ただ、貴方の幻想を追う。 | ナノ

その文字に惹かれ、 [ 8/23 ]

 わいわいと恋愛話で盛り上がった数日後。
友人は言葉通り、俺に妹を紹介した。
中学生であったけれど、子供っぽいところはなく、可愛らしい子だった。
礼儀正しく、俺の言葉によく顔を赤らめて、俯いていたような気がする。
初心そうで可愛い、とは思った。


だけど…それだけだった。ただ、それだけ。
また会いたい、と彼女は言っていたけれど、俺は曖昧な返事しかできなかった。

可愛い、とは思う。女の子らしくて、いいな、とも思う。
でも、ただ、それだけだった。

ずっと一緒にいたいとも思わないし、惹かれもしない。
彼女を俺はなにも£mらないから興味を持てないのかもしれないけれど。
彼女といるよりも、友人たちと馬鹿話していた方がずっと気楽だった。


自分は…恋愛には興味ないお子ちゃまなのかな…。
恋愛なんて、誰かを好きなんて、自分には早いのかもな…。
自分は、恋愛体質にはなれないのかもしれない。

恋愛なんて、俺は当分いいや。
そう思っていた矢先だった。
飛鳥先輩の名前を目にしたのは。



 学校の、図書館。
俺はこう見えて、本を読むのが好きだ。
新書、と聞けば、とりあえず面白そうなのは手に取ってしまう。
部活も好きだけど、同じくらい、本を読むのも好きだった。
幸い、学校の図書館は充実していた。
流石、両家のお坊ちゃんが通ったりする学校である。
勉学にはお金を惜しまないんだろう。

買いたいな…と、思った本は、大体図書館に行けばあった。
俺としては、本を買う節約になるからすごく有難かった。

新書コーナー。新しい本に、期待し、ぺらぺらとめくる。

と…、

「あ…、」

ひらり、と、図書カードが本から地面へと落ちた。

すぐさま、カードを拾う。
新書なのに、そこには、たった一人だけ名前があった。

木下飛鳥―きのしたあすか。
最近、俺が読む本で、よく目にする名前だ。
その字はとても達筆で綺麗な字だった。読みやすく、美しい、字。

俺は字が下手だから、こうした綺麗な字を見ると、ついつい眺めるように見てしまう。
こんなに、高校男子が綺麗な字をかけるのか…。
そう思うくらい、木下飛鳥、とかかれた字は綺麗だった。

それから、注意して図書カードを見るようになると、字の綺麗な木下飛鳥≠ウんは、俺が読んだことのある本全てに名前が書かれていた。


同じ趣味なんだろうか。この人も本好きなのかな。
ホラー以外は、木下さんは、全て俺より先に読んでいた。
ホラーは苦手なんだろか…。

この字をかくひとは、どんな人なんだろう。
2年、と書いてあった。先輩だろうか…。

「飛鳥さん…か…」

いつしか俺は、本を読みながら木下飛鳥さんの文字をさがすようになった。
気が付けば、俺の脳内は、木下飛鳥≠ナ埋まっていた。
ただの図書カード。文字しか知らないのに。
俺は、見もしない、木下飛鳥≠ェ気になっていた。


退屈な毎日から、木下飛鳥≠フ事を考える毎日へと変わっていく。
綺麗な字を書く人はやはり、綺麗な人なんだろうか。



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