そもそもおっぱいが好きな笠松くん
季節はずれの特大肉まんを両手で支えるみょうじ。熱い熱いと文句を言いながら肉まんを持つ手を左手右手と交互に持ち替えては「ほら!赤くなちゃったー!」と熱で赤く、蒸気で少しだけ蒸れた小さな手を俺に突きつけて、文句なのか自慢なのかは分からんが楽しそうにはしゃいでいる。

「笠松くんは何それ、アメリカンドッグ?ケチャップかけすぎでない?」
「付いてた小袋ぜんぶ使ったらこうなった…」

たっぷりとケチャップ、マスタードにまみれたアメリカンドッグ。少しずつ熱い生地の熱に溶かされてゆるくなって流れて零してしまう…が、どうせここは屋外なのだからそう気に病む事ではないだろう…。注意してきたみょうじだって、さっき思いっきりコーラを零してたし…。炭酸持ってるのに走るなって言うと絶対に駆け出すような変なやつだ。

「そういえばさ、笠松くん巨乳好きってマジ?」
「…むッげほっごほ!」
「お、図星の反応だ」

唐突で不躾で…それでいて心理を突いたかのような質問に、口いっぱいに頬張っていたアメリカンドックと付属のケチャップ・マスタードを一通り吐き出して盛大にむせた。く、くるしい…!!むせた時にケチャップかマスタードの飛沫が気道の可笑しなほうに入っていって呼吸が可笑しくなる。慌てた心臓が気が狂ったようなスピードで脈を打ち始めて、口からは持て余したよだれが垂れた…満身創痍の兵士のようだな…

「うっわ!大丈夫?」

俯いて平常心を取り戻そうとしている俺の背中を、本当に助けようと思ってやってるのかそれとも爆笑に伴う気の高ぶりに任せて殴っているだけなのかは定かではないが…とにかくみょうじが背中をさすって(殴って)くれたおかげで呼吸は楽になった…はぁー…死ぬかと思った…。ため息をつくとみょうじがやっと心配そうな顔をして俺の顔を覗きこんでくる。肉まんは大人しく彼女の膝の上で、少しずつ冷めながら食べられるその瞬間を待ち構えていた…。

「そんなに好きなんだ?巨乳?」
「ちッ…がうっ!!別に俺は…!!」

別に俺は…?巨乳が嫌いな男って居るのか?別に俺は…なんだ?なんて続ければいい?違うとか好きじゃないって、嘘をつくのか?…そもそも巨乳が好きってそんなに懸命になって隠し通さなきゃいけないほど不名誉な事なのか?あ、いや…でも、女子にしてみれば品定めされている様な気がして、それは不満があるのかも知れないな…。あーいやっでも!!みょうじになんていえばいい?巨乳好きだって認めたらまた壊れんばかりに大爆笑されるんじゃねぇのか?…かといって、嘘ついたってなァ…うーん…。

「ま、いいんじゃない?貧乳が好きとかマニアックなほうじゃなくって」

別に俺は…の後の弁解が無かった事を肯定だととったみょうじは、いやらしくニヤニヤ笑いながら待ち構えていた肉まんを手に取った。むにっと白い記事につま先をうずめる。変幻自在の肉まんが、苦しそうにみょうじの手の中で潰れて、ゆっくりと大体等分に真っ二つにされていった。両手に半月の肉まんを掲げるみょうじは、肉まんの中身を見て、満足そうに微笑んだ。湯気が彼女の鼻先をくすぐり…見ている方としてもなんだか切り取ったようなのどかな風景に心の毒気を抜かれて…抜かれて…、…抜かれて欲しかった…!!

みょうじが変な事言うから、なんかもうふたつになった肉まんよりもみょうじの鎖骨の下に位置したふたつの肉まん…学校指定の白いYシャツに包まれた柔らかそうな、その…まるくて謎の重量感を主張する…みょうじの体が気にかかって仕様が無い…!!こ、こんなの…変態みてぇじゃねぇか…!!いや、そ…それでも目が放せないのは…お、俺が…やっぱり、そういう…え、えろい方の人間だって事なのか?!認めたくは無いが…自制できてない現実に、屈辱的な顛末をしぶしぶ受け入れて開き直ろうとしている自分が居るのが悔しい…!!

「まぁなんでもおっきい方がいいよね?私だっておちんちんはおっきい方がいいし」

特大肉まんの片割れを口に運ぶみょうじ…、その発言に物申したいところはたくさんあって、とにかく屋外で女子がそんな事くちに出して言うんじゃねぇよ!!恥じらいを覚えろっ!!と説教の1つもかましたかったんだが、出来なかった…。リップクリームだなんだでぷるぷるに潤った唇が開いて、熱々の肉まんがゆっくり入り込んでいく横顔が…な、なんか…どどどどうして!そ、そんな風に…見える、のか!!自分の視力が心配になるほど、現実が屈折して妄想の種としても忌み嫌うべき破廉恥な事ばかり思い浮かんでくる…!!

「笠松くんはさ…ん?」

見られていたのを見られた…!!し、叱られるだろうか?!あ、いや…単に会話の途中で目があったってだけで…!!みょうじの方は、俺が肉まんを頬張るみょうじの姿を見てどれほど失礼な事を考えていたかなんて知る由もないんだから…俺がどうにかポーカーフェイスを貫き通せば大丈夫…大丈夫だ!!ろう…!!

「何みてんだようっ!!ってかケチャップついたままだ笠松くんっ!!」

肉まんを失った片手の指先で俺の頬をつんと突き押すみょうじは、照れ隠しなのか本気で笑っているのか分かりづらい中途半端な笑い声を上げた。ちょっと眉をしかめたみょうじにしては珍しい笑い顔は、もちろんじっと見て写真に収めたり心のアルバムに大事に閉じたりするに値するだろう素敵な笑顔だったわけだけど…みょうじの可愛い笑った顔を直視できるほどの度胸はないし、情けない事にそれよりも、笑い声にあわせて少しだけ揺れているみょうじの大きくない(そして小さすぎない)胸のほうばっかりが気にかかって本当に自分を恥ずかしく思う…悪ぃみょうじ、ごめん、おっぱい…

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -