窓際の恋 | ナノ




あの夜は、思い出にしまおう。
あの人にとっても、自分にとってもそれがいい。
あの日は一夜限りの間違いだったと…。
そう考えていたのに。

「ねー、先輩。抱かれました?金曜日の君に」
「ぶっ・・・、」
「ねーどうなんですかー。」

会社帰り。修司との約束をすっぽかして2週間がたった。
修司とあったあの日。携帯を持っていなかったことが幸いした。

修司は小暮に携帯アドレスを渡していたが、小暮は修司にアドレスもなにも教えてないのだ。会社も、本名すら教えていない。

バーにさえ行かなければ、修司みたいな若い男など接点がないのだ。

もともと、満に誘われなければ、あのバーに関心もなかった。
あの夜のことは、既に夢の出来事になりかけている。
あんなモテそうな男が自分と一夜を共にするなど、自分が都合よく見た夢だと…小暮はそう思うようになっていた。


先輩、飲みましょうと満に誘われたのはたまたまだった。
満に軽いノリで誘われ、満の家にきてしまった。

満に会うと、どうしても男同士の恋愛話になるから、深見と修司のことを考えてしまうから嫌だったのに。
満のノリに負けてしまった。

「先輩、も〜」
席をついて、いきなりの満の言葉に思いっきり水を喉に詰まらせてしまった小暮。

きたなぁい、とケラケラ笑いながら、満は部屋に積まれたタオルを取り出し服を拭く。
ごめん、と謝りながら、小暮は申し訳なく満に頭を下げた。


「だ、抱かれたって・・・、」
「いったんでしょ、バー」

にやり、とチャシャ猫のように笑う満。
さっと身体が赤らみ、体中に熱が走った。

「い、行ってない・・・」

つい、嘘を口にすると、え〜と満は不満げに口を尖らせる。


「あんなに誘ったのにー」
「ご、ごめん。でも、僕やっぱりその・・・、」
「まぁ、先輩はいきずりの男とか嫌そうですもんねー」
「う、うん・・・、」

ニコニコと笑いかける満に、小暮は嘘をついている罪悪感に身体を縮める。
いや、どころか、あんなに泣いて縋ってしまった。

自分よりも若い男の腕に甘えてしまった。
ドロドロに愛された。

あんなふうに抱かれたのは、初めてかもしれない・・・。
思い出しただけで、あの時の修司の甘い顔が蘇ってくる。


「先輩・・・?」
「・・・え・・・、」
「どうしたんですか?顔、真っ赤にして・・・、」
「な、なんでもない・・・」

動揺し、どもった小暮を満は不思議そうな目で見つめる。
その視線が耐え切れず、小暮は満が机の上に用意したワインを煽るように飲み干す。


「けほ・・・、」
「せ、先輩・・・だ、大丈夫です・・・?」
「だ、大丈夫・・・、」

小暮は自分がアルコールに弱いことも忘れていた。
かっと喉が焼け付く。
咳き込みながらも、小暮はワイングラスを机に戻した。


「でも、どうせ無理だったかも・・・、」
「え・・・、」
「今、あの人、遊びで寝るのやめちゃったみたいなんです・・・。待ってる人がいるからって。
もう2週間くらい、誘い断ってるみたいなんです。だから、先輩が抱かれにいっても断られてたかも」

2週間前・・・?
それって・・・?

修司とあったのは、いつのことだったか・・・
小暮は思い出し、さっと青ざめる。


「断られて・・・?」
「うんー。もうね、本命以外だかないって勢いで。バーで泣いている人もいたなぁ。あの人の恋人気取りしてた人も、あの態度にどうしようもないみたい・・・。待ってるんだね。バーで会うって」

本命以外抱かない・・・?何故・・・。
バカみたいに満の言葉にうろたえてしまう。

まさか、修司が自分の約束のために待っているんじゃないかって。
そんなはず、あるわけない・・・のに。


「あの金曜日の君が、だよ・・・。遊人を一途にするって・・・純愛だよねぇ。危険な夜の男が一人に夢中になるって。どんな人なんだろー」

ロマンチックー、と恋する乙女みたいな顔で、ワイングラスに口付ける満。
バクバク、と心臓が鳴る。アルコールが回ってきたからか、視界もぐるぐる回ってきて、気持ち悪い。

「でもってさ、言ってたんだよね。『あの人を待ってるから、何がなんでも探すから』って」

だんだんと、満の声が遠のいていく。
しっかり聞きたいのに。
あの人が、なに?

聞こうとすればするほど、小暮の意識は遠のいていく。
ぼんやりとした頭で、視線だけを必死に満に向ける。
その視線すら、瞼が重くうとうとしてしまう。

「地獄のそこからでも探し出してやるって言ってたんだよ、あの人」

まるで、悪の大魔王みたいだよねー

その言葉は、はたして、小暮の耳に入ったのだろうか。

小暮はかくり、と意識を手放した。





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