笠松くんの右手
「笠松くん、落としたよ」

笠松くんのポケットからぽろっと落っこちた折りたたまれたプリント。ひょっとしゃがんで拾って、笠松くんのジャケットをぴっと引っ張って知らせると、ポケっとしてから「ああ」って言って私の手からそれを受け取った。

「ありがとうなみょうじ」

すっと伸びてきた笠松くんの右手が、よしよしって私の頭をくりんくりん撫でてくれる。大きくてしっかりした笠松くんの手はずっとバスケをしているおかげか、皮が硬くなってて、まるでお父さんとか、大人の男の人の手みたいで、ちっちゃい頃を思い出させてくれて安心する。し、同時に、緊張でドキドキしてしまう。身長差もある私と笠松くんだから、余計に…子ども扱い、されてるような…守ってもらってる?ような…色々と複雑な気持ちがぐるぐる交じり合って、結局は嬉しいとか恥ずかしいって所に落ち着くんだけど、とにかく私は、笠松くんの、この、よしよしとか、よしよしに伴う笑った顔とか「ありがとう」って言ってくれる声とか、もう、全部大好きで、大好きなんだけど、そんな中でも抜群に、笠松くんの手が、大好きなんだ。

「プリント?」
「ああ、今度部活で遠征があってな。その要項」
「おー!なるほど、大事なプリントだ!」
「そうだな、拾ってもらってよかった」

何が可笑しいのかなんて説明できないけど、私と笠松くんはくすくす笑った。きっとそういう年頃なんだ、私たちって。箸が転がっても面白い?ボールペンが爆発しても面白い?そんな年頃なわけだから、恋人との意味も持たないような些細な会話にも花粉に鼻をくすぐられるように、こそこそ笑えてしまうんだ。本日2回目の笠松くんのよしよしは、なんだかとってもあたたかくて、丁寧で、穏やかだ。笠松くんは私の髪の毛の手触りを、私は笠松くんの手のひらの感触を。耳でも澄ませるように、じっくりと黙って感じていた。そんな風にしていたから気づいたんだけど、そういえばこの廊下、私と笠松くん2人きりなんだな…。

でも、教室の中には人がいるのは当たり前だし、いつ誰が教室から出てくるか分からない。のに、笠松くんの右手が、ゆっくりと私の頭から、耳を撫でて、ほっぺたをそっと、ふわっと包み込んだ。あれ?って思ったら、ゆっくりと頭を下げて近づいてくる笠松くんの顔。あれれ?って思った頃には、ちゅっと、1秒の半分くらいに短いキス。だ、大胆ですね…笠松くん。

「ろ、廊下…」
「うん、悪ぃ」
「…う、いや…うん」
「うん」
「…うん」
「…悪ぃ」

真っ赤になった私のほっぺに、今度も1秒より短いキス。か、笠松くん…今日はキスしたい日なんだろうか…恥ずかしい、なぁ…


授業中、ノートの隅に大好きな笠松くんの手の落書きを並べながら、笠松くんの事を考える。今日は私が図書室で笠松くんの部活が終わるのを待って、一緒に帰る約束の日だ。帰りにも…また、キス…するのだろうか?私と笠松くんは…。今度は1秒より長く?3秒くらい?それともずっと、苦しくなるまで?…わ、ちょっと…恥ずかしいから、そういうの、は…あんまり、考えないようにしよう…。…キス、だけど…こう、洋画とかで見るような…もう、べろんべろんしてる、犬が口の周り舐めるみたいな…ああいう、の…ああいうキス…なんていうんだろう?ディープキス?フレンチキス?キッスキス??呼び方は分かんないけど…私と笠松くんも、いつか、ああいうの…するんだろうか?…笠松くんは、そういうの…したい、とか…思っているんだろうか…?…うっわ、私スケベ…気持ち悪いよ、もうダメダメ!!こんなスケベな事考えてるとか、笠松くんにバレちゃったらアレだよ、嫌われちゃうよ…!!い、いかん!!それは困る…!!う、でも…もし、も…笠松くん、ああいうキス…したいなら…私としては…う、うん…うっわ、もう、自分で自分の事嫌いになりそう…。

「じゃあ、みょうじさん」

突然、笠松くんに呼ばれて、電気ショックでも受けたみたいにビックーン!!と肩が震えた。なッ、なな?!な、に…かと思ったら…今は、数学の授業。数学の担当の先生は、回答させた子に、次の回答の子を選ばせるから…そ、そういう…流れで、笠松くんに呼ばれただけだ…う、わぁ…びっくりしたよ…もう…。黒板の設問を確認して、自分のノートを読み上げる前に、ちらっと笠松くんの事を見たら(ボケっとしてんなよ)って右手を添えた口パクで叱られて、笑われてしまった…。


次の休み時間、トイレの帰りに、あんまり気分のよくない話が耳に入った。同じクラスの男の子が、トイレの個室で…その、おっ、おなにー…してる!って…笑ってる子たちの会話。そ、そういうの…大きな声で言うことじゃないし、生理現象なんだからッ女の子で言えば生理みたいなものなんでしょ?!あんな風に、笑ったら失礼だし、かわいそうだ…!!なんか、ハッキリと名前を持たないもやもやとドキドキを頭と胸に残したまま次の授業の準備を始めた。…チャイムが鳴って、授業は、始まったけど…私は、もう…授業どころじゃなかった…。…ごめんね、笠松くん…スケベな彼女でごめん…。もう、さっきから、笠松くんもオナニーとかするんだろうか?って考えてて、頭が爆発しそうで、胸がすごくキュンキュンしてたまらない。きっとするよね?そりゃあするよね?だって、オナニーって、マスターベーション?は、生理現象であって、特別悪いことじゃないんだから…!女の子で言う、生理みたいなものなんだから…!!笠松くんだって、してるんだろう…!!…ど、どんな風にするのかな?あ、の…朝だちとか、あるのかな?夜、寝る前とかに…するのかな?やっぱり気持ちいいんだろうか?だとしたら、笠松くん…オナニー、好きかな?エッチな雑誌とか、ビデオとか…持ってるのかな?どんなのが好きなんだろう?たくさん持ってるのかな?見せてって、言ったら…私にも見せてくれるかな…?…わ、私のこと…考えて、そういうの…してくれたりとか…し、しないかな…?気持ちいいとき、笠松くんはどんな顔してるんだろう?顔とか、赤くなっちゃってるんだろうな、きっと…。声、とか…出ちゃうものだろうか?我慢できるのかな?オナニーしてるの…見たい、かも…とか、言ったら…嫌われるよね、ダメダメ…それはない。大丈夫。そこまでスケベじゃないよ流石の私も…うん。


「なぁ、俺の顔…なんかついてんのか?」
「えッ?!あ、いやッ!!付いてないよ!むしろ付いてない!!」
「むしろ?!え、っと…じゃあ、あんま見んなよ」
「ごッ、ごめん…!!」
「飯食ってるの見られるの、恥ずかしいから…」

ぷいっと顔を背けてしまう笠松くん。お弁当を、一緒に、食べてるだけなのに…笠松くんの、右手が…おにぎりを持ってる右手が…大好きな右手が…そ、の…みッ右手が…!!お、なにー…する、右手なんだ…おにぎりを食べてる右手は、オナニーをする右手なんだ。シャーペンを握って黒板を書き写すその右手は、オナニーをする右手なんだ…!かっこよくバスケットボールをさばくその右手は、オナニーをする右手なんだッ!!私の頭をよしよししてくれる、大好きなその右手は、オナニーをする右手なんだッッ!!!!

「ふッ…みょうじ、お前」

すっと、笠松くんの右手が、ついっと私のくちびるとくちびるのはしっこを撫でた。ふにっと自分のくちびるが沈むのが分かった。ぼけっとしてる間に、笠松くんは自分の親指についた(私のくちびるについてた)クリームパンのカスタードクリームを、笑って、ぺろっと舐めた。右手の、親指で、私の、くちびるに、触れて、それを、舐めた、右手の、おやゆびを、かさまつくんがおなにーするみぎてのおやゆびでわたしのくちびるをさわってぺろっとなめ、なな…なめ…

「ついてたぞ、カスタード。みょうじぼけっとし」
「あ、わ…かさまっく、なッなめちゃらめェエっ!!」
「って…ッ?!みょうじッ?!」

スケベでごめんなさい。

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