独占欲の塊彼女に優しいHSK高尾
トイレ掃除の当番で、専用の洗剤が切れちゃってて、倉庫までそれをもらいに行かなきゃいけないんだって思っただけで、なんだか無性に和くんのことが恋しくなった。手洗い場の鏡の横にトイレットペーパーをピラミッドみたいに3つ並べながら和くんのことを考える。ぽっと胸のあたりが温かくなる。和くん、今週はどこの掃除当番だったっけ?中庭・・・だったような・・・。そういえばこの間、クラスの女の子(花壇の掃除当番)が和くんに助けてもらっちゃったーって言ってたっけか・・・花壇にいた大きなバッタか何かを追い払ってくれたとかどうだかで。掃除が終わって私のところにわざわざ報告に来てくれたんだよねーあの子。「みょうじちゃんいいね、高尾くんが彼氏で」って。なんて返していいのかわからなくって、素直に(和くんの何を知っててそんな言い方するの?)なんて言えないから、なんかあやふやに笑って「ありがとー」って返した。

掃除道具を片付けて、同じトイレ掃除の係りの子に洗剤もらってくるーって言付けてからトイレをでる。ふっと息をついて、もやもやし始めた気持ちを落ち着かせたくて、ぺちっとほっぺたを叩いた。和くんは誰にでも優しい。そういうところが好きなんだ。誰にでも気兼ねなくて、平等とは言い難いけど、優しくてノリがよくて面白くてかっこいいんだ。クラスのみんなが和くんのことを大好きで、同学年のみんなが和くんに興味があって、学校のみんなが和くんのことを知ってる。そして和くんも、天然なのか意図的なのかちょっとわかんないけど、みんなのそういう・・・みんなが和くんに求めているものを与えることができて、まんまと与えて、あっさりと犬にしちゃうんだ。わんわんわん。高尾くんって面白いよねわんわん高尾って良いやつだよなわんわんわんかっこいいしわんわんノリいいしわんわんバスケも上手いしわんわんわんわんあー私も高尾くんと付き合いたーいわんわんわんわんわんわんわん。

和くんは「えー?そっか?」って笑うけど、和くんはきらきら光ったスーパースターだ。隣にいるのが苦しくなるよ。みんな和くんのことが好きで和くんは人気者で、なんでもない私なんかが隣にはいられないんだって、壊れたように泣いたことがある。女の子の視線が私に言うんだ『なんであんたなんかが高尾くんの彼女なわけ?』男の子の視線もうるさい『みょうじって大したことなくね?なんで高尾と?』そう言われてるみたいで辛いけど、それでも私はやっぱり和くんのことが好きで、隣にいることを諦めきれないようって。へたり込んで泣き喚く私に和くんは『おなまえちゃんが逃げたって俺すぐ追いつくし、そもそも逃がすつもり無いんデスけどー?』って笑った。隣に居てよ、って。隣に、肩が触れ合うくらい近くにしゃがみこんで、私の耳にキスしてくれた。それから、みんなの視線が、余計にうるさくなった。

「あっれー?おなまえちゃーん!どったのー?倉庫にご用事?」
「あれ?和くんこそ・・・」
「部活のセンパイが代れってー、横暴な人がいるんだよなー」

洗剤を取りに倉庫に来たのはいいけど、中庭当番のはずの和くんがいた。指先に、倉庫の鍵をくるくるして、私を見て笑う。和くんは、ってかなにこれ俺ら運命じゃねー?って私に駆け寄って、私の髪を両手でよしよし撫で付けてから、両耳をピンっとつまんで引っ張る。痛いよって笑うと、どんくらい痛ぇの?俺にもやってよーって屈んで、私に頭を差し出してくるから、このくらいだよー!ってその真っ黒な髪をわざとぐちゃぐちゃにかき回してあげる。満たされなかった部分がたっぷりと満たされていく気分だった。『高尾ー学校でイチャついてんじゃねーよ!』クラスの男の子グループが、通りすがりにヤジを飛ばして茶化していった。「ひがんでンじゃねェーよ!独身貴族様っ!!」笑って挑発しかえす和くんに、冗談で飛びかかろうとしてくる男の子。どくんっと、嫌に胸が熱くなった。


気がついたら、和くんの服を引っ張って、倉庫に飛び込んで、中から鍵をかけてた。

倉庫の鍵は和くんが持ってる。職員室に行って先生か用務員さんに頼んでスペアキーを出してもらわない限り、誰も外からは開けられない。薄暗い倉庫の中は広いけど、たくさんの物が積まれてて人が自由になれるスペースというのはそんなになかった。私と和くんがなだれ込める程度のスペースに、ほとんどもつれ合うように倒れ込んだ私と和くん。埃っぽい空気がすぐに和くんに匂いでいっぱいになる。満たされる。胸が熱くなる。

「おなまえちゃん?大丈夫?」

大丈夫じゃないけど大丈夫だよ和くん。でも大丈夫だけど、大丈夫じゃないの。扉の向こうではさっきの男の子グループが私と和くんのいやらしい話で盛り上がってる。何か言い返そうとした和くんが体をよじって、大きな声を出すために息を吸うのが触れ合ってるお腹同士で分かった。ほかの人に気を取られたくない。和くんにほかの人を見てて欲しくない。ほかの人に和くんを見て欲しくない。和くんには私だけを見てて欲しい。隣同士で、上とか下とかの関係で。ぎゅっと和くんの首にしがみついて、私だけを見て欲しいと願う。

「・・・おなまえちゃん?」

どっか痛ェの?って優しい和くんの声。あの日から、女の子も男の子も、みんなが和くんを見てる目がうるさくて仕方なかった。みんなが私から和くんを奪おうとしてるような気がした。やっぱり、私では和くんに見合わないんだって、強く思わされた。和くん、ごめんね、こんな嫌な彼女でごめんね和くん、誰にも和くんのこととられたくない、和くんのことまるで物みたいに言いたくないんだけど、それでも、私だけの和くんでいてほしいの和くん、それでも和くんはキラキラ輝くスーパースターでみんなの目から遠ざけることなんてできなくて

「和くんのこと、どこかに、閉じ込められたら、いいのに・・・」

ずっと、胸の中でもやもやしてたのを、吐き出すと、引きずり連なって出てくるみたいに涙が溢れてきた。和くんにしがみついて、あの時みたいにわんわん無く。わんわんわん。和くんが好き。私だけの和くんでいてほしい。でもそんなこと言って幻滅されたくない。そもそも和くんに見合わない私がいけないんだ。こんな私だけど、それでもやっぱり和くんがいい。感情が分裂して分裂して分裂して、まるでほかの自分が私とせめぎ合う。「例えばさ」和くんがぽんっと私の頭に手を乗せた。

「俺の足へし折って、首輪とか手枷とかでどっかにくくりつけて動けなくして、メシも風呂も便所もおなまえちゃんが面倒見てくれるっつー生活も悪くねェと思うんだわ。なんかヤバいAVっぽくて興奮するし?」

よしよしって、さっきみたいに私の頭を撫でてから、そろっと頭の輪郭を下ってきた手で、私の耳をピンっと引っ張る。そうやって私に上を向かせて、目を合わせて、それまで怖いくらい真面目な顔してたくせに、ちいさな子みたいにニッコリ笑う和くん。

「でもさ、俺らっておなまえちゃんが思ってるよりも遥に一般高校生なわけデスよ。おなまえちゃんは俺のことスーパースターだとかいって特別扱いしてるけどさ、俺だっておなまえちゃんのこと特別だしモチロン。だからさ、濃厚マニアックAVプレイはもうちょっと未来の話っつー事で、明日からはフッツーに『ぷんぷんっ!和くん私だけ見ててよねっばかァ!』って拗ねる方向で、ね?よろしくお願いしまッす」

私の両頬を、両手でぶにんっと挟み込んで遊ばれる。ああ、和くんは、ちゃんと私のことわかってくれてるんだ。伝えきれてなくても、伝わってくれてるんだ。人に嫉妬して、すねたりしても幻滅なんてしない。私のことを見ていてくれるんだ。許されたみたいで、愛されてて、理解してもらえて、何もかもが満たされる。やっと私も、和くんに笑い返すと、和くんは自分のお尻のあたりに手を伸ばしてなにやらゴソゴソし始めた

「んで、俺の次に欲しいのが、これっしょ?」

取り出されたのは和くんの下敷きになってたトイレ専用の洗剤。私は自分が思っているよりももっとずっと和くんに愛されているみたいだ。

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