純情笠松くん
「うぐっ」

イスに乗っけたおしりをね、姿勢を変えようと思ってね、ひょいっとあげただけの私なのです。罪は無いのです。無罪なんです。それでも僕はやってない。なんて言っても、女の子なんだからしょうがないんだ、そうだ、私は女の子で、今はもっと特別に女の子で、今きっと、あのーかたまりーてきなーどろっと、ぶにゅっと、不快なアレがぐちゅっとおりてきた。慣れなきゃいけないことなんだ、こんなのは。それでも、唐突なそれに、つい、顔がゆがみ、声が漏れた。

「ん?どうした、みょうじ?」

『パックおいひい牛乳250ml』にぶっさしたストロー(曲がらない)をくわえてた笠松くんが、私のうめき声に眉をひそめた。穏やかな昼休憩。1つの机を共有して、2つのイスに座って、向かい合ってる私達。机の上には、私の食べかけのお弁当。本当は食欲があんまりなくって、許されるなら食べないって手段を選択したいんだけど「いってらっしゃい」の言葉に笑顔をそえてお弁当を手渡してくれたママの事を思えば、まさか、食べないなんて出来ないし、ふたを開けてみれば私の大好きなアスパラのベーコン巻きが入ってて、こりゃあ食べるしかない、とよだれを啜った。

と、いうか、あの…ほら、ご飯食べないと、目の前で、言葉に詰まってる私に、ぽかーんとしてる(いいかげんストローとかくわえる癖直させなきゃ恥ずかしい)笠松くんに「ちゃんと食えッ!!」怒られちゃうもんね…前にランチ抜きダイエットー!言って、お腹ぎゅるぎゅる鳴らしながら飲むヨーグルトしか口にしてなかったら、笠松くんぶち切れて自分のパン(ピザパン)無理やり私の口に突っ込んできたもんね。あれ、怖かった…髪の毛引っつかまれて、ぐいーって引っ張られて、やだやだ言って泣いてる私に無理やりピザパンくわえさせて…笠松くん、我を忘れて、私に馬乗りだったね…私くちのまわりピザソースでぐちゃぐちゃにして泣き叫んでて、笠松くんクラスの男の子に押さえつけられてたもんね…この話、笠松くんにすると、またぶち切れるからしないけど…あれはすごかった、愛って痛いものなんだね…マジ私がハゲたら笠松くんの所為…

「…大丈夫なのか?お前」
「あぁ、うん…生理なだけだから」

がっしゃーん!!

さぁ、誰が予想できただろう?まだ1つ残っていた私の大好きなアスパラのベーコン巻き(3つ入ってた)が、たまご焼き、ブロッコリーなどのおかずたちと共に宙を舞うなんて。笠松くんのサンドイッチのゴミと、食べかけのメロンパンも、ロケットのようにすっ飛んでいくなんて…。恐ろしい形相で、典型的な昭和の親父さながらに、机の上のものをすべてその屈強な腕っぷしでずぎゃああん!!と効果音でも付きそうな勢いでぶん投げた笠松くん…

「うひゃッ?!」

飛び散る米粒に、唐突で劇的なアクションに驚いて、すっころびそうになった…。がたたんっと机だけが、揺れてた。それぞれ思い思いにきゃっきゃうふふしていたクラスは静まり返り、私も声が出なかった。か、さまつくん…ど、どうしたってんだ…?

「笠松くん…?」

笠松くんはゆっくり席を立って、すっ飛んでいったメロンパンやら私のお弁当箱やらを拾い集め始めた。黙って作業を続ける笠松くんは、むしろその静けさが恐ろしげで、こう、なんだか…禍々しいオーラがすごい…あの、怖いです…。集め終わったお弁当(だったもの)を、机の上にどうぞしてくれる笠松くん…だ、けど…これ、床に落ちたご飯たよね?笠松くんも遠慮なく手で、ぎゅっぎゅって丸めてお弁当箱に突っ込んでたよね?アスパラのベーコン巻きの先っちょ踏んでたよね?ちゃんと見てたよ?え、何?それを?私に?食えってか?え??

「ね、ねぇ」
「せッ、せい…」

いきなり、笠松くんに、ぎゅっと肩をつかまれる。あ、米粒ついた。ふっと見上げると、顔を真っ赤にして、もう、泣き出しそうな顔の笠松くん。え?なに、私のお弁当ふっ飛ばしちゃった罪悪感から?

「生理とか!!お、女がッそう…そういうのッ!!せッせい、りとかッ!!い、言うんじゃねェ!!」

慟哭…。涙をこぼしながら、叫ぶ笠松くん…騒然となるクラスに、私は恥ずかしさに爆発しそうになったけど、それよりも、言い切った笠松くんに鼻の穴から、ちゅるっとおいひい牛乳が垂れてきたことが、な、なんとなく…申し訳なくって、しおらしく、頷いてしまった。

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