窓際の恋 | ナノ



小暮は、男に求められるまま、身体をつなぎ…。

気付けば、土日と二日にわたり愛され続けた。
よくも自分にこんなにも体力があったものだと感心してしまう。

それも、行きずりの相手だというのに。


「りゅうじさん・・・、また会おう・・・。ね。俺りゅうじさんのこと、気に入ったから・・・ね?」
「・・・僕は」
「大丈夫、好きなやつのことなんて、俺が忘れさせる・・・だから・・・、」

腰を抱いて、優しく口付ける男。
少し強引な男の言葉に・・・、小暮は逡巡する。

「でも・・・、」
「そういえば、俺の名前、教えてなかったね・・・。
俺の名前は坂根修司。できたら修司って呼んで欲しいな」
「修司・・・くん・・・?」
「そう・・・、」

修司は、ベッド傍にあったメモを切り取るとペンで走り書きをし、小暮に渡す。

そこには修司の携帯番号とアドレスが記されていた。

「俺、いつでも暇だから・・・、あ、でも昼間はできればやめてほしい・・・かな」
「昼間・・・、」
「うん。会社が忙しくてね・・・、携帯取り出す暇がないんだよ」


別れ際、修司はまた出会ったあのバーに金曜日会おうと無理やり小暮に約束させた。
小暮はもう会うつもりなどなかったが、あまりの修司のいきおいに押され、つい約束をしてしまった。

こんな、遊び慣れた相手とまた会う約束をするなどと・・・。

(また、金曜日も・・・、)
散々貫かれた身体が、じんと疼く。
奥深くまで、貫かれた熱い楔。精液でドロドロに汚され、それでも、もっととねだった自分。

 会社の上司深見と似ている彼。だけど・・・、
(坂根修司・・・、)
その人物は、深見の名をしていない。

もし、もし、寝たのが行きずりの修司ではなく、深見だったら。
もし、愛してくれたのが・・・深見だったら・・・。

(バカバカしい)

ありもしない考えに、首をふる。

いつのまにか恋に期待し、夢見る年ではなくなっていた。


 月曜日。
散々修司に愛された身体を引きずって、小暮は会社に出勤した。
腰が痛い。
変な歩き方になっていないだろうか・・・。
奥まったそこには、今は修司のものはないというのに、そこにあるようにあるように感じてしまう。

『ここが、俺の形になるまで・・・、愛してあげますよ、』

修司は、何度もそう言って、小暮の体に精を放っていた。
恥じらい、身体を震わせる小暮に。

一瞬、深見を忘れるほどに。

『一緒に、いきましょう・・・ね?』

(僕は・・・、)

「小暮さん、」
「あ・・・、」

昨夜自分の耳元で囁いた声と、ほぼ同じ声。
深見が、相変わらずなんの感情もない瞳で、小暮を見詰めていた。


「邪魔、なのですが・・・、火傷しますけど・・・?」
「す、すいません・・・っあち・・・、」

給湯室でお茶を汲んでいたことも忘れていた小暮。
急いで意識を戻すが、沸騰された白湯は既にコップから溢れていた。

慌てていたため、溢れた白湯に手をつけてしまい・・・、小暮は持っていたコップを地面へ落としてしまった。


パシャ、と、床に広がっていく白湯。
コップは幸い、紙コップを使っていたため、われずにはすんだが・・・。

「すいませ・・・あの、お湯、かかってないですか?」
「大丈夫です・・・」

淡々とした、口調。
その口調は淡々としていて、怒っているようにも聞こえる。

「すいません・・・」

小暮は身体を丸め、小さくなる。
深見の前ではこんなみすばかりだ。
呆れられても、怒られても仕方がない。

小暮は給湯室にあった雑巾で、零してしまったお湯を拭く。

 深見は給湯室にあったコーヒーメイカーを使うでもなく、じっと小暮を見ていた。

(立ち去らないの・・・?)
小暮はそわそわした気持ちで、地面をふく反面、深見に意識をやる。
見られていて、居心地が悪い。

これが、まだ他の人ならいい。
相手は、自分の思い人・深見だ。
気もそぞろになる。


「首筋、」
「え・・・、」

ふいに、ぽつりと深見がつぶやく。
首筋になにかあっただろうか。えりでもたっていた・・・?

首筋に手を当てて、きょとんと首を傾げる小暮に・・・


「鬱血、いや、違うな・・・、キスマークつけてますよ」
「!」

深見は、ふん、と腕を組みながら言い放つ。


首筋に、キスマーク。
それは・・・昨日の・・・?

『俺の痕、つける・・・、俺≠フものって』

昨日、つけられた、もの・・・?
修司につけられた・・・?


「あの・・・、ちが・・・これは・・・、」

キスマーク。深見に、見られた。
自分が、密かに思っていたその人物に。


「これは・・・、」

言い訳のような言葉を零す小暮。

「そんな激しい恋人でもいるのですか?」
「違…、」
「お盛んなのはいいですが…、貴方は社会人ですよ?責任ある行動を謹んでください。
ましてや、貴方は・・・、新婚というわけでもないでしょう?」

低い美声が、小暮の心に突き刺さる。
地面を拭いていた手元は、止まっていた。

うつむいたまま、深見の顔も見れない。


「プライベートをとやかく言うつもりはありません。けれど・・・、しっかり仕事にまでそういった情事の後を見せるのは・・・、正直、感心できませんね」
「・・・すいません・・・、」

ただ、小暮は謝ることしかできない。


「貴方の相手にも、もうそういった痕はつけさせないようにいってくださいね・・・、じゃないと、会社全体もざわめきますので」
「ざわめき・・・?」
「先ほど、課の女の子が話していましたよ。貴方の首筋のキスマークについて、ね。周りは意外にゴシップ好きなんですよ。自分が思う以上に、自分を観察してる」

深見だけじゃなく、他の女の子にも見られていた・・・?

首筋に、きすまーくをつけた、自分を。

頬がかっと、赤らむ。
そんな羞恥で赤らんでいる小暮を、冷たく一瞥した後、結局給湯器を使わずに深見は立ち去っていった。




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