笠松くんがムラっとしてる話?
「あ、そういえば」

昼休み。一緒に弁当を食っていたみょうじが、真向かいでちゅうちゅうとやっていた鉄分がどうらたとか書いてある紙パックのストローからちゅぷっと唇を離して呟いた。もちろん弁当を食べていた俺は、それまでみょうじと一緒になって観ていた彼女のスマートフォンの画面に映し出されていた最近お気に入りのバンドのPVから目を離す。ふっくらした下唇に、うっすら牛乳だか豆乳だかが滲んでいるのがエロい。

「どうしたよ?」

母親に叱られても直らないねぶり箸を離し、みょうじを見やれば、そんな大した事ではないのだけれど…とでもいう風に肩をすくめてもう一口ストローから何やらを吸い上げ、飲み下し平然と「生理がきちゃっただけ」言い退けて、またストローに口をつけた。あー、へーふーんそうか生理か、大変だなー、お前生理痛酷いしなー、あ、だから鉄分がどうとかっての飲んでンのかー本当に女子って大変だよなー、ほー、ふーん…せいりかー…え、生理???え、マジ、で…すか???それがつまり今週末の俺への残念な、とんでもない予定狂わせ俺狂わせ、具体的に言えば俺のアレなサイクルを狂わせるとんでもないお知らせであるという事はみょうじも重々分かっているはず…なのに、なのに…なんて軽さだ…そ、そんな…簡単に、言いのけやがって…それって、つまり、お前…今度の休みは…マジかよ。おい…、唇に引っかかっていた箸が劇的にもカツーンと音を立てて机に落ち、跳ねとび、床に落ちた。なにやってるのもーと小言を言いながらも、イスからケツを浮かして屈み、垂れる髪を耳にかけつつ箸を拾ってくれるみょうじの耳たぶの付け根からはじまる柔らかなラインを描く丸い顎にさえ、こんなに簡単に興奮できるのに…そんな年頃だってェのに…お前、おまえ…生理ってお前…仕方ねぇけど…おーまーえー…


「おまえさァ…本当に、お前さァー」
「なに?ちゃんと泊まりにきてあげたじゃない」

土曜の1日部活を終えた体は、クールダウンをしたから、飯を食って風呂に入ったからと言ってすべての疲れがきれいさっぱりリセットされるわけではない。以前から予定していたビッグイベントが彼女の生理によって、不順な…生理、に、よって…実行不可能になってしまった傷心の俺に部活での疲れは殊更であって…てか、正確には絶対不可能ではないんだよな、ただ俺にそういう趣味はないしみょうじが嫌がることはしたくねぇしてかできねぇしちょっと、生理中、には…あ、いや、でも…ん?いや、どうだ?ん?嫌がるみょうじを無理やりってのは、悪くねぇけど、あ、好きだけどだいぶいいけど…血、は…血はなぁ…真面目にシーツとか汚れるだろうし、でも、なんか…血ぃ、でてるって…背徳感はとんでもねぇな…「汚れちゃうからヤメテぇ」みたいなみょうじも…う、うん…なんか、なんか悪くねぇ気がしてきた…悪くねェ気がしてきた!!!!けど、これは、まだちょっと…その、あの…実行はまだ…もうちょっと大事に…夜のお供(とっておき)のネタとして大事にしておこう…。

生理中は泊まりはもちろん外出も嫌がるみょうじは生理に伴う痛みが激しいらしい。らしい。俺じゃ比べようもねぇし、他の女子に「生理痛ってだいたいどのくらい痛い?」とか訊けるわけねぇし、興味ねぇし…とにかくみょうじは酷いらしい。鎮痛剤飲んで大人しくしてりゃあマシだとは言え、そんなん毎月あったらたまったもんじゃねぇよな…しかも常に血だしてんだろ?ぞっとする。嫌悪感とかじゃなく、自分じゃ堪えられないだろうなーって、素直に同情?とも違うけど…そんなん毎月我慢して、偉いなーって思う。たまに貧血で顔面蒼白、倦怠感にふらふらしてるみょうじを見てると、なんか申し訳ない気持ちになってくる。俺は医者じゃねぇから何もしてやれねぇし、小堀みてぇに気は利かねぇし、森山みたいにドロドロに甘やかして気分良くさせてやることも出来ない。ただ、一緒にいるだけ。みょうじは、それでいいよ、っつってくれたけど…はぁ…情けねェ…。しかも今晩は、これは、俺のわがままだ。生理だから泊まりは嫌だというみょうじに、頼み込んで頼み込んでシュークリームおごってみょうじの観たがってた映画のDVDも借りて泊まり用具入ったカバンも俺が持って自転車二人乗りして、泣き脅しの拉致だ。自転車の二荷台に横座りして、俺の背中に頭をぐりぐりしながら、カーペットを汚すかもしれないとか、トイレの回数が気になるとか、生理中は機嫌が悪いから下らない喧嘩になったりするのが嫌だとか…そもそも泊まったってセックスは出来ないから、とか…ぐずぐず文句を並べるみょうじに「一緒に居たいだけだから」と告げれば「ばか」とか言われた。

一緒に居たい、は、本当。風呂上りに彼女が自分の部屋にいて、一緒にゆっくりできて、さらには人目をはばからずいちゃいちゃ出来るなんて、今のところ(バスケ関連抜きで)これ以上の幸せを知らない。ほかほかとあたたかい自分の体で、ローテーブルにちょこんと鎮座した彼女を後ろから包み込む。抱き込んで、首筋に顔をうずめて、おもいっきり息を吸い込む。みょうじのあたたかな微粒子が匂いとなって俺の脳みそを刺激し(これは幸せだぞ!)という伝令が体中を駆け巡る。くすぐったそうに身をよじるみょうじの体が、柔らかくてあたたかい。動かないように腕で足でがっちりホールドしてやれば、苦しそうに、うっと息を漏らした。叱られる、と直感して力を緩めれば「もう」っと太ももをぱしっと叩かれた。一緒に居たい、は、うそじゃない。一緒にいたい。一緒に居れば触れたい。触れられたい。彼女の機嫌を見定めつつ手癖をエスカレートさせていけばそのうちにキスもしたくなる。そうなればもうそこかしこに触れて触れられて素っ裸で抱きしめあってそういう風になりたいと思う。

でも、今日は、そこまでは、出来ない。分かってる。分かってて呼んだんだ。今日はそこまでは出来ない。でも、一緒に居たい。自制できると、思ってた…俺は、自分の性欲をちゃんとコントロール出来る、と、思って、いたはず…なのに…両の手はいつのまにかみょうじの胸へ…。…包み込むようにやんわりを手を添えれば、パジャマ代わりのサマーワンピースのさらっとした布越しに、柔らかくあたたかいおっぱい。…触るくらいでは怒らないらしい…顎をみょうじの肩にのっけて、先ほどから何かこちょこちょとやっている彼女の手元に目をやる。カラフルにコーティングされたチョコレートの粒を、何が楽しいのか、ローテーブルの上に敷いたティッシュに並べて、色を選別しては、彼女の中の何かの規則にのっとり、順番に整列させられては、また別のパターンへ変更されていた。何がしたいんだかさっぱりわかんねぇけど、みょうじは好きな事をさせておけば、滅多に機嫌を損ねたりしねぇし、生理中は特にそういうのに熱中しやすい性質だ。そのまま好きにやらせておこう、と、そう思いながら行為をエスカレートさせていく。ぐっと胸を鷲掴んでみれば、なんだかいつもより…デカい気がする…生理中は胸が張るとか、でかくなるってマジなのか…?下から持ち上げるように上下に揺らしてみたり、外側から押してふにゅっと胸同士を潰し合わせたり、ぐるぐる捏ねるように揉みこんでみたり…してたら…なんか、これ、あれ?みょうじ、怒んねぇし…もしかして、イケんじゃね?これ、けっこう、みょうじもまんざらじゃない感じ?

「…みょうじ、…。…おなまえ」

耳に唇を寄せて囁く。正直、自分でも引くくらいに甘い声が出た。硬くなってきた自分の股間を、ぐっと腕の中のみょうじの尻に押し付けて、興奮してるやりたいやりたいって意思を伝えてみる。あー、やばい…おれこれすきなんだ…ぎゅってみょうじに抱きついてさ、へんな意味じゃねぇけど甘えンの?縋るみたいな、振り向いて欲しくてその気にさせたくて触って欲しくて触りたくてってのを、口で伝えずにゆっくり行動で示すの…これ、おれ、好きだわ…。ちゅっちゅと耳にキスして、胸いじるのやめて肩をぐっと抱き込む。みょうじの頬に、頬ずりをして、上目遣いに見やればきっと、セックスは無理でもせめて手で抜いてくれたりしないだろうか?と期待してた俺は、頬に触れた水滴にビクリと姿勢を正した。

「え…あ、の…みょうじ、さん?」
「だから、お泊り、いやだって…いやだってェ…いっだのにぃ…」

土下座で済んで良かった。

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