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ついに考えるのも限界に来た俺は、図書館で木下飛鳥を待ち伏せすることにした。 この学校は、何百という生徒がいる。
だが、図書館を利用しているのは一部で、常連ともなると絞られてくる。
まるで探偵になった気分で、名札が木下の人を探す。 探偵の真似事をして3日目。
木下と名札をつけた、黒髪の人が俺の前を横切った。 この人が、飛鳥さんだ。 俺が、探していた飛鳥さんだ。
傍を通っただけなのに、俺はその人が俺が探し求めていた木下飛鳥さんだとすぐにわかった。求めていたのは、この人だ…と。
俯き加減でいつも猫背気味に背を丸めながら歩く、その人。 ふと顔を上げた瞬間。もう駄目だった。 俺の瞳はその人に奪われてしまった。
ああ、これは一目惚れだ。 バカみたいに、そう感じた。
初めて、恋をした。 本気の恋を。
まさか自分が男に惚れるとは思わなかった。 何度も、まさか、思い込みだ、と芽生えた気持ちを疑った。 だけど、駄目だった。 一度自覚した思いは消えない。
それどころか、日に日に強くなっていく。 あの人が、欲しい。あの人と話したい、と。
飛鳥先輩を出会い、俺の中の退屈はなくなった。退屈でいられなくなった。 毎日が飛鳥先輩への思いでいっぱいで、余計辛くなったかもしれない。
この恋を、どうすればいい? 初めて芽生えた恋に動揺し、眠れぬ夜を過ごす。 そのうち、夢にまで飛鳥先輩が出てきて、俺を誘惑していく。
ついには、飛鳥先輩を抱く夢を見てしまい、もうこの気持ちに嘘はつけない、と観念した。 俺は飛鳥先輩に惚れているんだ。
男同士の恋愛、ということで、孝介と穂積にも相談した。 孝介は面白がって聞いていたが、穂積はとても苦い顔をしていた。
「…、僕は、反対だ」
絞り出すような声で、そういう穂積。 穂積はもともと人嫌いだ。 人の嫌な部分が、穂積には嫌になるくらいありありと見えてしまうらしい。
あまり人と関わるのが好きじゃないらしかった。
「穂積、あの人のどこが嫌いなんだ?」 「あの人の目が、嫌いだから…」 「目?」
先輩の目が嫌い? 何故だろう。先輩は、とても綺麗な目をしているのに。 穂積は、眉を寄せて、嫌悪感募った顔をしていた。
「どうして、あんな暗いやつが好きなのか、わからない。辞めた方が、いいよ、絶対」 「穂積…?」 「絶対に、後悔、するから…」
穂積はそれだけ言うと、口を結んだ。
初めての恋の相手。それを、親友に辞めろと言われた。 当然俺はショックを受けた。
それでも… 芽生えた先輩への気持ちは消えそうになかった。
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