はじめましての仕方
なに?また来たの?ふざけんじゃないわよ、毎週毎週…。あんたの顔なんてそんな頻繁に見たくなるようなもんじゃないんだからそんなに店に顔出すんじゃねぇよ!!マジで、無い。しかもなんで絶対私のこと指名するわけ?どういうこと?私いやがってんじゃん?!どう見てもあんたの事きらってんじゃん?!なのに…はぁ…どうしてそう楽しそうにしてるのかな?マジむかつくんだけど…。で、注文決まったわけ?はぁ?いつものとか言ってんじゃねーよわかんねーよ、はっきり言ってみろ…うん、うん…っち、わかったわよアイスティーね。もっとしゃきしゃきしゃべりなさいよマジでイラつく。運がよかったら今日中にここのテーブルまで運んでやるかも知んないわ。よかったわね。

こんな接客しても誰も私を注意しないなんて…いや、それどころかお客さんは喜んでるし、裏からちょこっとだけ顔を出した店長だって心なしか微笑んでいるように見える…!!これ、まじ転職だわ私!!だってお客さんが来たらありのまま思ったこと言えば喜ばれるし、帰り際とかちょっとしたところでわざと大げさに甘えれば鼻息ふんふん鳴らして「また来るからッ!お兄ちゃんはまたなまえちゃんのところに帰ってきてあげるからね!!」ってなんかよく分かんないメッセージとともにちょっと大目のお会計済ませてくれるんだもん…!!なんだ?!ツンデレ喫茶!!私のためにあるようなお店じゃないかこのやろう…!!

諸々の事情で19歳になる年に家を出た私。どうしてもなりたかったエロゲ声優。通ってた高校がすごく厳しいところで、声優の専門学校になんか到底進ませてくれなさそうで私は絶望し、そして決意した。家を出て自分で働いて学校に通おう。そして成人向けPCゲームのパッケージに淫猥なセリフとともにCVわたし!!なエロゲを抱えて故郷に凱旋してやろう!!ってね。まぁ、結局はそんなの無理で…バイトして家賃払って生活していくのがやっとだ。コミュニケーション能力が著しく低い私はどんなバイトも長続きしなかった。根無し草の中の根無し草。のくせ、勉強だ!といって買いあさりプレイし続けるエロゲ。電気代が大変な事になっていると親に泣きついて頂く仕送り。全く持ってお先真っ暗人間失格な人生を歩んでた私に訪れた転機。それが今のツンデレ喫茶の店長との出会い…それは同時に駅前のスタバのあの素敵なモスグリーンのエプロンとのさようならでもあったわけだけど…。とにかく!!お母さん、お父さん…なまえは元気にお客様をなじってます。ご心配なさらぬようそうろう…。

「いらっしゃーい」
「ん?!なんだそのやる気のない態度…」
「え?お兄ちゃん何言ってんの?マジ意味分かんない」
「お、お兄ちゃん?!お、俺はお前の兄貴じゃないぞ?!」
「え…あ、あの…ちょ、お兄ちゃん…?」
「おい!なんだそのふざけた接客態度は!!責任者呼べ!!こっちは客だぞ!!」
「わあッ…ちょ…なまえさんッ!なまえさーん!!」

おや?私がさっきのでくの坊のためにアイスティーを淹れてやっていると、受付をしていた☆あーちゃん☆(本名:麻美)からヘルプのお声が…。バイトリーダーとして店長不在の今!(店長は買出し)あらゆるトラブルは私が収めなければならぬことになっている…!!まってな☆あーちゃん☆(本名:麻美)!!

「申し訳ございませんお客様、私店長代理のみょうじと申します。うちの従業員がなにか失礼を?」

受付に飛んでいくと、☆あーちゃん☆(本名:麻美)はお客様の対応に困りかねてすでに萎縮しきって涙目。あーあー、可哀相な☆あーちゃん☆(本名:麻美)…私はお客様らしき男性に深々と頭を下げてから☆あーちゃん☆(本名:麻美)に下がって他の接客にまわるよう支持。たまに居るんだよねこういう奴…一時のオタクブームに乗っかった似非オタクがツンデレ・メイド・巫女etc...喫茶冷やかしにきたりするやつ。マジ勘弁。あと、ツンデレ喫茶って知らずに普通の喫茶店と勘違いして入ってくる奴。馬鹿じゃねぇの?こんな外装の純喫茶があるんなら見てみたいわ。壁紙がピンクに白のドットってなんだよ、どんな喫茶店だよ。ふざけんじゃねぇよまったく…

「接客態度がなってない!!さっきの奴はクビにするべきだ!!」

こんな風に頭下げてやってんのにこの態度。私はむかついて(もともと沸点が低い)顔を上げると、その客は若い男だった。鋭い瞳に攻撃的な双方の八重歯。特徴的でセクシーな口元のほくろに細身の長身。…いかん、タイプだ…!!おい、なんでだよ?!どうしてこんなイケメンが1人でツンデレ喫茶とか来ちゃってんだよ?!おいおいおいおい!!

「お前、店長か?」
「あ、いえ…私はバイトリーダーでして、ただ今店長は」
「はぁ?バイトリーダー?」心底馬鹿にした声で繰り返される。苛立ちに引きつりそうになる顔を必死に笑顔に。ちょっとかっこいいとか思っちゃったから余計…その態度がむかつく…!!私のプライドに少しでも傷つけられたら我慢できなくなる…!!頼むイケメン、そのまま口を閉ざして回れ右!帰ってくれ!!バイトリーダーってすげぇんだからなッ!!マジでお前にはきっとわかんないくらいに忙しいんだぞ?!誰かフロアの女の子が急にお休みになったら穴埋めに絶対でなきゃいけないんだぞ?!しかもこういう面倒ごとの尻拭いだってやらせられるわけだしな…!!くっそうイケメン…!!いいか、私は怒られるのが大嫌いなんだ!!たとえ10:0で私が極悪非道の下種畜生だったとしても誰も私のこと怒っちゃいけないんだからなッ!!みんな私に優しく接しなくちゃいけないんだからなッ!!

「バイトなんかで話が付くかよ、早く店長呼んでこい。ったく、接客はなってないわ席にも案内しないわ、さらには店長は居ません代わりにバイトだぁ?!ふざけてんのかこの店は」

かっちーん

「おいてめぇ、」
「…はぁ?!」
「この店完全予約制なんだよ、ふざけてんのはどっちだ?ああ?」
「なッ…!!」
「外に看板出てただろ?『ツンデレ喫茶』って…見えなかった?」
「『ツンデレ』…?」
「はぁ?マジで?ツンデレって言葉の意味も知らないで入って来たわけ?ありえない」
「よ、ようは喫茶店なわけだろう?!」
「違うんですよ、おどじなお兄ちゃん?」
「ま、またお兄ちゃんって…!!」

顔を真っ赤にして取り乱し始めたイケメンさん。ああ、やっぱりコイツ間違えて入って来たのか…マジばか、マジ無い。でもかっこいいから許す。でもでもさっきの態度は本当に私の小さなガラスの心を傷つけられたから…ちゃんと10倍にして返してからご退場願おう。もう間違えて入ってきちゃダメだよ?

「そういうお店なの、お客さんの事おにいちゃんって呼んで、なじっていじめて冷たくあしらって…それでコーヒーとか軽食とか出してはい!さようなら〜ってお店。そんなことも知らないなんて…ダサいっていうか非常識だよお兄ちゃん?」
「ぐっ」

イケメンさんは苦い顔をして店内を見回す。さっきの☆あーちゃん☆(本名:麻美)がデブのメガネオタクをなじってメニューを取り上げているテーブルや、お客さんがずっとしゃべってるのに全然興味がなさそうにつったってる女の子、帰ろうと席を立った客の服の裾をつまんでしおらしく甘える女の子…。イケメンさんはごくりと緊張からか、つばを飲み下した。それからゆっくりと私のほうに向き直る。ほら、どん引きでしょ?顔がぎゅんぎゅんに引きつってる。お兄さんみたいなイケメンさんが来ていいようなところじゃないんだよここ。だからはやく帰って駅前のスタバでなんちゃらスチーマーでもフラペチーノでもかっこよくすすって可愛い彼女の元に帰って仲良くセックスして気持ちよく射精してお休みなさい。私はこの後閉店の準備とか帳簿とか金庫とか忙しいんだから…でもイケメンさんの顔見れてよかったよ。

「ご察しの通り、こういう特異な店なので一般のお客様わッ!!」

意地悪モードもやめて(だってさっきのイケメンさんの顔ったらひどかったんだもん、かわいそうになっちゃう)普通に接客…しようとおもったら急にイケメンさんが私の手をぎゅっと握ってぐうっと自分の方に引き寄せた。ええ?!な、なに?!

「お前の精神状態は普通じゃない!!悪い事は言わない、俺のカウンセリングを受けろ!!」
「っふざけんな…!!」

ちょっとときめいちゃった私が馬鹿みたいじゃないか…!!ちくしょう!!これだからイケメンは!!イケメンの魔力は恐ろしい!!どんな寒いセリフだろうがイケメンの手にかかればバラの吐息だからだ!!世界中を敵に回しても〜だってイケメンに言われたらホイホイされちゃうもの!!店内の全員が私のことを見た。いつもは私が辱めてやっている常連の客だって、大口を開けて私のことを見ている…!!こ、こんな屈辱受けたこと無いわッ!!さらし者にされるなんて…!!私は根限りの力でイケメンの頬をぶってやった。

「あうッん…!!」

?!


い、いまのなに?!イケメンさん、めっちゃエロい声出した…!!そして大げさに床に突っ伏して頬を押さえる。また、文句言ってくるのか?それとも…なんかよくわかんないけどまたさっきのエロい声を出してくるのか?!ナンなんだこの人?!

「た、頼む…俺のカウンセリング…」
「カウンセリング受けんのはてめぇだろッ!!」

足にしがみつこうとしてくる変質者(イケメンさん)を振り払って足蹴にしてしかりつけると、体を丸めてふるふると震えだした…

「ただいまー」
「あ、店ちょ…」

「お、俺を彼氏にしてください…!!」

買い物帰りの店長の目の前で、営業中のツンデレ喫茶の受付で…。人生初、初対面の成人男性に土下座で泣きながらお付き合いの申し出を受けました。後日談ですが、その時彼は完全な勃起状態にありました。お母さん、お父さんなまえは元気です。どうぞ心配しないでください。ただ、最近ちょっと変な(でもかっこいい)彼氏が出来ました。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -