残念な森山くん
「由孝は何考えてるのか、いまいち分からないよ」
「ん?そうか…、俺としては明々白々なんだが…」

すっと私の手をとって、わざとちゅっと音を立てて指先にキスをしてくる由孝は、格好良いんだけど…たまに本当に何考えているのかよく分からない。カーテンを閉めた由孝の部屋は、透け入る日光のためにゆるりと明るい。日中は電気をつけない。小さな埃の粒がきらきらと反射し、空気に揉まれて時にゆっくり時に忙しく泳ぎ回る。部屋の中央に立たされたまま、フローリングのつるっとした感覚を靴下越しに感じながら、私の前に跪いて、王子様みたい(だけど、いささかいやらしさが臭いすぎるきらいがある)に優しい仕草で私の手を、その細いなりにスポーツマンらしい男性の手で慈しむように愛撫を繰り返した。空いている手で由孝の頭を撫でてやり、愛おしさみたいなものを感じながらも、サイドのベッドに用意されたバスケのユニフォームを睨む。「おなまえに着て欲しいんだ」真面目な顔でそんな事言うけど…まだ、せめて…メイド服とか、ナース服とか…そういう、臭さ?がにじみ出て入るものなら、きっぱり断るか、あるいは喜んで着てやるか極端なものなんだけど…。ユニフォーム?制服でも無く、ユニフォーム?

丁寧に、むしろ楽しんで入るように、ゆっくりと無抵抗の私のカーディガンやらシャツやらスカートを脱がしていく由孝。由孝…バスケのユニフォームってさ、なんていうの?特攻服的な、なんか、由孝にとって大切な物なんじゃないのか?海常のバスケ部のレギュラーたる尊厳の証で、さらには5番なんて大事な装飾を受けた、大事な大事なユニフォームじゃないの?なんか、プライドみたいなの…無いの?いつの間にか丸出しになったお腹の素肌に、ちゅっちゅとキスする由孝を見下ろして、つくづく可笑しな人だと思う。お前、スポーツマンシップはどこにやってしまったの?

「ねぇ」
「んー?」
「ユニフォームさ、本当に私なんかが着ちゃっていいの?」
「着て欲しいって、俺が言ったんだろ?」
「いや、うん…そうだけどさ…」

靴下に、下着とか言う絶妙にエロ雑誌のような私と、ゆるっと私服の由孝が、2人してじっと、ベッドの上に用意された青く荘厳なユニフォームを見つめる。

「ああ、なるほど」
「…なに?」
「いいよ、あのユニフォームは。もう公式戦では使わないんだ」
テレパシーとか、信じる可愛い子ではないけど、由孝のこういう…読心術?というか、察しのよさには本当に助かる。言い出しづらいことではないけど、事実うまく言葉には出来ない私だ。大事なユニフォームを私なんかが着ていいのか?って言葉も、なんか違う気がしてたから、こうやって核心を突いてくれると助かる。あ、でもできればブラジャー外す前には一言欲しかったよ由孝…ふっと体を閉めるバンドが外されると、ぬるい開放感と、ちくちくと刺すような羞恥に見舞われる。

「細部に変更が出て、新しいのを一式発注するんだと」
「ふ、ふーん」
「だから、あれは記念にって個人に委託されたの」
「大事に飾れば?」
「委託されたのは俺だぞ?俺なりに…」

パンツに手を掛けられ、脚をあげろ、とふくらはぎをとんとんと叩かれる。そっと膝を曲げると、するりとパンツが私にさよならと次げた。もう一方も同じ要領でパンツと別居を決め込んだ。ふわっとした、自分の陰毛が、屈んでる由孝の髪に触れそうで、なんだかすごく自分が汚い気持ちになった。

「大事に使うつもりだよ」

あ、そうですか。


案外軽いもんだ。こういう、ユニフォームって物を着たのは初めてだ。小学校とかで配られる、借り物のゼッケンではない、本当に、スポーツをするために改良されつくした衣装と言うものに、初めて腕を通した。しゅるっと、由孝が頭からユニフォームをかぶせてくれて、まだ腕を通してない所為で達磨状態。ちょっとだけズレた前髪を、そっと由孝が指先で整えてくれる。胸元が、開きすぎてて、恥ずかしくって…裸でおっぱいが見えてるのと、着ているのにおっぱいが見えそうなのとでは種類の違う恥ずかしさがあって、特に私は、着ているのに見えそうと言う…なんというか、出し惜しみ感が苦手だ。そして由孝はどちらかと言うと、そういう背徳感のただよう恥ずかしさいやらしさを特に好むような人だ。

「うん、やっぱり、いいな」

満足そうに微笑む由孝だけど、なにもよくない。だって、男性(デカい)用のユニフォームをね?バスケのユニフォームね?普通に由孝とか笠松くんが着こなしたって、けっこう余裕があってひらひらしてるのに、そんなの女の私が着たらぶかぶかに決まってる。そしてもちろん事実ぶかぶかで、全然格好がつかない。腕を通してみれば大きく開いたわきから、間違えればおっぱいがこぼれそうだ。太ももあたりまでユニフォームの裾があって、ああ、なるほど、コレがいわゆる彼シャツ?的な?彼ユニ?…由孝は、コレが見たかったんだな?たしかに、なんか、倒錯的ないやらしさがあるね…これは…

「じゃあ、ズボン」
「え?あ、ズボンもはくの?」
「…え、ズボンもはくだろ?」
「あ、そ、そうなの?!いやいや、なんでもない」

な、なんだ…?!露出を求めているわけではないのね?!おおう焦ったよ…ちょ、なんか、私がすっげぇ露出したい側の人みたいになっちゃったじゃないか…。由孝にへんな期待してた自分が恥ずかしい…。私が顔を赤くしている間に、良くわからないなーって顔をしてた由孝だけど、ちょっと肩をすくめてさらりと流してしまう。次の瞬間にはわくわくとズボンを引っ張ってきて私の下半身にあてがい、何かシュミレーションでもしているように真剣に眺め回す。は、ずかしい…

さらとした肌触りは、悪くない。ノーパンにズボンってのも、我慢して…って、いいたけど…あの、ユニフォームの肌触りって、すごくよくて、正直、いま、全身めちゃくちゃ気持ちがいい。軽いし、ゆったりしてるし…。ベッドに座らされて、片足のかかとを、無理の無い角度に持ち上げられる。あまりぐっと足を上げると、その…パンツをはいてない私だ…ちょっと、アレなところが、アレで、あの…開くというか、こすれるというか、心もとないので、こういう由孝の配慮?なに?物腰柔らかな仕草?は助かる。けど、ゆっくりとした動作に、大事にされる感じを味わいながらも、焦らされてるような感覚も覚えて、恥ずかしいような、なんだか…なんとも、言い難い感情がお腹の中で、熱く、ちょっととろとろと渦巻く。

足先にも、ちゅっと、唇を寄せる由孝にはもう慣れたけど…何度されても恥ずかしい…。初めて足にキスされたときは、驚いて顔面を蹴っ飛ばしちゃって、そのあとひどいことになった(由孝が鼻血を噴いて、私は足を由孝の前歯で怪我してとんでもな流血沙汰でいい雰囲気が台無しになった)けど…。今じゃ、驚きは、ない…理解、も、出来ないけど…ね。何度も、汚いよって注意したんだけど、俺がしたいんだからいいのって言われてしまうんだ。夢でも見ているようなうっとりとした顔をする由孝。そっと、靴下を噛んで、ずるっと引っ張る。顎を引いて、頷くみたいに靴下を脱がそうとする由孝を…見てると、なんだか、自分が、すごく偉い人になった気分だ。俗に言う、女王様とかそんなのになったような気がする。でも、べつに私にそういう嗜好はないから、手持ち無沙汰になった手を、由孝に伸ばすと、ちゃんとそれに気がついて、握り返してくれた。私の手の方が温かいのが、なんだか、やましい気持ちになる。

「由孝」
「…ん」

私の手の甲を、親指で擦る由孝。器用に、かかとを上げ下げしたり、足首を回して、自分の首の角度も変えつつ、するするっと私の靴下を逃せて仕舞う。こつを掴んで慣れるのか、2本目の靴下を脱がすのは早い。じっと、下から見つめられると、ドキドキして仕方なかった。上目遣い、なんて可愛いものじゃなくって、もう、ぎらっと睨みつけるような、攻撃的な視線だ。ずるっと、靴下を、脱がされてしまうと、繋いでた手を引っ張られて抱きしめられる。驚いたのと、温かいのと、由孝のにおいだ…なんて感じてると、どすっとベッドに押し倒されてしまう。ああ、やっとか…そんな風に思ってる自分を卑しいとこっそり咎めつつも、由孝を求めてやまない。ぎゅっと力をこめてから、解放されて、ちゃんと由孝と向き合う。触れ合った体が熱いから、由孝も気持ちが高ぶっているんだなと、嬉しくなる。被食者の権利だ。普段のさらっとした印象を残しつつも、攻撃的な色を見せる由孝は、嫌いじゃない。かっこいいんだ…ものすごく

「さぁ、試合開始(ティップオフ)だ」

舌なめずりしながらそんな事言うんだから

「本当に由孝って残念だよね」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -