど、今の自分では聞けない気がした。
なにがこわいの?なんて、迂闊に聞いて、修司を傷つけてしまいそうだったから。
ただ、耳を澄まし、修司の言葉に耳を傾ける。
「いつか≠竄チてくる時が。それが真実なのか、偽りなのか。
貴方の前で全てを言う勇気がないんです。今、こうしている間も。
本当は、偽りなんじゃないかって。
本当は怖いんです。貴方に全て言うのが。」
真実?偽り?
なにが、なに?
「貴方に死ねと言われれば、俺は死ねるのでしょうか?」
暗く落ちた言葉は、悲痛に小暮の耳に届いた。
なにも、いうことのできないまま。
「おはようございます、りゅうじさん」
「おは・・・んっ」
おはよう、という言葉は、修司の口の中へと消える。
朝から舌を絡ませるディープなキスに、身体を赤らめながらも、小暮はおずおずと舌を絡ませる。
「今日は、デートですね」
ニッコリと笑いかける修司。その声には昨夜の暗い感情は見えない。
今の修司は自分が知っている、いつも笑顔で余裕のある修司だ。
どうやらあれから、小暮は寝てしまったらしい。
結局修司が何を言いたかったのか、わからずじまいだ。
「しゅうじくん・・・」
「んー?なあに?りゅうじさん」
「あの・・・、」
ニコニコと笑いかけてくる修司顔を見てくると、昨夜聞いた声は本当に修司のものだったのか、はたまたあれは夢だったのかと疑問に思えてくる。
「ぼくに・・・」
「ん?」
「僕に、言いたいこと、ない・・・?」
「りゅうじさんに?」
「うん・・・、」
修司が何か、小暮に求めているのだとしたら、きっと何か言うだろう。
そう思い、小暮は修司に問いかけたのだが・・・、修司は笑いながら「ん〜愛してるとか」と茶化す。
「・・・何もないの?」
「・・・なにが・・・」
「ないなら、いい・・・」
小暮はそう言ってベットから抜け出して、リビングへと向かった。
眉を寄せた、泣き出しそうな修司の顔を見ないまま。