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それから俺は先輩を避け続けた。 先輩の顔を見てしまえば、みっともなく縋ってしまいそうだったから。
もう他の人間に先輩が奪われないように、先輩を傷つけてしまいそうだったから。 先輩の顔を見れば、顔を顰めるだけで何も言わずにそこから立ち去っていた。
図書室通いもやめた。図書室に行けば、間違いなく先輩にあってしまいそうだったから。
先輩と会う前の生活に戻った。 クラスメートと、喋って、他愛ないことを愚痴って。 先輩の会う前の生活に戻っただけ。 だけど、先輩に会う前より虚しいのはどうしてだろう。
先輩の影をおってしまうのは、どうしてだろう。 先輩がこちらを見ていないとき、ひっそりと遠くから見つめてしまう。 先輩から俺にすがってこないか、なんて、そんなことを考えてしまう。
・・・先輩は、俺が想うよりきっと俺のことなんて想ってないのに。
日に日に先輩との距離が開く。 俺たちの関係は自然消滅してしまったんだろうか。 今では先輩が誰よりも遠かった。
「ねぇ、富山くん…、僕と付き合ってくれないかなぁ」
先輩とこじれ距離が開けたとき、俺はクラスのやつに告白された。 名前は村上。クラスのやつらが可愛いって噂していたやつだった。
確かに、村上は可愛い。まるで女の子のように、可愛らしい顔をしている。 だけど、村上を前にして胸高鳴ることはなかった。 先輩だけだ。あんなに俺が夢中になったのも、欲しいと思ったのも。
付き合う気もなかったので、村上の申し出を断った。村上は悲しげに顔を歪めていたが、 「諦めないから」といって、それからも俺の傍にいた。
先輩が消えた穴を、村上が補修するかのように村上は先輩の事で悩んでいる俺の傍にいた。
「ねぇ、富山くん」
村上のとなりは、先輩といた時のように居心地がいいものではなかった。 でも、一人でいる寂しさから逃げ出せる気がした。
そう、これは逃げだった。
「僕はね、富山くんのこと、大好きだよ」
村上が大好きだと言うたびに、密かな安堵感がした。 俺はちゃんと好かれている、って。求められている、と。 先輩ばかり求めていた俺だけど、ちゃんとほかの人間にも求められているって。
…先輩じゃなきゃ、虚しいだけなのに。
「富山くんが、まだほかの人を想っていても、僕ずっと待ってるから。ずっとずっと。富山くんも、きっと僕と一緒にいたほうが楽だよ」
俺は村上の言葉に頷いて、彼が強請るがまま、身体を与えた。 俺は、まだ先輩が好きなのに。 先輩だけが好きだったのに。
心は、まだ、先輩しかいないのに。 自分が酷く、嫌な人間になった気がした。
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