高校生じゃナイ荒北くんといっしょ
「私はねー看護師さんになりたいわけでもなければ介護師さんになりたいわけでもないんだよ、靖友くん」
「・・・せーヨ」

2人の部屋のリビングの、生活感溢れまくるたまに靖友くんがベブシこぼしたり私がソイラテこぼしたりした不規則かつ不衛生なシミが2人の人間が住み着いている様子が伺える火を見るより明らかなけばけばしたカーペットにどかっと座ってる靖友くん。その細い体には、身長的なサイズとしてはぴったりの癖に体の細さ的にはぶかぶか感を否めない一般的なメンズTシャツをまとっているその体にはそこかしこにテーピングが施されていたりする。私にはよくわからない、筋肉の筋に沿ってどこをどうしたいのかわかんないけど、靖友くんの体の何かをどうにかするためにその手ではべりっと切ることはできないくらい頑丈な肌色の布製の(本当は布ではないんだろうけど、手触りは私の知ってる白くて細いテーピングとは違う)大きなテーピングが施されている。お風呂に入る前にそれをとると、ビビビっと不吉な音がして、靖友くんの体に真っ赤な痕を残すのだ。その赤いところを触るとちょっと痛いらしくて、つついたり撫でたり息を吹きかけたりして「参った?ねぇ参った?」「おなまえチャン、いい加減やめな・・・サイ!」ってはがしたばっかりの靖友くんのぬくもりとスースー刺激臭が残るテーピングでぺちぺち叩かれたりする。シップとか絆創膏も張ってあるその細い体は靖友くんいわく自転車乗るために不必要なものは全部削られてて(私から言わせれば靖友くんの体なんて1mgも不必要な部分なんてないのだけれど・・・)細くてでも中がぎっしり詰まった重量感はあって触ればちゃんとあったかくて、すぐにポキっと折れちゃいそうなくせに私が叩いたくらいじゃびくともしなくて、私の事だって持ち上げてしまったりする不思議な構造になっている。

「あ、ねぇこのアザ、ちょっとハートっぽくない?こっちのはネコっぽく見える!この前の青アザはだんだん黄色になってきたね?もうすぐ綺麗になるかな?」

靖友くんの二の腕に指先を滑らせて出来たてほやほやの赤黒いアザをなぞる。一応わたしの化粧水とかしみこませる時に使うコットンに家庭用消毒液を浸して皮膚を軽く拭う。ちょっと痛い顔をする靖友くんは実にかわいい。要所を消毒-湿布-包帯してる私の手つきがたどたどしさを失うのに、そんな長い月日は要らなかった。靖友くんの二の腕の上で包帯を取りこぼして床の上をコロコロ転がして「ああ!もう!」って靖友くんを不手際でイラつかせていたころが懐かしい。今では消毒も湿布も包帯も手馴れたもので、金城くんに教えてもらった基本的なパターンならテーピングだって結構いける。今も靖友くんは眠たそうな、拗ねたような変な顔で私の手が自分のアザまみれの二の腕を綺麗に包帯で巻き上げていく様をじっと見てる。(上手になったでしょう?)そう言おうと思ったけどやめた。だって別に私はほんとうに看護師さんとか介護師さんになりたいわけじゃあないんだから。

「ねおなまえチャン」
「…んー?」
「ヤダ?」
「何が?」

座ってる靖友くんの隣に屈んで二の腕を包帯しているこの体勢は靖友くんの顔と私の顔が近い。珍しく呟くような声でしゃべり始めた靖友くんの声はまるでお母さんに怒られた子どもみたいに悲しい声だ。そのまま私も靖友くんもしゃべるのをやめて、私はただもくもくと包帯を巻き続けた。きゅっと結び終わって、靖友くんの(比較的きれいな)膝に手を添える。骨ばっててごつごつしてて、たまにこれで背中ぐりぐりされると痛いんだけど気持ちいいんだよねーなんて思いながら撫でてみる。

「ロードでさ、怪我…してくるでしょ?」
「だねぇ?」
「ヤダ?」
「…そりゃあ、彼氏が怪我して嬉しい彼女はいないでしょう?」

靖友くんは自転車競技部に入ってて高校生のころから有名人なのだ。付き合うようになってから一度だけ、靖友くんの部の先輩の彼女さんに連れられて試合を見に行ったけど・・・速すぎて分からなかった。先輩に「洋南きたよ!」って言われて、ぱっとそっちを振り返ったら、もうそこには居なくて、え?!って進行方向を向いたときにははるか遠くに背中が見えるってだけで、あの背中が靖友くんのものなのかどうかだってわからなくて、でも先輩は「荒北くんのゼッケンだったよ!」って言うし、でも私まさか自転車のレースにゼッケンがあるなんて知らなくって、見に行けば、なんか勝手に靖友くん見つけれて「靖友くん!応援来たよ!」って手を振れば「おなまえチャン?!えっ?!」って私が試合を見に来るって知らなかった靖友くんが驚いて、でもそのあと照れくさそうに鼻の下を擦って軽く手を振り替えしてくれて、きゃー!靖友くーん!って、なって…なって、って・・・予定だったのに…なんだか何も面白くなくて、しかも試合のあと靖友くんはその危ない運転の所為で結構体傷だらけで帰ってくるしで…不満を言い始めたら確かにキリはない。試合の日の夜は帰ってきておなかいっぱい食べたらシャワーはすんでるからって言って次の日の昼近くまで寝ちゃうし…うん…うーん…

「でも、自転車乗ってる靖友くん嫌いじゃないよ?」
「あ?」
「だって、みんな荒北くんすごいねーって褒めてくれるし」

ぴちぴちのユニフォームも似合ってるし?って笑えば「バァカ」ってほっぺた両手でむにむにされて、その手の平がハンドルを強く握る所為で硬くてぼこぼこしてるのだって、全部靖友くんで愛おしいんだ。歯茎むき出してしゃべる癖とかケータイの待ちうけが実家のアキちゃんのブレブレの写真ってこととか本当はワイルド系になりたいけど体毛が薄いこと気にしてることとか洗濯物干すときぴっちりしわを伸ばさなきゃ気がすまないとことかのくせに畳むのは雑だとかシャンプーが目に入るのが嫌だからシャンプーするのがめちゃめちゃ早いとか膝まくらしてあげると私のおなかに顔うずめてぎゅうって抱きついて赤ちゃんみたいになっちゃうとことかそれを写真とって金城くんに送っていい?って聞いたら本当に私のケータイ電子レンジでチンしようとしたこととか、怪我の事、わたしが怒ればロードしてる自分ヤダ?なんて女々しいこときいちゃったりするとことか、全部が全部愛おしい。

「それに、靖友くんの怪我の手当てするのは私の特権でしょう?」
「…っせ!」
「照れるな照れるな」

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