蜂須賀虎徹と幼女
旧・死んでも金ピカ
目がさめると真っ白な人の手があった。ああ、そうか、これは俺の手か。

これが今日より我が主だと前に出された審神者殿は敬称をつけるのも憚られるほどの幼子で、正直面食らった。こんな子どもに仕えろというのか。照れか畏怖かは分からないが主は俺を見るなりその小さな両手で顔を隠してしまった。幼子に恐がられるような容姿では無いと思うのだが…。顔を隠されたままではどうにもならぬとしゃがみ込み、そっと向かい合い、その小さな手に触れる「蜂須賀虎徹だ。主、そんな風に怖がらなくていい」優しく声を掛けることに、ためらいは無かった。どうしてだろう。この幼子に無体は働けないと思った。それは俺を呼び覚ました彼女との何か繋がりの所為なのだろうか「なにも怖くないのよ。ただ、あなたがあんまりに金ピカだったものだから」目に沁みただけよ。その大きな瞳をたっぷりと濡らし、大きく微笑んだ。その笑い顔がとても心地よかった。金ピカか、それはいい。俺は贋作とは違うからね。丸い頭に手をやれば、小さな手を俺の手に重ね、握り、ぬくもりに飢えた子どものようにわっと飛び込み抱きついてきた。ああ人の子とはなんと温かいのだろう。そのぬくもりがたまらなく尊く思えてなりふり構わずに抱きしめた。主はいつでも俺を近侍においた。まあ贋作とは違うからね。同然だと思う。俺の膝に乗り胸に抱きつき髪をいじり母親に甘える子犬のようにまあべったりだ。誰から貰ってきたか結い紐やら髪飾りを持ってきては俺の髪に飾っては遊んでいた。飾られる気分は良かった。大切に扱われるのは悪くない。愛情のようなものも錯覚する。露骨な特別扱いは気味が良い。が、どうしてかこの幼子は俺に馬の番やら畑仕事までさせた。決まりだと言われてはそこまでだが、適材適所というのもがあるだろう…馬の世話など贋作にやらせるべきだ…。そうぼやけば、呆れるでも馬鹿にするでもなく主は笑い「あなたに世話をしてもらえるなんて馬もきっと光栄に思うわ」「蜂須賀の野菜の目利きは本物だわ」などとのたまった。ああ、なんて口の上手い。軽く乗せられてやるわけじゃない。そうまで言わせて、俺がやらないわけがないじゃないか。どうもこの主は俺の扱いが上手い。理解され制御されると言うことはこうまでして嬉しいことなのだろうか。部隊には性能の良い太刀や大太刀が揃っていても、彼女は俺を近侍からはずすことは無かった。俺の金ピカが好きだと、よく一緒になって鎧の手入れをした。金ピカが似合うと、大好きだと笑った顔を装甲に映す彼女が俺は好きだった。部隊長を任される誉れ、常に近くに居られる喜びに…驕っていたわけではない。が、折れた。運が悪かった。みなが負傷していた。疲弊しきっていた。本丸へ帰る途中だった。大太刀率いる敵部隊に襲われた。早駆けで、逃れられたかもしれない。が、本丸に乗り込まれるわけにはいかない。どこかで自身が折れることが分かっていたのかも知れない。が、恐怖は無かった。ただ、戦っていることに、今までで一番、あの子を守っている自覚があった。あの子のために戦っている誉れがあった。熱い返り血を全身に浴び、いつのまにか足を失っていたことにも気が付かなかった。斬りかかる、が、駆け出せず、突く。音が無くなる。頭の中であの子の声がする。蜂須賀、と俺を呼ぶ、嬉しそうな声だ。愛おしい響き、愛した音だ。答えたい。どうした?今日はなにをするんだ?俺の弟の話をきくか?また新しい結い紐かい?贋作とは違うんだ、ありがたく思いなよ?そんなに俺の事が気に入ったか、君は大した目利きだね。ああ、愛おしい…なんて愛おしいんだろう…。はたと気がつけば俺は燭台切光忠に抱かれていた。第一部隊の面々が見える。俺の事を覗き込んでいるのか「敵部隊は全て破壊したよ」石切丸が口を開いた。ああ、そうか。勝ったのか…よかった…ならば帰ろう。そう言おうと口を開くと、胸の奥から熱い血が込み上げてきて、吐いた。震える手の平を見れば赤い。自分の血か敵の血か。自慢の鎧までも真っ赤に染まってしまっている。目の前がかすんできた。ああ、俺は折れたんだな。みなそういう顔をしている。みなに何か言いたい気がしたが、それより呼びたいものがあった「あ…っじ…」喉笛を鳴らし熱い血をこぼしながら呟けば、自分の声の弱さに本当の最期を悟った。主、あるじ…寒いな、体の血が空っぽになってしまう、何か温かいものが欲しい。あたたかくやわらかくやさしいものが欲しいよ。どうしていまあの子が俺の傍にいないんだろうどうしていまあの子が俺の膝の上にいないんだろうどうしていまあの子が俺の胸の中にいないんだろうどうしていま俺はあのぬくもりを抱きしめていないのだろうあんなに、いつも、一緒だったのに。感覚の無い腕で空を抱く。胸に落ちた腕は赤い血でぬめり地面に落ちた。こんなに赤い。こんなに赤くて、俺はもう君の大好きな金ピカではないけれど、それでも好きだと言ってくれるだろうか。俺を好きだと言ってくれるだろうか…ああ、死にたくない、消えてしまいたくない、もっと輝いていたい、あの子のそばに…もっと、ずっと…。意識が遠のく、ああ、愛しいあの子が俺を呼ぶ声が聞こえる…答えなくては、答えたい…あの丸い頭に手をやって…ほら、俺はここだ…大丈夫、どうか俺が死んでも泣かないでくれ…愛しいぬくもりを求め、宛ても無く手を伸ばした。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -