窓際の恋 | ナノ



 「んっ・・・ふっ・・・、」

口端から、どちらともない唾液が零れ落ちる。
会社から、少し離れた高級マンションだった。この間小暮が修司に連れられたホテルではないようだ。
会社近くでなくて良かったと思う。もし、万が一会社の人間に見られたならば、小暮は絶対に会社を辞めていただろうから。

修司は、小暮の手を引き部屋まで連れて行くとすぐに小暮の身体を抱きしめ、くちづけを奪った。


あまりの早急さに、小暮は目を向く。ピチャピチャ響く水音が、小暮の羞恥心を仰ぐ。
口を離した時、二人をつなぐ銀糸に、小暮は顔を赤らめた。


「やめ・・・、」
「ダメ、です」
「んっ・・・」

嫌がる小暮に、修司は何度もキスを送る。
あやす様に、絡められる口づけに小暮の体のちからは抜けていき修司の胸にもたれかかった。
そんな力の抜けた小暮を修司はぎゅっと一度抱きしめて、頬に手を滑らす。


「可愛がらせてください、りゅうじさん」

甘く囁くと、修司は小暮の肌を確かめるかのように、ゆっくりと手を這わせた。

「綺麗ですね、肌」
「そんな・・・」
「ずっと、触っていたいくらいです」
「あ・・・」

言いながら修司の手が離れていく。
名残惜しげに吐息が溢れ、すぐに小暮は口を閉ざす。


「俺、ずっと、我慢していたんですよ。貴方と会うまで」
「僕を・・・」
「はい。りゅうじさんを」

ニッコリと笑いかける修司に、つい見惚れ、ぽぉっとしてしまう。
修司は美形なのだ。
しかも、顔の造形は小暮が好きな深見に似ている。
好きな男に似た男が、自分の前で微笑んでいる。
小暮がつい見惚れてしまうのも仕方のないことだ。

それが、小暮の想う深見でないにしても。


「どうして、僕を・・・、」
「はい?」
「本当に僕を待っていたんですか?だって、君は・・・、その、僕じゃなくても・・・他に沢山相手いるだろう?わざわざ僕なんかを選ばなくても・・・。だから・・・」
「だから、お店に来てくれなかったんですか?俺に会いに来てくれなかったんですか?」

修司が口をへの字にしながら、じとりと睨む。
恨めしい顔で見られても・・・、と居心地の悪さを感じながら小暮は俯いた。
小暮があの日修司の誘いに乗ったのは、どうせ、一日のことだと割り切った部分も、ある。
それに・・・、

「あんなこと、されるのやなんだ・・・」
「あんなこと・・・?」
「あんな・・・、セックス・・・」

ボソリ、と修司は呟く。

「俺は下手でしたか?りゅうじさんを満足させられなかった?」
「そ・・・じゃ・・・なくて・・・、」

満足じゃないなんて、そんなことはない。
何しろ、あの日小暮は自分でもこんなに性欲があったのかというくらい修司を求めてしまっていたのだから。

ヘタなどと、そんなことはありえない。
むしろ、小暮の方が年の割になにもせず修司のなすがままだったのだから。

百戦錬磨の修司が小暮のセックス相手として呆れるのは有りにしても、逆はありえない。
修司の抱き方は、本当に抱かれる側を思った優しいものだった。


「僕は、その・・・、」
「その・・・?」
「だから、その・・・、」

小暮は、言いづらそうにえっと・・・などを繰り返す。
あんなドロドロに甘いセックスをされると、それに流されそうになって怖い。
年甲斐もなく本気になって、捨てられた時を考えると、踏み込めない。
そう言ったら目の前の男はどう思うだろうか。

反応が怖くて、言葉が紡げなかった。


「まぁ、いいです・・・」

結局、小暮の答えを聞かずに修司は小暮をベッドに押し倒した。
慌てて小暮はベッドから起き上がろうとするが、手を頭上で纏められ、動きを封じられる。

「俺とのセックスが嫌なら、それに慣れさせればいい・・・」

ギラリと、修司の瞳が光る。
獰猛そうな熱いその瞳に、ゾクリと小暮の身体は震える。

嫌悪じゃない、その震えにクラリとした。



「修司くん・・・」
「・・・りゅうじさんが嫌がるなら・・・、何度も俺は貴方を求めます。貴方が俺に落ちてくるように。貴方を逃がすことなんてできない。」
「しゅ・・・、」

名前を呼ぶ声は、修司の唇に封じられる。
吹っ切れたような、激しい口づけ。
修司の甘いけれど執拗な口づけに、小暮はただただ翻弄される

何度かキスした後、キスに浮かされ熱い吐息を零し始めた小暮を見て、修司は「色っぽくなってきましたね」と、ぽってり膨れた小暮の唇を撫でた。
小暮は小さく口を開けて、修司の手を受け入れる。


「今日は、いいものが、あるんです・・・」

ぼんやりと呆ける小暮の頬を一つ撫でて、修司はベッドを離れる。
離れていたのは、3分くらいだろうか。

修司は手にピンクの小瓶を持ってやってきた。


「これ、なんだか、わかりますか・・・、」
「・・・なに・・・?」
「媚薬です」
「び・・・やく・・・?」
「はい」

ニッコリと笑いかける修司。
ただの笑顔なのに・・・、その修司の笑みが怖くて小暮はベッドで後ずさりしてしまう。


「ま、俺も本物かどうかわかりませんけど・・・、」
「え?」
「貰ったんです。いつもはこんなものいりませんから。
お店の・・・りゅうじさんと会ったバーの店長が俺を懇意してくださって。意中の人が逃げたって言ったら、これ、くれました」


いつも持ってるわけじゃないですよ、と微笑む修司に小暮はゴクリと息を呑む。
媚薬。
もし、それが本物だったら。
もし、それを自分に使われたら・・・?

散々、この間喘いだのに・・・、それなのに媚薬まで使われてしまったら・・・?


「や・・・嫌です・・・」
「ダメですよ、りゅうじさん」

逃げそうとしたら、修司に腕を掴まれ、後ろから抱きしめるように覆い被された。
そのまま手を前にやられ、プチプチとシャツのボタンを外されてしまう。

スーツは、ホテルに着た時に脱がされてしまっていた。
撫でるように肌をシャツ越しに添えられて、身体は震える。


「逃げるから、逃げないように、です」
「媚薬なんて・・・嫌だ・・・、そんな・・・」

一度与えられた快楽を思い出し、鳥肌が立った。
ふつふつ、と肌が粟立つ。


「りゅうじさん」
「やりたくない・・・嫌だ・・・、怖い・・・」
「怖い、ですか・・・。怖くないですよ・・・、俺がいます。ちゃんと、おれがいますから・・・。怖くなんか、ないです」

修司は宥めるように、小暮の顔にキスをする。
手は巧みに胸元を弄りながら。


「一緒に気持ちよくなりましょう・・・、ね、りゅうじさん」

修司の微笑みに、ドキリと小暮の鼓動が跳ねた。



何も反論ができないまま、シャツを脱がされ、仰向けにされて胸元にキスをされる。

ぺろっと舌で乳首を舐められ、そのまま舌で転がされる。


「あ・・・んん・・・、」
「声、出したくないですか?」

こえを出さないように唇を噛み締める小暮に、修司は投げかける。
出してください、といえば、小暮はいやいやと首を振った。


「どうして、出したくないんです?」
「はずか・・・しい、から・・・」
「恥ずかしい?」
「女の子、みたいで・・・。僕は女の子でも、可愛くもないし、もうすぐ四十の・・・」
「可愛いおじさんですね」

くすと、笑って、小暮の乳頭を修司はふにっと潰す。
ぴくりと震え反応を示す小暮に修司は微笑み、小暮はそんな修司をじっとりと睨んだ。


「可愛いって・・・。」
「カワイイは、可愛いです」
「修司くんって・・・」
「はい?」
「なんでもない・・・、」

どうせ、みんなに言っているんだろう?
その言葉を呑み込む。
しかし、修司は小暮の顔を見ながら、不満そうに口を尖らせた。


「なんでもないって顔じゃないですけど・・・、」
「なんでもないったら・・・」

尚も反論する小暮に、修司はふーと肩を落とした。

「ふぅん・・・、まぁ、そういうことにしてあげます。
今日は、尋問よりもりゅうじさんを可愛がりたいですから・・・」


ベッド端に置かれたピンクの小瓶を手に取ると、修司は蓋を開ける。
中には、ドロっとしたジェルが入っていた。
無色透明で匂いはしない。

修司は指差にジェルをつけると、徐に小暮の目の前にやる。


「べっとりしてますよ・・・、りゅうじさん」
「・・・っ、」
「つけますね・・・、まずはここから・・・、」

ぬっと・・・、っと指先にたっぷりジェルをつけた修司は小暮の胸にそれをつける。

「ひっ・・・、」

思いのほか冷たいジェルにびくっと身体が跳ねる。
冷たいジェルに包まれながら、固くなった乳首をこねられた。


「すいません、びっくりしましたか・・・、」
「・・・っ」
「塗りこみますよ、いいですね」

ダメだと言っても聞かないくせに。
視線だけ修司にやれば、ふふ、と修司は微笑んだ。







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