年上彼女と早川くん
ピンポーンっとマンションの一室である私の部屋のインターホンが鳴った。私は丁度お鍋にたっぷりのクリームシチューが焦げ付かないように女性誌片手におたまでかき混ぜてる最中だったし、問わずともどちら様のご訪問なのか存じ上げてるので、キッチンから大きな声で「どうぞー」と叫んだ。鍵はかけてない。今日は早川くんが遊びに来る予定だから。部屋に入ってこれば習慣で、早川くんが戸締りをしてくれる。きっちりとチェーンまで。

年下彼氏の早川くん。元気いっぱい男子高校生真っ只中で185cmの巨体を活かしてバスケットボールに青春を謳歌してる。体育館の点検のため日曜日のクラブ活動が中止になったのをいい事に、土曜の夜から私のお部屋に早川くんを呼んで日曜日まで日曜日もたっぷりいちゃついてやろうと言う魂胆です。早川くんは素直でいい子だ。下手にかっこつけたり大人ぶったりするところが無い。だから誘ってみれば二つ返事に「いいですよ!う(れ)しいです!」だ。…彼には、危機感とか無いのだろうか…?食われる、とか…あ、いや…まぁ、別に初めてなわけじゃないから今更なんだけど。なんというか、無防備すぎる?あれ?私が変なのか?でも、ほら…ちょっと、こう…「おなまえさん…お(れ)のこと一晩…どうす(る)気なんですか?」って照れた顔でにらまれるとか…!!そう、いう!!興奮もあるよね!!ただ早川くんにはそう言う恥じらい?猜疑心?は無いよね…あっても困るの私だしね…あの、早川くんはむしろ「ゴムの残(り)どのく(ら)いあ(り)ましたっけ?」って勢いだよね…まぁ、そんなところが可愛いから良いんだけどね…。

くつくつとあたたかいクリームシチューの音に耳を傾けていて違和感。あれ?早川くんなかなか部屋に入ってこないな…。いつもなら「どうぞー」「おじゃましますッ!」「早川くんいらっしゃーい!」「おなまえさんおなまえさんっ!!」ぎゅううう「ちょッ、早川くん、いたいいたい」「すみません!でも、お(れ)ッ…おなまえさーん!」ってハート乱舞のはずなのに…鍵、閉めてないよね?雑誌を置いて玄関の様子を見に行こうと振り返ると、無いはずの壁にぶつかった。何事かと思う暇も無く壁からにょきっと腕が伸びてきて腕を引っつかまれなだれ込む様に抱き込められた。あたたかい部屋に似合わない、よく冷えたジャケットと嗅ぎなれたにおいが私を包む。ぎゅうううっと私の体をへし折る勢いで抱きしめられる。視界にちらついた、寒さに赤らんだ可愛い耳とぴょんぴょん好き勝手に跳ねている茶色い髪の毛。

「ちょッ、早川くん、いたいいたい」

私の声を合図のように力を緩める腕に、手を添えて、改めて愛しい恋人の顔に向かい合う。鼻先が真っ赤だ。外はそんなに寒かったのだろうか?休日の部活動を済ませてそのまま私の部屋に直行してくれた早川くんは、ちょっと、久しぶりで、感慨深いものがある。生活リズムが上手く噛み合わない私たちのささやかな逢瀬は、そう頻繁なものじゃない。久しぶりのまともな再会に感極まっているのは私だけではないらしく、むずむずと居心地の悪そうな早川くんは無言のまま辛抱たまらず、また私の事を掻き抱いた。おっお…早川くん、嬉しいんだけど…なんだ?今日は無口だね?いつもはもっとぎゃんぎゃん騒がしいのにね?

「早川くん、いつの間に部屋入ってきたの?声聞えなかった」
「…ぁ、…。…ッぉ…!」

大きく開いた口からは微かに音が漏れるだけだった。何を言っているのかは聴き取れない程に小さくて頼りない声だ。一生懸命になにかを伝えようと口を大きく広げて蚊の鳴くような声にも及ばない隙間風のような声を絞り出す早川くん。声が、出ないのね?

「風邪?」

マフラーやらジャケットを脱がしてあげてながら訊いてみれば、ぎゅっと厳しい顔をしてぶんぶんぶんっと頭がくらくらしちゃいそうな勢いで首を振る。しゃがみ込んでごそごそっとスポーツバックの中を乱暴にあさって、やっと見つけ出した紙の切れ端と色ペンで説明をしてくれる。

『かぜじゃないです。のどつぶれちゃっただけ』
「大丈夫なの?病院とか…」
『むかしからよくこーいうのありました。へーき!!』
「ふふッ、なんか筆談なんて変な感じだね」

心配は要らないんだと思えば、ふっと自然に笑えてしまった。早川くんは案外かわいい文字を書いた。もっと無骨な、男っぽい字を書くものかと思ったけど、くりっとしたかわいい文字を並べた。私が笑ったのを見て、早川くんは自分もだ、とでも言うようににっこりと、太陽みたいに笑った。夕飯の準備をしちゃうからって、部屋着に着替えちゃったら?って言えば、聞き分けよく頷いてリビングに移動する早川くん。大きな背中を見送ってシチューをスープ皿によそい、温野菜を入れてセットしておいたレンジのスイッチを入れた。炊き立ての真っ白ごはん、数え切れない数の鶏のから揚げ、たっぷりのキャベツの千切り。早川くんが居る食卓が好きだ。まるで家族ごっこ。こんなにたくさんの量を作るのはなかなか楽しい。月並みだけど、誰かのための料理っていいものだなーとか思っちゃう。相手がよく食べる彼氏だとことさらだ。

テーブルに一通り並べてしまうと、ぱちぱちぱち!っと拍手が聞えた。視線をやれば「CICAGO」と書かれた気の抜けたパーカーをまとった早川くんが、目を輝かせてた。あ、いつもの「おー!!」とか「うおー!!」が言えないから…。シンクでジャーっと手を洗うとお行儀良く席に着く早川くん。恋人と言うよりも、息子みたいだ…そんなに、歳は、離れて、ないけど…!!

「じゃあ食べようか?」
『さっきはおじゃまします言えなくてごめんなさい。おなまえさんひさしぶりに会えてうれしいです!』

私も席に付くと、着替えのついでに書いておいたらしい短文を頂いた。お、おう…な、なんだこれ…めちゃめちゃドキッとしてしまった…。なんでも思ったことは口で伝えてくれる早川くんが、こんな風に、文字で、しかも手書きの文字で、気持ちを伝えてくれるなんてこと今までに無い経験だから…奥底にひっこんでた乙女心にズキュンと刺さった。あ、いや…これは、やばい…と、心臓をばくばくさせていたら、早川くん、向かい合ってにっこにこしながら、何をおねだりしているのか、きゅっと口をすぼめて私に向かって唇を突き出し…て、ああああ!!は、早川くん!!かわッかわああああ!!!!武者震いを堪えながらテーブルに手をついて、そっと身を乗り出し、ちゅっと短く早川くんに口付ける。放せば、にっこり微笑みかけてくれる早川くん。あ、この子あれだ、天使だったんだ…

『いただきます』
「いただきます」

もりもりご飯を消し去ってしまう早川くんは『おいしい!』の紙を左の手の下にセットしてて、何を食べても、そういうルールのゲームみたいに、反射神経でも試すみたいに、ばっ!っと掲げて見せて、蕩けそうな顔で笑った。そのたびに「ありがとう」って返せば、独り身の方には唾を吐かれて爆発しろと呪詛され兼ねないバカップルの完成だ。


早川くんは部活で疲れてるんだから、って片付けは私一人で済ませようとしたのに『ダメ!』を突きつけられて手伝ってもらうことになってしまった…。隣り合って、洗うのが私、すすいで食器カゴに並べるのが早川くん。高さの違う腰をぶつけたり、肘で小突いたり、たまにキスしたり。なかなかこういうの悪くないなーと。いや、でも、全部わたしが完璧にこなした方がかっこよくないか?年上のお姉さんって感じがして!最後にシンクに冷たい水をかけて、手を洗って「終了ー!」の号令。と、同時に予告無く早川くんに抱きこまれて抱え上げられベッドまで連れ去られてしまった。お、わ…いつになく強引だな、早川くん…不覚にもキュンとしてしまった。

早川くんが来る前に、シャワーは済ませてある。早川くんはいつも部活の後にシャワーを浴びてさっぱりキレイになって遊びに来てる。つまり、そういうことだ。私としては歯も磨いて寝る準備を済ませてから始めたいんだけど、早川くんはそうじゃないらしい。…まぁ、久しぶりだもんねー。私をベッドに押し倒して、首筋に顔を埋めて時々スンっと鼻を鳴らす早川くん。ぎゅうぎゅう絡まりあった手足、お互いに捲くれた服から覗いたお腹の素肌が触れ合うのが、あたたかくて安心して気持ちよくて興奮する。ぐずった小さな子みたいに喉からくぅくぅ甘えるような音を漏らす早川くんの、ふわふわの髪の毛を撫で付けながら、押しつぶされたおっぱいの奥で鳴ってる自分の心臓の動きを感じていた。ぎゅうっと丸め込まれるみたいな体勢で、私のふとももに早川くんの硬くなったおちんちんが早川くんのパンツ、ズボン、私のズボン越しに押し付けられる。何枚もの壁を隔てていても形が分かるくらい、胸が高鳴るほど熱くなってた。

「エッチしたいの?」

耳元であえて訊いてみれば頷いて、鼻をシーツにこすりつけながら私の首筋にしゃぶりつく。あつい舌が筋に沿って蠢くのを飛び出したくなる快感にじっとこらえながら、もぞもぞズボンを脱いだ。早川くんもやっと私にかける体重を控えて、ちゅっちゅと外国人のようで小鳥のような短くてリズミカルなキスを繰り返しながら、部屋着のジャージをすぽんっと簡単に脱ぎさった。

「早川くん、電気」
ぶんぶん首を振られる。
「歯磨きたい」
もちろん、ぶんぶん首を振られる。

ブラジャーで盛り上がった胸にキスされると、蕩けてしまいそうで、同時に首元を撫ぜる髪の毛がくすぐったい。静かなエッチだ。いつもなら口を開けば、おなまえさんおなまえさん気持ちい好きかわいいおなまえさんもっとこっちおなまえさん触ってもっともっと好き柔らかい気持ちいい等等糖度で殺害を謀ってるのか?!ってくらいに甘い言葉を生産し続ける早川くんが無口で、だけど、今まで気が付かなかった、案外と整った息遣いが妙にねっとりと耳に張り付いた。はっはっは、私みたいにはしたない喘ぎ声が混ざる事も無い早川くんの呼吸は浅いながらも整ってて、スポーツマンらしい強靭な呼吸器を思った。

あつい汗が流れるからだ全部を撫でられてキスされる。ぐっと近づいた距離。人間と人間がこれ以上近づける方法を今のところ私は知らない。片方を料理して食べちゃうってのは抜きで。早川くん、らしくなく、耳元で、そっと、ぼそぼそ、囁かれるのが、どうにも、私を、おかしくさせる。耳の輪郭を沿うようにくちびるを這わせて、耳にくちびるを触れたまま、内緒話でもするように、でもずっとずっと上の空で熱っぽく、かすれた声でおなまえさんって呼ばれると、全身がきゅんとする。尻すぼみに敬称が聴き取りづらい。何度か好きとか気持ちいいも聴こえた。小さくてかすれた声。なのに、息遣いだけは大きな音だから、信じられないくらい、官能的だ。いつも以上にキスしてもらったし、キスを返した。早川くんが静かだから、私もなんとなしに声を上げづらくて、我慢しようにも口寂しく何度も乱暴に口付けた。あぁ、歯磨いておきたかった。

久々のエッチを体位を変えつつ3回こなして、くたくたになりながら、それでも眠ってしまう前に歯だけは磨いておきたくて洗面所に向かう私を、ベッドから早川くんがじっと見てた。とっさに手を引かれて、疲れた体には結構な衝撃。

「えっ、なに?」

くりくりの目でじーっと見つめられる。

「あ、あー歯磨き。洗面所」

納得したようにぱっと手を放す早川くん。ぴょんっとベットから飛び上がって(まだそんな元気が…)洗面所まで付いてきて並んで歯磨き。磨いたばかり、つるつるすっきりの口と口でミントの香りを漂わせながら挨拶みたいなキス。ベッドに戻って抱き合って、忍び寄ってくる睡眠を待ち受けながら、とろっとしたままの気分で早川くんの首筋にキスを1つ。

「おやすみ、早川くん」
「ぉ…すぃ、ぁ…ぃ」

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