ただ、貴方の幻想を追う。 | ナノ

[ 20/23 ]

 それから季節は巡って、先輩は卒業していった。
卒業式。俺は少しだけ先輩と話をすることができた。

先輩はどこかすっきりとした顔で、俺に海外に行くから、と告げた。

海外なんて、ぱったりと会うこともない。
先輩は、俺が届かない人間になってしまった。

それから、なにか話をしたが、覚えていない。
連絡先も聞くのを忘れてしまった。

俺と先輩の連絡経路は、ぱったりと立たれてしまったのだ。

 

先輩がいない学校は、それだけで、もう虚しい無機質の建物だった。
あんなにワクワクしてきたことも、先輩と会った日々も、もう色あせてしまっている。

俺自身も、なんだかやさぐれてしまった。
先輩が卒業して。
もう全てがどうでも良くなった。
かろうじて学校には通っていたが、授業はサボってばかり。
教師たちにも一目おかれていた俺だったが、今でははれもののように見られていた。

人間なんて、こんなに堕ちるものなんだ。
自分のことなのに、笑えた。


「ねぇってば」

村上も村上で、ウザかった。
最初は、先輩のことで悩む俺に健気についてくれて可愛いと思ったのに。

今では、ただただウザかった。
心配しているような顔も、俺を気遣う素振りを見せるのも。
なにもかも。


「うるせぇな。俺にくっつくな、恋人だからって、我が物顔すんじゃねぇ」


ベタベタまとわりつく村上を制す。
村上は、むっと顔をしかめ
「最近富山くん、おかしいよ。冷たい」
と、俺をなじった。

可笑しいって、なに?なんで、お前にそこまで優しくしなきゃならないの?
村上が勘に触る。

村上に当たってしまう。
些細なことで言い合ってしまう。

まだ、先輩を校内で見れたときはこんなことなかったのに。

今では傍にまとわりつく村上がただただうざかった。


「じゃぁ、別れよう」
「え」
「お前と、別れる。じゃぁな」

そうだ、先輩じゃなかったら、どうだっていい。
ひどい男だ、自分でもそう思う。
散々、先輩と別れ傷心したときはそばにいてもらったくせに。
こんなにも簡単に切り捨てることができる。

立ち去る俺の腕を掴み、村上は「いや」っと声をあげた。

「僕、君が好きなんだよ、嫌だよ別れるなんて」
「俺はお前を好きじゃない。今まで付き合わせて悪かった」
「そんな・・・なんで」

ウルウルと、村上の瞳がうるみ出す。

そんな顔を見ても、俺の心はちっとも動かなかった
先輩の泣き顔には、あんなに動揺したっていうのに。

ただ、寒々しい。
心が乾く。
村上を見つめる瞳も冷たいものになってしまう。




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