大人笠松くんと昔話
世間は狭い。特に俺は神奈川生まれ神奈川育ち、地元を飛び出した数名の友人達とは違い大学もバイト先すらきっちりぴったり関東圏内で、だから、電車に乗ってると中学の同級生に会うとか高校の同級生に会うなんてことはざらで特に感慨深い事なんてない。買い物のために街歩いてたりバイト先に向かう道すがら、視界に入った顔をどっかで見た顔だなーと思ってれば向こうから声をかけてくる「笠松だよな?笠松幸男!ほら中学ん時にさ〜」「もしかして、笠松くんじゃない?」「うわッ!笠松だ!!」などなど、素直に再会を喜べる懐かしい響きやらちょっとソレは失礼じゃね?ってひどい反応まで、だいたい経験は済んでるつもりで居た。感慨深く思うことなんてなかった。日常の、忘れた頃にやってくる忘れ物との再会のような気分だ。久しぶりに着たジャケットのポケットに入ってたレシートとか、たまにしか使わないカバンの小さなポケットの中の小銭とかティッシュのゴミとか…そんな感じだ。

「すみません、あのー…笠松くん?」
「あッ、ぎゃっ…?!おまッ…?!」
「やっぱりそうだ!久しぶりー!」
「お、おう」
「あ、もしかして私の事わかんないかな?」
「いや…」

みょうじおなまえだ。バイト上がりの22:13。疲れてぼうっと信号を待ってた俺の右の肩甲骨を、遠慮がちにつついた指。振り返ると身長差でそんな必要ないはずなのにぐっと俺の顔を覗き込んできた見覚えのある顔…と、大きく開いた服から覗き見える華奢な鎖骨、白いくせにあたたかそうで決して小さくはない胸、ちょっと派手な装飾のブラジャーの端っこ。世間的に俺は小さくない。世間的に大きくはない女の子相手なら、その距離感の関係によっては脳天だって見下ろせるしみょうじおなまえは世間的に大きい女の子じゃない。から、なんて言うか…見下ろせば、その気になれば自然な仕草でいろいろ覗けちまうわけだ。



「小学校ぶりだね?笠松くんとは」
「みょうじは中学別だったからな」
「ってことは、10年ぶり?11年ぶり?」
「ちょうど10年。飲み物いいか?」
「10年かー!子供が育つね!あ、生おかわり!」

子供が育つね!とか、よく意味が分かんねぇ…あと、なんでかノリで飲み屋に入っちまった俺も、みょうじも分かんねぇ…。とりあえずみょうじのジョッキが少しだけ泡を残した状態で放置されていたから、これは…サークルの飲み会で培われた気配りの所為か自然と"飲み物を絶やしてはいけない"脳みそが働いた。大きな掛け声とともに小走りでやってきた店員にみょうじの生ビールと自分のウーロンハイを注文しながら、隣で枝豆の選別に夢中になってるみょうじは、気が利くやつだと好意的に思うか、それとも私の事酔わせてどうするつもり?と怪訝に思うか気になったが…考えても仕方ない。昔から彼女は一筋縄ではいかないタイプの人間だった覚えがある…。

「ねぇねぇ、森山くんが言ってたんだけど」
「…森山?っ森山?!森山って森山由孝?!」
「うん、海常高校の森山由孝くん」
「なんで知って…えッ?!だって、高校…」
「フェイスブックで知り合いましたー」

さっと取り出したるはスマートフォン。アルコールが効いてきて気持ちが緩んでるのか警戒心も何もなくにやにやをやめないみょうじのほっぺたはまるで絵に描いたように色づいてて、しゃべる途中にぺろっと舌を滑らせる唇も熟れた果実みたいにたっぷりとしてて…あーこれ、俺も酔ってんだな…熱ィ。慣れた手つきで液晶画面をつるつるなでる指先を視線で追って、体を傾けて覗き込みざまに自分のカーディガンを脱いだ。スマートフォンの操作に夢中になってるみょうじの、少し前かがみになって覗きやすくなった胸元が、男として脊髄反射的に気がかりだ。すけべだなーとかいやらしいなーとかいかんいかんとか思ったって、見ちまうもんは見ちまうもんで、そもそもそういう服を着る女の子は、着るなとは言わないから着るなら着るで危機感もって欲しいんだよなー。だってそれって男がめちゃめちゃローライズのパンツはいてるのにベルトゆるゆるで動くと出ちまうって状況なんじゃねェの?あ、いや…期待感ドキドキ感ラッキースケベ感は比べ物にならない代物だけども…

「小堀くんと友達になってて、そしたら森山くんから友達申請が来て…小堀くんと笠松くんとは小学校の同級生だよって教えてあげたら『運命だね!!!!!!』って返事くれておもしろかったから」
「それって顔写真とか載せれンのか?」
「え?ああ、うん!私は自分の写真使ってるよー地元の子とか見つけるの便利だし」

じゃあそれウケ狙いじゃなくてナンパだぜってぇナンパだ…。虎視眈々と女の事の出会いを求め且つネット依存に近い情報通の森山ならふぇ、ふぇいすぶっ…フェイスブックやってても微塵も疑問に思わないんだが、小堀が?ふわっとアルコールの霧の向こうに思い浮かぶ旧友の顔…まぁどうせ森山に「一緒にやろうぜ小堀!」とか言われて快諾してしまったんだろうな…あいつ底抜けにいい奴だからな…

「笠松くん、彼女さんのおっぱい爆発させたって本当?」

くすくすっといたずらっぽく笑うこの悪魔。1年前の俺の傷心をダガーナイフでえぐってきやがった…。一瞬で悪酔い。思い出したくもない思い出がよみがえる。こみ上げる後悔と冷や汗をおさえるためみょうじのビールを奪って一気に飲み干す。「あー私の!」文句を言いながらも、俺が話し出すのを今か今かと待ち構える姿勢のみょうじ。くっそこいつくっそってか森山アイツあの話ネットにばら撒きやがったのかふざけんなぶっ殺すぞマジで…


初めての彼女だった。大学入ってサークルの先輩の紹介で仲良くなった子だ。うん、まぁ仲良くなったってか先輩のはからいで向こうの女の子から積極的にぐいぐいと俺に絡んできてくれたわけだけど…仮にマチコって名前で話すか。マチコは女性向け雑誌のお手本みたいな女の子だった。いつもきちんと化粧をしてて流行の香水のにおいがしてて髪の毛もさらっとしててつやっとしててふわっとしててなんだか分からないけどもうとにかくすごく可愛いんだまつげなんてばっさばさで俺今まで人類でまつげに関しては黄瀬が一番すごい奴なんだと思ってたけど考えを改めた。唇もいつもふっくりぽってりしててすげぇエロくて、そうそうエロいんだよマチコマチコ超エロいびっくりするくらい、年齢的にも俺は下半身に思考を支配される頃だし高校の頃と比べて心底熱中するものがなかったから余計に他のこと考える時間があるともっぱらエロいことでマチコは俺が童貞って事知っててそのデカい…デカいデカいおっぱいを用いて何度も俺を誘ったが、どうにも、よしじゃあやろう今やろうすぐやろうとは行かずなかなか俺のズボンのベルトは固かった。


酒が入ってて口が口が悪い、女の子相手にする言葉じゃない、分かってても止まらない。愚痴っぽいのは好きじゃないんだがこれは…アレだから…いいだろ、もうしゃべくって。隣で発作みたいなくすくす笑いが止まらないみょうじも、心底楽しんでるようだし。ちらっと時計を見ればもう日付が変わってて、話を随分端折ることになるがクライマックスをお届けする。なんでかみょうじにはおもしろく聞かせてやりたいと思った。時も経って、やっと俺の中でも笑い話になったってことだろうか


初めてのセックスでがちがちに緊張してた俺をリードしてくれたマチコは騎乗位で、俺に自分の自慢のおっぱいを揉むように促した。手をとって自分のおっぱいに押し付けて俺の手に手を重ねて揉みあげる。俺はおっぱいが好きだ。否定の仕様がない。男でおっぱいが嫌いな奴が居るなんて思えない、そんなやつが居たらぶん殴ってやりたいくらいに俺はおっぱいが好きだ。でも、実際に本物に触れるなんて初めてで、信じられないくらい緊張してて、マチコが俺をその気にさせるために上げた色っぽい声にビビッてぎゅうっとおっぱいを乱暴に力強く掴んだ。程よい弾力感、の後に、泥に指でも突っ込むような不思議な感覚、皮膚を突き破る感じ、マチコの断末魔。どろっと指を伝っておっぱいから流れ落ちてきたのは腐った生理食塩水と血。要するにマチコのデカいおっぱいは整形おっぱいで、しかもインチキ整形でおっぱいの中身は腐ってて、長年スポーツマンしてた俺の握力に耐え切れず、腐ったもん詰め込んでたおっぱい周りの弱っていた皮膚細胞を突き破って俺の精液がそうなるよりも先に、ぶひゅっぶぴゅっと黒ずんで異臭を放つ粘着質な偽おっぱいを垂れ流したマチコはベッドから飛び降りなきながらケータイで男を呼びつけ通いつけの病院へと姿を消していった…


「それからは連絡してねぇし、こねぇ」
「笠松くん、ここは私がおごるよ」
「気にすんな…ちゃんと割り勘な」
「割り勘とかッ!!笠松くん甲斐性無っ!!」
「おごってもらえると思ったか」
「だったら素敵だなーとは思った」

にひっと歯を見せて笑うみょうじ。そういえばこいつ、時間はいいのか?電車はもう…無いだろうな。俺は歩きゃすぐ家だけど…近いのか?みょうじ…。俺が注文したウーロンハイのグラスの飲み口を指先でくるくるなぞってから、ゆっくり口をつけるみょうじ。滑らかな顎のラインが動く、口に液体を含んで目を閉じながらごくりと飲み下す。白いのどがごくりって音にあわせて上下するのを見守りながら、最低な事ばかり考える。久々に会った小学生の頃の友人。たまたま10年ぶりに再会して飲んでたら終電を逃した彼女は相当にデキあがってて、酔った足取りのまま夜の街に放り出すわけにも行かない。俺も酔ってる、金銭的にもタクシー代持ってやる余裕も無いし差し出してもきっと彼女は断るだろう。わたし歩くよ、おやすみなさい!平気そうに笑って手を振る彼女が俺の目の前で与太る。手を伸ばして、掴んで、引き寄せて、抱きとめる。ぐっと近づく心臓同士。たっぷりな脂肪を蓄えた彼女のおっぱいが俺の硬いからだに押しつぶされてるのを、ぽかんとしてる彼女の可愛い顔の向こうに確認するスケベな俺。「俺のうち近いけど、どうする?」このどうする?にはいろいろ意味があって、まぁ主に、酔った勢いでヤってもいいですか?って意味の部分を承諾してもらわない事には困ったもので、それでも彼女はちゃんと最後まで理解して、うつむいて、照れて、そっと頷く…ヤることばっかり考えてる俺の隣で本当のみょうじは、もう一口あおった。

「っはー、やっぱきついね」
「水頼むか?」
「いやいや、違くてね…」
「…なんの事だよ?」

ふーっと大きく息をはくみょうじは、本当にキツそうな表情で、なんだ、これは、なかなか…嫌いじゃない顔で、俺の頭の中のちょっとおおっぴらに出来ないフォルダにそっと保存した。

「いや…初恋の人の女関係の話ってのは…ね?はうー10年経っててもダメかー」

…?ちょっと、よく、話が飲み込めない

「私ね、小学校のころ好きだったんだよ?笠松くんの事」

話が良く分かってない俺のアホ面をみかねたみょうじがガキに言い聞かせる母親のように優しく笑って、でもしっかりと俺に向き合って言った。

「笠松くん、知らなかったと思うんだけどねー?3年生のころくらいかなー?飼育係一緒になって、ニワトリ怖がってた私にすごく優しくしてくれてねー?好きになっちゃって、でも告白なんて出来ないし、そもそも笠松くんって男の子とばっかりつるんでたから話しかけづらくってね…あーうわー恥ずかしいッ!!でもごめんね10年前の事だしもう時効だよね?お酒の力借りちゃって全部言っちゃうね?これも何かの縁だしね!!あー、それでさーわたしねー笠松くんのことめっちゃ好きでめちゃめちゃ好きだったのにねー?!笠松くん、あれ、4年生の終わりかな?5年生のはじめ?小堀くんが同じクラスだったと思ったけどーえっと、いつだったかはっきりとはわすれちゃったんだけどね?私クラスで一番ブラジャーつけるのが早かったの、スポーツブラジャー。それがすごくイヤでイヤでしょうがなかったんだけど、あー話それちゃう。で、えっとクラスで私しかブラジャーしてなくて本当に仲のいい子にしかそれ言ってなかったの、恥ずかしいから。なのに、笠松くん…私の背中ぽんって触って、ブラジャーのゴムの部分に気が付いてクラスで叫んだの「みょうじぶらじゃーしてるー!!」って。一番知られたくない笠松くんに知られちゃった上、その笠松くんがみんなに言っちゃって…それで、私の初恋は終わり。中学が別でちょっと安心してたんだけど、やっぱり寂しかったなー」

夢物語でも語るような口調で、俺の記憶を呼び覚ます。あった。そんなこと、あったわ。「みょうじぶらじゃーしてるー!!」言ったわ俺。驚いて。とっさに叫んだんだ。別にみんなに広めてやろうとか思ったわけじゃなくって、単純に驚いて言っちまって、そのあと、女の子には「笠松さいてー!!」と罵られ(俺の女子苦手はあれで始まったな)男子には「笠松ぶらじゃーとか言ったエロー」と遊ばれて…みょうじの事も泣かして…近寄り難くて、離れてって…4年生だ。4年の終わりで、5年生ではクラスが離れて、俺も本格的にミニバスはじめたからすっかり忘れてたんだ…。

「ってか、笠松くんおっぱい好きって!!女の子に言っちゃダメだよ?嫌われちゃうぞー」

恥ずかしさを誤魔化すためか俺をけなして笑って肩を小突くみょうじ…。…ん?…違う…あ、いや、違くねェけど…あれ?俺、なんでおっぱい好きだったんだっけ?理屈じゃ無ェけど…

「好きだったんだ」

あ、そうか…そうだ、俺、みょうじの事好きだったんだ。クラスで一番にブラジャーつけてたみょうじ。他のやつらに比べて体つきがちょっと大人っぽかった気がする。好きなやつが比較的に胸が大きかったのを…引きずってたのか?俺は…?あ、いや…そんなロマンチックでも無ェのか?もともと先天性的におっぱいが好きで、一番初めに出会った同年代のおっぱい大きい子がみょうじだったのか?順番は、分かんねぇけど…そうだ、俺、そうだ…だから、ありふれた地元の人間との再会に、少しときめいたのか…「暇ならどっかで飲んでくか?」なんて、自分から誘うタイプじゃねぇくせに…

「…笠松くん?」
「みょうじ…あの、時効だっつってくれるんなら…俺、その…」

1:30のラストオーダーを知らせに店員がやってくる。あと30分で追い出されてしまう俺とみょうじ。「俺のうち近いけど、どうする?」そう言おうと口を開くとみょうじががばっと食いつくように俺に抱きついてきて、もごもごと「笠松くん、わたし家、すぐ近くなんだけど…」抱き返すためみょうじの細い背中に回した俺の手に、しっかりと感じるブラジャーのホックは10年前のものよりもずっと硬くてしっかりしてた。

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