窓際の恋 | ナノ



 土曜日。腰の痛みを感じながら、小暮が目を覚ますと、隣には修司がいた。
じっと見つめられていたのか、眠気眼で小暮が視線を合わせればニッコリと笑いかけた。

「起きてたなら、起こしてくれれば良かったのに・・・」
「りゅうじさんの可愛い寝顔堪能させてもらいましたから・・・」

ニコニコと破顔する修司。

「・・・ぅ・・・、可愛いわけ、ないだろう?僕は・・・」
「おじさんだからって?はいはい。わかりましたーっと」

修司は茶化しながら、ベッドから降りていく。
小暮も後を追いかけようとベッドから降りようとするが・・・腰に力が入らずバランスを崩した。

「危ないですよ・・・―」

あわや床に衝突、というところで、修司に助けられた。
片腕で軽々と小暮の身体を支える修司に、小暮は小さく礼をいい、立ち上がる。
しかし、また修司に抱きかかえられ、ベッドへ逆戻りに。


「散々やったんですから、急に動いたら、ダメです。今日は一日ベッドですよ」
「で、でも・・・」
「大丈夫です。俺が全部りゅうじさんの身の回りの世話をしてあげますから・・・。今日はどーんとしてくださいね」
「どーんとって・・・」
「ほんとは、ここに住んで欲しいくらいなんですけどね・・・、あいつがまだいるから・・・」

苦々しく言う修司。
同居人でもいるのだろうか。
同居人がいて、自分は邪魔じゃないのだろうか。

「あの・・・、」
「大丈夫。すぐにでも追い出しますよ。りゅうじさんが俺のものになってくれるんならね・・・」
「修司くん・・・」

きざったらしいウィンクをしながら修司は小暮の頭を撫でる。


「今日は一日ここにいてくださいね、お姫様」

修司は小暮を横抱きすると、そのままベッドへ横たわらせ、額にくちづけをする。

小暮はただ顔を赤らめたまま、居心地悪そうに体を丸めた。


 言葉通り、修司は小暮の世話をしてくれるらしく、すぐにベッドに朝食を用意してくれた。
朝食といっても、もう時間は11時を回っていたけれど。


「お昼ご飯、かもね。この時間じゃ・・・。ごめんね、りゅうじさん。手加減できなくて・・・」
「・・・、しゅうじ、くん・・・」
「ん?」
「この、かっこ・・・」
「・・・ん?」

素知らぬ顔をする修司。白々しい。
今小暮は修司に後ろから抱きしめられた格好で、ベッドに座っている。
だっこちゃん人形、か。


「僕は子供じゃないよ・・・これって・・・」
「絵本読んで貰う子供みたいな体制・・・、もしくは恋人同士を抱きしめる体制ですかね」
「ですかねって・・・、」
「はい、りゅうじさん。あーん、です」

作った朝食のスープを自分の手で食べさせようと、修司は小暮にスプーンを差し出す。

「じ、自分で食べれるよ・・・」
「そうですか、残念」

何をしても恥ずかしそうに反応する小暮を見て、修司は甘い笑みを零した。


修司が用意してくれた朝食は、野菜のスープとグラタンだった。
そんなに空腹感を訴えていなかったのに、一口食べてしまえば、手は止まらなくなり結局完食してしまった。

全部完食した皿を見て、修司はお口にあったようで良かったです、と嬉しそうに言う。


「今日は一日どこにも行かずにぼぉっとしていましょうか」
「きょ、今日は・・・?」
「それとも、この間のようにずっと休みが開けるまでセックスでもします?」

昨日もさんざんしたのに冗談じゃない、小暮は勢いよく首を横に振った。


「残念・・・」
「あの・・・帰るっていう選択肢は・・・」
「ないですよ」

ニッコリ。反論させないような笑顔で、笑う修司にクラリときてしまう。

「帰らないと・・・僕は・・・、」
「大丈夫です、今日は無理させませんよ」
「や、でも…」
「俺ね、考えたんですよ。どうしたら、りゅうじさんは俺のモノになってくれるかなって。
どうしたら、りゅうじさんが好きな奴から俺の方を好きになってくれるかなって。りゅうじさんを抱いている間中、ずっと思ってた…」
「僕を…」

あんな激しい抱き方の中、そんなことを考えていたのか…。
小暮はもじもじと、修司の視線から視線を外す。

しかし、顎元を手で捉えられ、「聞いて」と無理やり視線を合わせられる。

「ゆっくりでいいから、りゅうじさんに俺を好きになって貰いたいんだ。だからさ…体だけじゃなくて、まずはプライベートのお付き合いからしていこうかなって」
「プ、プライベート…?」
「お友達から始めましょうってことかな。デートしたりとか、気軽にメールしたりとか…」

もちろん、夜は身体のお付き合いもさせていただきますけど…。
ふと、色気を帯びた笑みを浮かべて、耳元で甘く修司は囁いた。


「とりあえず、今日はゆっくりしましょう。あいつが戻るまで、ずっと一緒ですよ」
チュ、と耳朶にキスをされる。
甘い空気に小暮は顔を赤らめながら、布団を被り修司から顔を隠した。

その日の宣言通り、小暮は家から一歩も出ることなく、修司に甘やかされていた。
修司は甘えるのも得意だが、誰かの世話をするのも好きらしい。

小暮が何かしようと立てば、どこかにいてもすぐに飛んできて小暮の代わりにやってしまう。
風呂に入った時など、それはもう修司の独占上だった。

散々、小暮にキスをし身体を弄りまわし・・・、小暮が逆上せるほど長い時間一緒にいた。


「ごめんね・・・、でも、りゅうじさんが可愛かったら・・・」

逆上せた身体を放り出し修司に背を向けて壁の方へ顔を向けたまま、ベッドで寝転ぶと修司の反省の言葉を繰り返す。
最初は恥ずかしさも相まって口も聞かなかった小暮だが、ションボリとする修司についつい仕方ないな、と口を開いてしまう。


「もうやっちゃダメだよ」
「のぼせるまではしませんよ」
「のぼせるまで、って・・・」
「それより明日は、デートだから。早く寝ましょう」

修司は小暮が寝ているベッドに身体を滑り込ませて、小暮を抱きかかえる。
デート。
もう何年ぶりのことだろう。本当にデートなど、するのだろうか。

こんな親父に?彼みたいな、美形が・・・?
並んでたっていておかしくないだろうか。

「りゅうじさん・・・」
「ん?」
「明日、楽しみです・・」
「うん・・・」

僕も・・・、小暮は小さく修司に返した。



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