南とシュークリーム
「オカンが菓子食うてけやて」

学校帰りに南の部屋に上がりこんで勝手に部屋を物色してると、お母さんに呼ばれて重い腰を上げいったん居なくなっていた南が戻ってきた。でかくて臭い足でばたんっと乱暴に部屋のドアを閉める。なんで足で閉めんの、ちゃんと手でしめなさいお手手で、って思ったけど、ベッドにもたれてる私を不機嫌そうに見下ろす南の手にはコップ2つとなにやら小袋がのっかったお盆が握られてる。

「勝手に人のエロ本読むなや」
「え、おやつ?!わーい!」
「おいコラ」

せっかく見つけた南のエロ本。何冊も乱雑に積み重ねられた週バスのあいだにこっそり?というかは、読んでポイ読んでポイのサイクルで、そこにあったエロ本。メイドとかマニアックなものじゃなかった。猫耳ロリっことか好きだったら明日にでも岸本にチクってネタにしてやろうと思ったのに…ってか、南のエロ本の好みなら私よりも岸本のほうが知ってたりすんのかな?南は岸本とそういう話するのかな?

「読んだら片しとけや」
「もともと散らかってたじゃん、あ!オレンジだー」
「ボクなりに整理してあるんデス大雑把なおなまえさんには理解出来へんでショウけど?週バスはソレちゃんと並べてあったンです」
「へーへー、そうでしたかーえらいすンまへンなー」

折りたたみ式のローテーブルにお盆を載せた南が、雑誌に取り囲まれてエッチなお姉さんの写真を楽しんでいる私をずいずい押し退けてわざと甲斐甲斐しく週バスを整理し始める。うーわームカつく、うそじゃん全然ばらばらのぐじゃぐじゃにおいてあったくせにサ!エロ本見つかったの恥ずかしいの照れ隠しか?!キモっ!!南のお母さんが注いでくれたオレンジをコップいっぱい飲み干す。と、ほわほわとやわらかい雰囲気の小袋がばっちりぜんぶ見えた。

「シュークリームだ」
「貰いモンやと」

南は私がシュークリーム大好きなことを知らない。そういう、彼女の好きな食べ物を把握しておこう、食べさせてあげようとかいう気遣いが出来るようなカリメロじゃない。むしろ、もしも、ここで、私が「シュークリーム大好き!」なんて口を滑らせて見ろ、こいつは光の速さで私からシュークリームの小袋をとりあげて「そうなんか〜」にやにや笑いながら私が足を舐めちんぽを舐めシュークリームちょうだいいっぱいちょうだい南の熱いのいっぱいちょうだい?!くらいの必死の懇願を見せるまでシュークリームを返してくれないだろう…。こいつはそういう男だ。前だって一緒に学校の購買に行ったらメロンパンとられたし…返せって言ったら宿題写させろおっぱい触らせろパンツ見せろといいたい放題やりたい放題で、さらには食べ物への執着心の強い私の性質を良くご存知のクソヤロウ…それだけで食べたいもの食べれるんなら大体のことやりのけちゃうんだよくそうこのくそう!!ふぅ…平常心だ…ここは、ね、ようし…

「『天国の味』だって」
「何がや」
「このシュークリーム。袋にそう書いてある」
「さよか」

いつのまにかベッドに寝転んで雑誌をぱらぱらとめくっている南。私の話には全然興味なさそうで、たまにお尻をぼりぼり掻いたり鼻をほじったりと、おいお前それよく彼女の前でやるな?もっと格好つけておけよ飽きるぞ?…まぁいいや、シュークリームいただこう。ばりりっと小袋を破って、中からふわっとしたシューの中にたっぷりとしたクリームを思わせるその優しいフォルムああん…たまらん。頂きます。南のお母さんいただきます、南のお母さんにシュークリームくれた人いただきます。
「はむっ…あまい」
「さよか」
「もふっ、めちゃあまい」
「ふ〜ん」
「あぐむぐ…カスタードめちゃ入ってる」
「そりゃあようござんした」

うんまっ?!なにこのシュークリームめちゃうま!ばかうま!うまうま!本当はもっとぎゃんぎゃん騒ぎながらさけびながら貪りたいんだけどそれはたぶん南に怒られるのでコイツ怒るとめちゃ怖いので本当に怖いのでいい子に正座したままもぐもぐ食べる。うまい。たべる。ばかうま。たべる…

「『天国の味』ってさ、違うよね」
「美味いンやろ?ならええやないか」
「違う違う、だってさ甘い物嫌いな人にしてみればこのシュークリーム『天国の味』じゃないでしょ?」
「屁理屈やな」
「…でもさ」
「おなまえには天国やろ?」
「ま、まぁ?甘い物嫌いな女の子なんていないし?」
「俺のも食うてええよ」

ぺら、っと雑誌をめくる。あ、いつのまにかエロ本にすりかわってら。え、てか今コイツなんて?え?食べていいの?南の分も?この激うまばかうまシュークリームを?え?

「好きやろ?お前、それ」
「え、何で知って?え?」
「アホ、こないだ岸本にシュークリームたかっとったやないかい」
「え、あ、わ…たしそんな事してた?」
「してはりました」
「そ、そーでっか」

覚えのないいじめ、南が私の好物を知ってた事実、さらにはそれをくれるって…え、ちょ、めっちゃ冷や汗かいたわお前なに?急に優しくなっちゃってどうしたの?なんか悩み?えっえっマジで?シュークリームいいの?天国の味、もっかいいいの?あ、わ…シュークリーム…あ、っべ、よだれたれた

「い、いただきます」
「どーぞ」

びりり、シューの香ばしい匂いにカスタードクリームのぽってりとした甘い匂い…はぁん、天国…なんだ、南、いい奴じゃないか、ちゃんと優しい彼氏じゃないか、強面イジワルの色情狂かとおもってたけど本当は優しいカリメロちゃんだったんじゃないか、もう惚れ直しちゃうぞッ!

「それ食うたら一発ヤらせろや」
「はむっ、ふが?!」

ベッドの上で寝転んだままにやにやしてる南…え、こい、つ…は?今なんて?はぁ?

「天国1人じめっちゅうんはアカンやろ?」

前言撤回だ。やっぱりこいつは強面イジワルクソゲスアホボケの色情狂だ。

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