ただ、貴方の幻想を追う。 | ナノ

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真新しい制服に身を包みながら、いつもより少し歩幅を大きくして歩く。

桜舞い散る、入学式。
ヒラヒラと落ちる桜は、踊るように舞い、春を楽しんでいるようだった。
新しい季節の始まりは、少しの期待と不安が混ざり合い、新たなスタートを感じさせる。
新入生は、新しい学校と出会いに、在校生は新たなクラスに。
期待と不安を抱きながら、そのときを待つ。
なにかの始まりは、ドキドキから色々なことを空想する。


どんなスタートになるだろう。
どんな人間と、ここで出会い、どんな関係を作っていくだろう。

自分の思い出をここで作れるのだろうか。

例になく、俺もそのスタートに心躍らせていた。

その時は、まさかここで一生の恋をするとは思いもせずに、ただ新しい始まりに胸を高鳴らせていた。


サラサラと風に舞い落ちる桜が、綺麗なスタートを祝福するように舞い降りる。
桜吹雪のように舞い落ちる、花びら。

学ランから、憧れていた葉山学園のブレザー。
紺色の一見シンプルな制服には、右ポケットに学園のエンブレムがついている。

葉山学園の、学園の由来は、未来溢れる若者を、緑萌える若葉に例え、葉山、となったらしい。

この学園は、かなり高い偏差値を誇り、卒業生は有名大学へと多数合格している。
学力だけでなく、スポーツにも力を入れており、インターハイや甲子園、と、毎年強豪校にその名を連ねている。
子供の育成の為ならば、金を惜しまない、そんな男子高校だった。

当然、そんな学校だから倍率は高い。
この葉山学園は幼稚部からあり、高校から入る人間は少人数だ。
極々高校から入る生徒はまれのことらしい。
男子校で県内トップ、更には文武両道な人間しか通えない高校。


本当は、中学からここに通いたかったのだけれど、受験日当日に熱が出て中学の時は行けなかった。俺は昔っから本番に弱いのだ。

学校の雰囲気が気に入っていて絶対高校はここに通いたかった俺は、昨年の夏ごろから柄にもなく猛勉強をし、今に至る。

あの猛勉強の日々は…けして思い出したくない想いでの一つだ。
あれは、本当に勉強に殺されるかと思った。
冗談じゃなく…。
受験番号があった日には、お袋と二人、はしゃぎ合ったのもんだ。
本当にあの時は、俺の全部の運を使い切ったんじゃないかっていうほど、嬉しかった。


ぼんやりと景色を見回しながら、歩いていた足を止める。
新しいフィールド、新しい景色。ここが、俺、富山朔夜の、新しい場所。
何かが始まりそうな、予感。新しい何かに踏み入った、予感。
そんな予感を抱きながら、ふと頬を緩ませる。


さわさわと、頬を叩く風が気持ちいい。
ぼんやりとしていると、春の陽気でぼぉっとしてしまいそうだ。




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