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俺が愛という言葉を知ったのは、あの人がいたお陰だった。 愛おしいも、こんなに人は誰かを愛することができるのも、全て教えてくれたのは、あの人だった。
どこが好きなの?と聞かれれば、その返答に少し困ってしまう。 だから、不安そうに尋ねたあの人にもすぐには答えられなかった。
どこが、ではなく、全てが好きだったから。 あの人の、全てが俺にとっては惹かれてしまう、ものだったから。 一部分じゃない。全てが愛おしかった。
だから、どこが好き、と答えるのは、円周率を正しく出すよりも無理だった。 あの人が自分を卑下するところ、それすらも俺には愛おしく思えた。 どこが好きだなんて、一日かけても決められない。 あの人の好きなところを、ずっと語るのは容易いことだったけれど。
あの人は、俺にとってかけがえのない人だった。 かけがえのない、何よりも、誰よりも大切な、人。
あの人が笑えば、それだけで幸せになった。 あの人が泣けば、それだけで俺も不安になって。 あの人が「ありがとう」と感謝すれば、それだけで、胸がいっぱいになって。
あの人だけで、俺の心は回っていく。 あの人だけに捕らわれていく。
あの人はよく俺と比べて自分の事を卑下するけれど、俺にとってあの人は、かけがえのない唯一の、陽だまりみたいな人だった。
温かくて、優しくて、涙が出るくらい、愛おしくて。
そばにいるだけで、幸せを感じた。
誰にも渡したくなかった。 あの人は、俺の、俺だけの大切な人でいてほしかった。 俺の知らない人でいてほしくなかった。
なんて、欺瞞な考え。 子供の様な、身勝手な思考。 安易すぎる熱情は、だから先輩をおれから遠ざけた。
何度、後悔をしただろう。 何度、あの人を信じられなかった自分を責めただろう。
何度、あの人の影を追っただろう。
先輩、ねぇ、先輩。
馬鹿な俺を許して下さい。 貴方を傷つけてしまった俺を、どうか、許して下さい。
貴方を信じず、友人を信じた俺をののしって下さい。 女狐に騙されて癒されたと思っていた俺を、あの時の俺を、どうか、再起不能になるまで怒って下さい。
そして。 願わくば。
もう一度、貴方に会いたいです。 もう一度、貴方を抱きしめたいんです。
貴方を、この手で。この腕で。
先輩。 飛鳥、先輩。
ごめんなさい。ごめんなさい。
許されるなら、言わせてください。
貴方が好きでした。 今でも、貴方が…。
貴方が、好きです。 貴方が、世界で一番好きです。 貴方、だけが。
俺は、 好きです。
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