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中学時代の事を一から友人に話せば、友人はくそーっと叫び、俺にプロレスの絞め技をかける。
「このモテ男が…、」 「いてて、ぎぶ、ぎぶ…」
ばんばん、と床を叩けば、笑いながらも腕を外してくれる。
「んで、そんなモテ男の朔夜くんは、何故今フリーなんだ?」 「何故って…言われてもなー」
高校は男子校だし。わざわざ他校から彼女を探すようなこともないし。 これと言って、必要性も感じなかったし。 いなくても学生生活で不便はない。
「そもそも、男子校じゃん?わざわざ彼女探すのも面倒っていうか…」 「甘い、甘いよ、富山。学生の本分は恋愛ではないか」 「はぁ?学業だろ…」
あまりに堂々と言い放つ友人に苦笑してしまう。 ただ、他の二人も似たような友人なので、学業といった俺にこの真面目クンが、っとブーイングを浴びせた。
「ときに、富山くんは男同士の恋愛をどう思うかね」 「はぁ?まぁ別にいいんじゃないか。好き同志なら。」
孝介たちのおかげで、俺も、すんなりとそう応えることが出来る。 耐性が付いたのか…。
「富山君はホモにはなる気配はないのかね」 「俺?ないかな…−。というか、考えられない…な…」
女好きって訳でもないけど。今まで男にどきっとしたことも、恋愛感情的な意味で、好きだなぁって思ったこともないし。 穂積と孝介とずっと一緒にいたって、ただの友人だったし。
差別をするわけでもないが、やっぱり、男女でいったら、俺はおんなを好きになると思う。 その時はそう考えていた。
「なんだ、つまらん」 「あ、でも、お前の幼馴染?だっけ?桜井孝介と…結城穂積。あの二人ってできてるんだろ?」 「え…の、ノーコメント」
人の噂っていうのは、回るのが早い。 入学して少しは経ったけれど、もう二人の噂は回っているのか。 関心を通り越して、少し怖い気がする。 まぁ、あの二人は自然と人の視線を集めてしまうんだけど。
「あの二人ならでも男同士でもいいよなー。イケメン同志じゃん」 「なに、お前ホモなの?」 「ちげーし。ただ、穂積ちゃんだったら、俺も抱けるかなーなんて…」 「お前なんて、穂積ちゃんの方からお断りだよ」 「なんだよー、仕方ネェ、じゃ、村上ちゃんに頼むかなー」 「村上ちゃんも無理―」
げらげらと笑う友人たち。下世話な会話…。 ついていけず、俺は一人会話から外れ、弁当をつつく。 友人がからかわれているのは…やっぱり少し、気分が悪い。
穂積と孝介は俺の幼馴染であり、親友で、今は少し疎遠だけど本当に仲がいい友達だったから。
「ま、富山がフリーなら丁度いいや。俺の妹が富山に会いたいって言っててさ」 「は?」
またも、突然話を振られた。 ポロリ、と、からあげが箸から毀れる。
「いや、たまたま、よ、写真見せたら、この人に会いたいって言いやがって。 んで、富山にあわせるから可愛い子紹介しろって、」 「なに?お前富山を妹に売ったのか」 「すまんってー。というわけで、お前を紹介する代わりに、プチ合コンすることになった」 「プチ合コン…ねぇ…。中学生とか?」 「俺だってお姉さまが良かったけどよー、なかなか知り合う機会ないじゃん? だから、中坊で我慢しろって。」 「我慢…ねぇ…」
口に箸を加えたまま、宙を見上げる。 今は誰とも付き合う気ないんだけどなぁ…。 すっかり彼女が出来ると舞いあがっている友人をよそに、俺はどこか寒々しく苦笑する。
何かが足りない。それは、彼女か? 未だに、足りない何かがわからない。
恋人の一人でも作ったら、俺は満足するんだろうか…。 誰かを好きになれば、もっと世界が変わるんだろうか。 そんな馬鹿な話あるもんだろうか。
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