ハッピーバースデー日向くん
今朝はカントクが生徒会の用事があるとかで、朝練が無くっていつもより遅い時間に学校についた。昇降口へ向かう生徒で賑わう並木道はなんだか新鮮で、たまにはこんなのもいいかなーとか思ったり。…あー、いや…それでもやっぱり、早朝の体育館でボールを触っている方が好きかなーとか…思うところは色々在るわけで、それでも考えるだけじゃしょうがないし、考えて答えを見つけたところで何があるって訳じゃない。なれないタイムスケジュールが脳みそを甘やかす。湧き上がる欠伸におもいっきり空を仰ぐ。ふぁあァ…あ?!あああああああああ?!

「ひゅーがくーんんんん!!おたんじょーび、おめでとー!!うおおおおお!!」

なっ?!みょうじっ?!なっ、んでアイツ…屋上ッ?!はァ?!欠伸を途中放棄して、信じられない光景に自身の矯正視力を疑った。お、驚いたとかじゃねぇ…!!アイツなんで屋上から叫んでんの?!って、あーいや…俺がそんな事言える立場じゃねぇけど…、…!!そんなこと言ってる場合じゃなくってッ!!あんな、目立つところからっ…!!お誕生日おめでとうって…!!なんだよッ?!あ、俺かッ?!俺の誕生日か?!

「ひゅーがくーんん!!いるんだろううう?!観念して祝われなさーいいいい!!」

刑事かッ?!突っ込みいれてる場合じゃねぇんだってば!!俺は彼女の奇行を今すぐにやめさせるために全力疾走で走り出した。こういう時、バスケやっててよかったァって思うよ…こんな時にしか実感しないわけじゃねぇけど!!もちろん!!バスケやってて楽しい時に感じるべきだよなッそういう感慨はさッ!!突然の命令に太ももの筋肉がひくつく。みょうじの大きなバースデーメッセージ雄たけびはもちろんまわりの生徒の耳にも届いていて、わいわいきゃあきゃあとそこかしこで話のネタにされてる。おい、みょうじー、笑われてっぞー!!恥ずかしいから今すぐやめろだアホぉぉおおぉぉおおおおぉお!!!!必死に走る俺を指差して、知ってる奴らが笑う。知らない奴らは俺を指差して噂をする。ああどうせ俺が日向だよッ!!今日が誕生日の日向だよッッ!!ほんっっとに恥ずかしいんでみょうじさん今すぐにやめてくれッッ!!

カバンもどっかに放り投げて、下駄箱に靴を仕舞う事もできずに靴下のままで廊下を駆け、階段を登る。その間中もずっと聴こえる、建物の壁を挟んでみょうじが「18歳だねいーえーい!!ひゅーがくんばんざーい!!やっほーい!!」と叫んでいる声が…!!ま・じ・で・や・め・ろォぉぉおおおぉぉおぉおおぉおおおお!!!!

扉を開けるとばァん!!と大袈裟な音がした。こっちを振り返ったみょうじが心底驚いた顔をして居ることに、驚き果てた俺でもまだ驚けた…。マジで何その顔…セリフをつけるとすれば「なっ?!日向くん?!なんでここに居るの?!」見たいな顔…信じらんねぇ…

「なっ?!日向くん?!なんでここにっ」
「みょうじお前っよくこんな恥ずかしい事」
「あッ…ぎゃあっ!!」
「?!…っおなまえ!!」

映画見たいにスローモーションに切り替わる俺の視界。ゆっくりとみょうじがのけぞって、伸ばした手がてすりを掴もうと空を掻く。指先がかすったけど、それだけじゃ体を支えられるわけが無い。髪の毛が、嘘みたいにきれいに広がって朝日に輝いく…目が大きく見開かれ、ゆっくり俺の方を見た。体が倒れていく先に、コンクリートの床は無い。女子生徒の叫び声が、ずっと遠くのサイレンみたいに耳をくすぐった。現実味の無い現実に足をすくめてしまいそうになった…始めの一歩はほとんどこけたみたいなもんだ。ただそのお陰で駆け出すことが出来た。

「っの、だアホッ!!」
「ふぇッ日向くッ!!お、おげぇッ!!」

柵を越した向こうのみょうじの首根っこを引っつかむと、とんでもない声を上げやがった…コイツ…マジでシバき倒すぞ…?緊張に、今やっと汗が吹き出てきて肌がちくちく痛んだ。みょうじをぐいっと引き寄せて、1回頭にとびっきりの拳骨をかますと俺を非難するみょうじ…マジこいつ…、助けてやったのになんて態度だ…突き飛ばしてやりてぇ…!!…とか、思いつつも、体はちゃんとみょうじの事を抱きしめてて…ほ、本当に…落ちるかと思った…。落ちなかった事実をしっかり腕に感じて、心臓を落ち着かせる。なんて誕生日だ…こんな朝で始まるだなんて…

「あ、ねぇ…日向、くん?」
「ァア?!まだ、殴られ足りねぇのかよ」
「ごっ、ごめんなさい…!!」
「…あーもー、いいよ…助かってよかった…」
「ね、ねぇ…あのー、ド、ドキドキした?私の愛のメッセージ?」
「…超ドキドキしたっつぅの…」
「えッ?!本当にッ?!やったー!!」
「やっぱも1回殴らせろ」
「えええ?!もう時効でしょ?!」

みょうじを引き上げて、柵の中に戻してやると…な、なんか…どっと疲れた…。まだ朝なのに…。しゃがみこんで脱力して居ると、パンツが見えそうなくらいスカートが短いくせに、余計に危ない角度で俺の事を見下ろすみょうじ。…今度は何しでかそうってんだコイっ…、…んっ……ん、ふっ…ちゅッ……???!!!

「日向くん、お誕生日おめでとうっ!!」
「なっなっな…!!!!みょうじっおまッ??!!」
「今日で18歳なんだからね!!今日中にあと17回ちゅうするからッ!!」

笑顔で「よろしく頼むぜっ」とか言いながら校舎に戻っていくみょうじを、まだ生々しい感触が残る自分の唇を触りながら呆然と見送る事しかできなかった…、本当に…とんでもねぇヤツだ…



!!HAPPY BIRTHDAY 日向くん!!



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